表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

499/576

はい、黙ります

「ゆきだまほうはっしゃ!! くらえゴーシーっ」

「あーっ、やりやがったなガット! こっちもゆきだまほういくぞ、はっしゃあ!!」


 わーっ、ギャハハ、ケタケタ。


「くぉら、ゴーシ様だろてめー、せめて呼び方くらいちゃんとしやがれガットォーっ」


 ガット父、バットの怒号が飛ぶ。だがゴーシは「いーよいーよ」と明るく叫び返した。


「あそんでる時はよびすてでいーよ! つか『さま』とかまだぜんぜんなれねーしっ! ガット! お前けっこうつえーじゃん、さすがイリヤのトモダチだなあ!」


 ゴーシとガットが仲良くなってる……。ゴーシは分別ある方だが、根っこはガットと同じくヤンチャボーイだ。


「ミワ、こうやって手をつないで、ぼくがうしろ向きににすべるから、ミワは足を合わせてついてきてね!」

「うん! わあ、ミカさまとドングリせんせーがやってたダンスみたい! たのしい!」

「僕も楽しいよ、ミワ」


 にっこり。

 イリヤの優しげな笑顔に、ミワも照れたようにはにかんだ。


 彼らはフィギュアスケートのペアみたいな遊びをしていた。イリヤは恋愛ごとの話をすると思いっきり照れて逃げようとする割に、歳下女子への振る舞いは完全に少女漫画のヒーローである。


「素晴らしいエスコートです! イリヤ様!」

「えへへ、ありがとうタ……えっと、ちょうみんのひと!」


 教育係は満足そうに手を叩いている。第二のスパダリを生み出そうとしているようだ。


 他の幼児達も思い思いに滑ったり、イリヤやゴーシに遊んでとせがみに行ったりと楽しく遊んでいる。


「おーい、そこ喧嘩すんな並べー、ゴーシ様は分身できねーぞー」


 監視員から注意が飛ぶ。


「みんな楽しそうですね、ゴーシ様も馴染めたみたいだし。ありがとうございますエビーさん」


 私は監視員もとい、後方腕組みお兄ちゃんヅラのエビーに声をかける。


「あ、おかえりユーカちゃん。ゴーシ様は最初、怖がらせちゃ悪いみたいな感じで距離測ってたんだけどよ、そこはあのガットとミワちゃんでさ。初対面だっつうのにフツーに全力で飛びかかってったわ。馴染みの先生と顔が似てっからかなあ」


 ちら。エビーは町民に扮したドングリ先生の方に視線をやる。


「全くあいつらときたら、サカシータ一族の方なら何してもびくともしねーって学習しちまったんだ」


 はあ、とバットが眉間を揉む。


「へへっ、怖いもの知らずっつうか、良くも悪くもサカシータ一族への扱いが雑なんすよねえ。でもよ、あの坊にはそれがよかったんじゃねーすか」


 過去、子供同士のトラブルでも色々あったらしいゴーシは、幼児達が遠慮容赦なくぶつかってきてくれることが嬉しかったのだろう。もちろん手加減はしているようだが、素の自分で楽しめているのがその笑顔から伝わってくる。


「ま、全部ザコル様が甘やかすせいだな!」


 どーん。

 父親であるバットの責任転嫁にザコルが怪訝な顔をする。


「僕の……ザコル、様のせい、ですか?」

「ふふ、ハンゾウさんは黙ってた方が『上手』ですねえ」

「はい、黙ります」


 ザコルは即お口チャックした。

 セリフのある演技は苦手だと常から自己申告している彼である。


「ハンゾウ? ああ、ハンゾウか。その方がいい。あれじゃバレバレだかんな」


 シショーというあだ名は案外広まっていたようで、バットも偽名としては不適切だと感じていたらしい。


「そーいや、黙ってるのと気配消すのは得意だが、嘘とか演技とかはできねえっつってたな。何でもできちまいそうなアンタにも、苦手なもんがあってなんか安心すんぜ」


 バットの言葉に、ザコルは黙って首を横に振った。


「……? 何だ?」

「苦手なものだらけです、って言いたいみたいです」


 うんうんうん。私の通訳に激しく同意している。


「ふはっ、ホントかぁ? 例えば他に何があんだよ。ダンスも得意になっちまったしよ」


 ちら。代わりに答えてくれと視線で頼まれる。


「うーん、そうですねえ、多分、王都は色んな意味で苦手だと思います。知らない人がいっぱいいる場所とか、高い音や大きな音も苦手ですよね」


 うんうんうん。首がもげるほど同意している。


「絵も苦手らしいんですけど、描いて見せてくれたことはありません。そして私の絵心のなさや造形心のなさをディスってきます。どーせ私は呪物生産機ですよ」


 ブンブンブン。激しく否定している。


「あと塩辛すぎるものも苦手ですよね。気が進まないことを我慢したり、興味のないことを覚えたりするのも。それなのに、故郷への仕送りのために王都で頑張ってて偉かったですね」


 ぱあ。心なしか目が輝く。


 手を伸ばして頭をいーこいーこしたかったが、ユーカの影武者として、彼女の身内でも恋人でもない町民男性の頭を撫でるのはおかしいのでやめた。


「ふふ、これからはもう何にも我慢しなくていいんですよ。もはやレース編んでるだけでも仕送り目標額は充分達成できそうですし」


 ふるふるふる。やんわり否定。


「レース編むの嫌なんですか?」


 ふるふるふる。


「?」


 じっ。こちらを見つめてきた。何が言いたいんだろう。


「その変態は我慢してえんすよ」

「我慢したい……? 何を」




 ドオオオォォォォン!!




「えっ」


 皆が一斉に振り返る。この展開、非常にデジャヴだ。


 また何が暴れ出したのかと駆け出そうとしたら、首根っこを掴まれて「ぐえ」とのどが締まった。




つづく

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ