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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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なんであんな雪まみれなんだ

「なんであんな雪まみれなんだザコル様は」

「さあなあ……」



 入浴小屋の男湯の入り口横で、幼い男児達を中へ案内している領主子息。それを窓越しにいぶかしげな顔で見守る領民達。


 ザコルは、単に雪まみれというには度を越したいでたちであった。


 全身に湯気を浴びて湿気たまま雪に突入したせいだろうか。髪や服に雪がこれでもかと厚くこびりつき、まるでイエティみたいにモコモコモッサモサになっていた。子供達はこびりついた雪をつついては笑っている。あれ、冷たくないんだろうか。


「外で肉弾戦でもしたんじゃないの」

「あの人が雪の上を転げ回らなくちゃいけねえほどの敵がそうそういるかよ」

「同志のマネジさんは今いないんだったかしら?」


 肉弾戦だとか普段なら何を物騒な話をと思わなくもない内容だが、今は少々状況が違う。


 外で爆発音がして煙が立ち、町長屋敷の中にまでほんのりと異臭が漂っている中ではむしろ呑気すぎる会話に思える。みんな気にならないのかな……。


「いいんですかい、ミカ様。俺達まで相伴に預っちまって」


 そう私に声をかけてくれたのは、シータイでの早朝鍛錬でしばしば見かけていた牧畜家のおじさん達だった。春から秋にかけては放牧場の管理も行なっている彼らだが、今は雪で閉ざされていて仕事が少ないらしい。


 食堂兼編み物部屋にいた民達の中で、お風呂に入りたい人はどうぞと声をかけたらまあまあの行列ができた。彼らが終わったら湯を入れ替えて、屋敷で療養中の怪我人達にも湯を振舞おうと思っている。


「もちろん入っていってください。せっかく使用人の皆さんが支度してくれましたし、魔力もまだまだいっぱいあるので」

「いっぱい?」


 私の言葉に首を傾げたのは、その牧畜家の妻達だった。


「ミカ様ったら、さっき外ですけーとりんくってのを作ってきたところじゃないの。ミリナ様達と二階の窓から見てたけどずいぶんと大きかったし、魔力もたんと使ったでしょうに……」


 ぎくー。


「もう、相変わらず強がりでらっしゃるんだから」

「ミカ様、気持ちは嬉しいが、あまり無理はしねえでくださいよ」

「ご、護衛達が見張っててくれるので大丈夫、です。ありがとうございます」


 シータイの人々の私への理解度が高すぎてつらい。


「それに、さっきから気になってたんだけどそれ、誰かに上着借りたのかい。もしかしてお寒いの?」

「ちょっとお顔が赤いんじゃない、もしかしてお熱でも」


 ぎくぎくー。


「熱はないです。えっと、中の設備を全部熱湯消毒してたら汗だくになっちゃって。後で冷やしたらいけないって、タイタがサッと貸してくれたんです」


 ぱたぱた、手で顔をあおいでみせる。


「まあまあ、流石はタイ様ねえ」

「紳士だわあ。うちのにも見習ってほしいねえ」

「なあに言ってんだ。そんなクセエこと俺がしたって喜ばねえだろお前」


 おお、噂のタイ様隠れファンだ。夫たるおじさん達は達観でもしているのか苦笑気味だ。


 その後、彼女達隠れファンは他の女性達と集まってコソコソ話し始めた。きっと生タイ様を久しぶりに見られた喜びを分かち合っているのだろう。


 しかし、何となく自分を含めた噂話をされているような気がするのだが、自意識過剰だろうか。さっきから断片的に『やっぱり王道が』とか『護衛と姫が』とか『ダークホースが』などと、タイタ一人を推しているにしては不自然なセリフがちょくちょく紛れているような……。


「タイタ、タイタ、はやくはやく! いっしょにおふろ! くふふっ、たのしみ!」

「はは、廊下は走ってはなりませんよイリヤ様」


 ダークホースが!! と強めのつぶやきを聴いた気がするが聴かなかったことにするべきか。


「わっ、これ? これがにゅーよく小屋ってやつ? やねもかべもぜんぶ竹じゃん! すげー」

「町の方々が一から手作りなさったのですよ、ゴーシ様。水害や戦の直後は感染予防のため、ミカ殿を中心に皆様が奔走なされて」


 タイタは着替えや手拭いを持った少年達に付き添い、修学旅行のガイドみたいな説明をしている。そんな彼らの後ろからミリナとララもやってきた。


「ミカ様ったら、先ほどスケートリンクを張ったところですのに。お風呂など沸かして大丈夫なのですか」


 ミリナには早速心配された。


「だ、だいじょぶ、です」


 ちら、私は窓の外に視線をやる。


「? 何を動揺なさって…………ああ!」


 ミリナは窓の外に見える雪まみれのザコルに気づいた。彼女は私達がマウストゥーマウスで魔力をやり取りできると知っている。


「まあまあ、それなら安心……あら」


 そして私の顔がどことなく赤いことにも気づいた。


「ああもうっ、なんておかわいらしいのかしら!」


 ぎゅむ。ミリナに抱き締められる。ララは『なんか分からんがほっこり』みたいな顔で私達を見ている。


 アレだな、ザコルのスイッチを入れたのも変に恥じらって赤くなったせいだな……。簡単にコントロールできるとも思えないが、外では気をつけよう。


「ミカさま、いっしょにはーいーろ!」

「ふふっ、いいよミワ。みんな手拭い借りてきた?」


 はーい!

 いつの間にか集合していた幼女達も手に持った手拭いを掲げた。




つづく

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