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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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足りない

 私がいなくなってから放置され、さらに一週間ほど雪に閉ざされていた入浴小屋は、私達がちょっとくつろいだり出かけたりしている間にきちんと掃除され、木でできた湯船と掛け湯用の水路、差し湯用の樽にまで山盛りの綺麗な雪が入れられていた。

 男湯も女湯も同じように支度されている。懐かしい光景だ。



 さあ早速魔法をと思ったところで、


「ミカ殿。本日は少々魔力を使い込んでおられるように見受けられますが」


 と、タイタに指摘された。

 ちなみにエビーには診療所にいる同志で医師のリュウヘ伝言を頼んだので今はいない。


「ああ、うん。そうかもね」


 身長より高く積もった入浴小屋周りの雪を溶かし、広大なスケートリンクも張った。出がけに魔獣達に魔力を分けてやってもいる。確かに、ここ最近では珍しいくらい魔法を連発していた。


「でも、子供達入れるお湯沸かすくらいなら大丈夫じゃない? 万が一の備えもあるし」


 ちら。タイタはザコルの方を見遣る。


「承知いたしました。では小屋の外でお待ちいたします」


 彼は一礼して下がった。入浴小屋の中には私とザコルの二人が取り残される。


「先に補充しますか」

「えっ、今? ここで? あー……」


 魔力を補充させるために下がったのか。いや、私がそうしたいと言った感じになったか……。


 かあ、と頬が熱くなる。


「……っぐう」

「え、何ですか」


 急にうめいたザコルの顔を見上げる。


「かわいらしくて」

「かっ」


 ぎゅう。


 抱きしめられて、余計に顔や身体が熱くなる。そんな私の頭部にすり寄せられる頬や、背中に回された手もまた温かい。


「ミカが足りない」

「……ふふっ、だから補給しなくていいんですかって、訊いたでしょ」

「我慢も必要かと」

「さっきから、何の我慢なんですかむうっ」


 唇をふさがれる。後頭部を手で押さえられる。


 ……あれ。いつもは救命措置みたいなキスしかしないくせに、今日は角度を変えて何度も何度も何度も…………………………


 はっ!!


 しっかりしろ、と私は儚くも喪失しそうだった心神を必死で呼び戻す。こんなところでキャパオーバーしてる場合じゃない。


「んぁっ、やあ、やめっ」


 何とか口をずらして声に出すと、びた、とザコルが動きを止めた。


「はぁっ、やだ、力が抜け」


 へなへなへな。

 ザコルの腕からずり落ち、座り込んだ私にザコルがざあっと青ざめた。


「すっ、すみませんでした!!」


 どしゃあ、ジャンピング土下座。


 ……どうしよう、困った。何を言えばいいんだろう。

 別に嫌じゃない。けど今じゃない、とか? でも普段から煽りまくってるのは私の方だしな……。相変わらず毎晩添い寝してくれてるし。


「えっと、ザコルはよく耐えてる方だと、思います……?」

「無理に褒めないでくれますか!? そんなことだから僕が調子に乗るんです!!」


 フォローしようとしたら怒られた。


「いや、別にいいんですけど、今はっていう話で」

「今も後もいいわけないだろ!!」


 もっと怒られた。


「……っダメだ、この町は居心地が良すぎる。気を引き締めないと!! いいですか、ミカももっと僕に注意してください!! 次からはタイタも同席させますから!!」

「そんなことしたらタイちゃんが心神喪失しちゃいますよ」


 よっこらせ、と若干ふらつきつつも立ち上がる。


「大丈夫ですか」

「だ、だいじょぶです」


 ふい。ドキドキしてつい顔をそらしてしまった。何となく落ち着かない気分だ。


「あ、魔法魔法。たぶん魔力過多だ、これ」


 目の前の湯船に魔法をかける。山盛りだった雪はあっという間に溶けて、小屋の中はむせかえるほどに湯気が立ち込めた。というか温めすぎた。ほぼ熱湯だ。これでは幼児がゆだってしまう。


「雪の追加を持ってきます」

「あ、別に」


 ダッ、私が止めるのも構わず、ザコルは転がっていた樽を持って小屋の外に出ていった。







 タイタは小屋の外ではなく、屋敷の中で待っていた。厳密には窓から小屋が見える廊下に立っていた。


「いつにも増して湯煙が多いように見受けられましたが、何かございましたか」

「え、えへ、しばらく使ってなかったから、湯船とか全部消毒した方がいいよねって、一旦熱湯にしたんだ」


 方便でもあり本当でもある。この際なので全て熱湯消毒してから湯温を調節しておいた。


「そうでございましたか。少々汗をかかれているご様子。ユキ殿」

「はい。ただ今、お茶をご用意いたします」


 タイタと同じく廊下に控えていたメイドのユキが一礼して立ち去る。


「して、ザコル殿は?」

「えっと、心頭滅却だとか言って雪に突っ込んでいっちゃった」

「は、まさかこの雪壁に?」


 タイタは、人の身長はもちろん小屋の屋根よりも高く、コの字型の庭いっぱいに積もった雪を見上げる。


「あのザコル殿でも深い雪に埋もれるのは危険と聞きましたが」

「新雪ほどさらさらしてないから大丈夫、だと思いたい」


 新雪が危険なのは、さらさらと固まりにくく、まるで流砂のように人を飲み込んでしまうからだ。


 積もってから数日経って重くなった雪ならば、新雪よりはまだマシ、だと思いたい。ザコルも雪国の人だし流石に危険度くらいは判断できるはず、だと思いたい。


 だら、かいた汗がこめかみをくすぐる。


「……あと五分して戻ってこなかったらアレ全部溶かす」

「アレを全部、でしょうか。失礼ながら、魔力の残量は」

「大丈夫。一度過多起こしかけたくらい満タンだから」


 かあ、せっかく引いた熱が戻ってきた。


 ばさ、タイタが上着を脱いで私にかけてくれた。いつもなら断るのだが、今日はありがたく受け取って頭からかぶった。




つづく

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