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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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信じられない気持ち半分信じたい気持ち半分

 料理長は逃げないどころか玄関扉のすぐ内側で待っていたらしく、開けたらいきなり顔があってララと少年達が「わっ」と声を上げた。



「全く、厨房で待っていなさいと言いましたのに」

「はっは、すいません待ちきれず。と言いますか、本当にいらっしゃるのかと信じられない気持ち半分信じたい気持ち半分で」

「へへっ、相変わらず落ち着きないすねえ料理長は」

「エ……ッ」

「りょーりちょー!!」

「ふぐぉっ」


 ドンガラガッシャーン。


 エビーの顔を見て一瞬動きを止めた料理長の胴にイリヤのボディーブローが決まった。いや、抱きつきにいっただけなのだが、料理長は後方に三メートルくらい飛んで壁にぶつかった。


「あれ……?」

「きゃああ、何をするのイリヤ!」

「ふぇっ、わっ、ごっ、ごめんなさい!!」

「あらまあ」


 ミリナの悲鳴に、イリヤがテンションの上がりすぎをやっと自覚した。マージは小首を傾げただけだったが。


「もももも申し訳ありません料理長さん! お怪我は!?」

「ミリナ様、料理長の油断が原因ですから。お気になさらず」


 メイド長はもはや様子を見ることさえしない。


「でも」


 ぱら、わずかにヒビの入った壁のカケラが床に落ちる。料理長は頭をガシガシとかいてあっさり身を起こす。


「今のは、イリヤ様でしたか! 見違えました! あんなに痩せていたお子が! 見ない間に大きくなられましたね、顔色も良くなって……ふごっ」

「泣いてるのりょーりちょー!? 僕のせいでごめんなさい、どこかいたい?」

「いえこの程度ヘッチャラでございますよ! 料理長は、嬉しくって泣いているんです。イリヤ様とミリナ様がお元気そうで、本当によかったと……っ、はははっ!」


 泣き笑いの料理長にイリヤがホッと胸を撫で下ろす。言葉通り、目立った怪我はなさそうだ。


「りょーりちょー、あのね、僕ね、兄さまができたんだよ! ゴーシ兄さまっていうの」

「えっ、兄様? イリヤ様にですか」

「はい! ゴーシ兄さま、この人がりょーりちょーです!」


 その時、初めてゴーシの顔をまともに見た料理長が目を見開く。


「こっ、この方は、まさか」

「えっ、えっと、ゴーシです。えっと……」


 ゴーシは父親の名を言うかどうか迷っているようだった。


「まさかザコル様の!?」

「ちがっ」

「違います。その目、疑わないでくれますか。この子は甥ですよ。イリヤと同じく、僕の大事な甥です。こちらは義妹のララです」

「義妹」


「料理長。あなた、説明したはずでしょう」


 コソコソ。メイド長が耳打ちする。


「ああっ、そうだ、そうでした!! あまりに似ていて混乱を。大変失礼いたしましたゴーシ様、ララ様」


 料理長はあまりザハリと面識がないのだろう。父親が双子なのでゴーシがザコルに似ているのは当たり前なのだが、彼の中でこの顔といえばザコルなのだ。


「いもうともできたんだ。リコっていうんだけど、今日はおるすばんなの。僕ね、きょうだいができて、本当にうれしいんだ!」


 ドスッ、イリヤはそう言ってきょうだいに飛びついてみせた。料理長とは違い、ゴーシはびくともしない。


「イリヤ、おれとか、おじさまとか、おじいさまいがいにそれやっちゃダメだぞ。きもちは分かるけど、おちつけ、な?」

「はい。うれしすぎてわすれちゃいました。気をつけます」

「さいきん、何かこわしてもほめられるばっかでマヒしてんだよなあ……。マジで気をつけよーぜ」


 子爵邸で壁を吹っ飛ばしたら宴が開かれてしまったゴーシがしみじみと言うので、私は思わずふふっ、と笑ってしまった。


「その声、ミ……」

「おい料理長。いつまで玄関占領してんだ。皆様が入ってこられねーだろが」

「そうよ! 外で騒いじゃいけないっていうからみんな中で待ってんのにさ!」

「てめーは厨房につながれてろ」

「ちょっ、やめ」


 ずるずるずる。


「ささ、どーぞどーぞ。食堂で蜂蜜牛乳にしますか、それとも先に入浴小屋にしますか!」


 使用人でもない、ただの町民が我が物顔で先導を買って出たので、私とついでにエビーは堪えきれずに吹き出した。





「お前ら先に食堂行ってろ。俺は入浴小屋に寄ってから行く」


 私が斜に構えてそう言うと、イーリアが『お手伝いして差し上げろ』と側近達に促した。


「待て待て。俺らに先導させろミ……じゃねえ、コマさんよお」


 勝手知ったる屋敷なので案内はいらないのだが、町民達は二手に分かれて私の方にもついてきた。


「ご案内は使用人の仕事です」


 廊下の端からぴょこっと小柄なメイドが顔を出す。


「ユキ!」

「ミカ様!」


 ひしい。私達は廊下の真ん中で抱き合った。


「あーっ、バラしちまったなあ」


 私達についてきた町民達が苦笑する。


「つーかなんで屋敷の中でまでコマさんのフリしてんだミカ様」

「ノリですよノリ。皆さんだって影武者コンテスト開催してたらしいじゃないですか」

「おうともよ。ちなみにザコル様の影武者一位はこの俺だ!」


 どーん、と自分の胸を叩いたのはガットの父、バットだった。


「何が一位だ、該当者なしの同列一位だろがお前」

「殿堂入りが別格すぎて他が有象無象にしか見えねえんだよなあ」

「誰が有象無象だ! あのバケモンと比べんじゃねえ!」


 殿堂入りのバケモンとはもしかしなくともマネジのことだろう。確かに気配までザコルそのものだった。バケモンと呼ぶに相応しい再現ぶりである。


「モノホンのコマさんはどーしたんだよ」

「用事があるらしくて、シシ先生と仲良く子爵邸に残ってますよ」

「そーだ、うちの町医者先生はいつ戻ってくんだよ。リュウ先生がずーっと働き通しだぞ」

「あ」


 そうだ。リュウのことをすっかり忘れていた。子爵邸に遊びにこないのかなと呑気に思っていたが、シシもコマもいない状況では彼が診療所に詰める他ない。


「後でお詫びに行きましょう」

「そうですね」


 せめて推しを供給してあげなければなるまい。




つづく

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