実は忍ぶ気ゼロか?
バタバタ、慌てて出てきたメイド長や料理長、ユキ達若手の使用人の皆に誘導され、子供達とともに町長屋敷の中へと避難する。
「ミイ、ミイ」
小声で話しかけると、私の懐から白リスがヒョッコリと出てきた。
ミイ?
「ちょっとお願いがあるんだけどさ。さっき音のした方、探ってきてくれないかな。あとでいいもの作ってあげるから」
ミイミイ?
「そうそういいもの。甘くて冷たくてシャリっとしてて」
ミイミイミイ。
「えっ、フラッペ飽きた? じゃあじゃあ温かい料理でもいいから! 服とか帽子とかでもいいよ!」
ミイ、ミイミイ。
どろん。
ミイは『仕方ない、行ってきてやる』と言い残して消えた。
「ちょい、いつの間に俺のマブ懐に入れてたんすか。どーりで今日胸でけーなと思っ」
「だまらっしゃい」
げしっ。
「ってえ!!」
ザコルに蹴られて悶絶するチャラ男を見下ろす。
「大体エビーのじゃないでしょうが。ちゃんとミリナ様の許可もらってるよ。ついてくって言い張ったのはミイだけど」
リス型魔獣のミイは、その女がうっかり死なねえように見張っとけ、とコマに言われて自主的についてきている。とはいえ、ミイは魔力に関する知識が豊富だし、空間渡り能力もあるのでついてきてくれて私も心強い。
「おいユーカちゃんよう、さっきから思ってたが、実は忍ぶ気ゼロか?」
じと。疑いの目を向けられた。
「ゼロじゃありませんよバットさん。六割、いや七割くらいは忍べていたはずです」
「残り三割は」
「さっき集会所行ってきたメンバーで隠し切れてると思います?」
バットは、イリヤとゴーシにお上品な声かけをしているタイタと、未だに口をつぐんでいるザコルの方を見遣った。
「まあ、メンバーは最悪だな」
「ふふ。最高って言ってくれません?」
絶妙に怪しい感じをどう出そうかなどと考えるべくもなかった。そういえば、前もこのメンツで大根コントをしたことがあったなと思い出す。
ザコルは黙って単独行動するならいくらでも忍べるが、集団行動で口を開くと途端にボロが出る。タイタはセリフは完璧に覚えられるが、ニコニコしている以外の感情表現とアドリブは苦手である。そして私のユーカ演技も観察不足により中途半端。
結論。色々考えて赤帽子を用意してくれた女子達には申し訳ないくらい怪しい三人組が出来上がってしまった。
気配を消してついてくる影達には、私達のまわりでも怪しい動きをするものがあれば、作戦実行中のパパママ軍団に報告するように伝えてある。まだ戦闘行為にまでは発展していないようだが。
「とはいえ、あっちのちゃんとした影武者チームの方が注目集めてるんじゃないですか。本物より本物っぽかったですし。で、何が暴れたんですかねえ」
「身一つであんな轟音を立てられるヤツなんていくらもいねーだろ」
バットの言う通り、今思いつく限りの候補は限られる。
シータイには前科者のサカシータ一族が一人更生カリキュラムを受けさせられている。
が、彼は元々あまりパワーオブパワーで暴れるタイプではない。それに、更生というか洗脳の進捗は順調であると報告ももらっている。それでも、彼が病的なまでに執着していた双子の兄がここにいるので、何かのきっかけで自棄を起こすことはあるかもしれない。
それから、今この町には大型魔獣が二匹いる。彼らがミリナの指示にない行動を突然するとは考えにくいが……。
くん、ザコルがまだ開いている玄関扉から、外気のにおいを嗅ぐ。
「どうしましたハンゾウさん」
「これは、人力によるものではありません。きな臭いです」
「きな臭いって、そりゃ……」
「比喩ではありません」
比喩でなく、きな臭い。
しばらくするとにおいが濃くなり、空に立ち上る煙も見え、ザコルの言っていた意味が解るようになった。
「マージ」
「はいコリー坊っちゃま」
シュバ。
シータイの現町長、マージがザコルの声かけに素早くも優雅に現れた。
「……今までどこに潜んでいたんですか。というか、あれの様子を見に行かなくていいんですか」
「必要な手は回しておりますわ。わたくし、賓客のいる屋敷を離れるわけに参りませんの」
「確かに。うちの父にも見習って欲しいですね。で、あれは何ですか」
「現在調査中でございます。イーリア様も向かわれました」
「そうですか」
それ以上訊いても情報は得られないと悟ったか、ザコルは会話を打ち切った。
「とーちゃんとーちゃん、さっきのなにあれ!」
「けむりがみえたよ!!」
好奇心旺盛な幼児達が騒いでいる。
「いいかお前ら、今回ばかりはぜってえ行っちゃなんねえぞ。守れねえなら檻にぶち込むからな」
ええーっ、ガットとミワ、その他の幼児達も不満の声を上げる。
「さあみんな、今からホンモノのミカに戻るから一緒に遊ぼっか。お絵描き大会でもする? それかお風呂にでも入」
『おふろー!!』
わちゃわちゃしていた子供達の声が食い気味に揃った。
つづく




