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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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渾身の出来でございますぞ!

 言うことをきけ、と言われて案内されたのは先ほどザコルとマネジが氷塊をぶった斬った大広場であった。


 私は犯人の要求通り、氷塊のオブジェ、というか氷柱の残骸が残るその広場に魔法をかけ、大きなスケートリンクを張った。周りでワッと歓声が上がる。


「どーぞ、滑っていいですよおー、転んで頭打たないように気をつけてー」


 私が声をかけると、街の人々が大喜びで氷の上に乗り出す。大人も子供もみんな笑顔だ。


「皆喜んでよかったですねミカ」

「あ、はい。よく分かんないですけどよかったです」


 スケートリンクはどこで作っても好評だし、私も頼まれれば喜んで作ったと思う。なぜ脅される必要があったのか。


「言うことを聞いてくださった公式聖女様にはこちらを贈呈します!」


 ずい。


 犯人、というか犯人達が何かの箱を押し付けるようにして差し出してきた。全員がキラキラとした期待の目でこちらを見ている。


「景品ですか? ありがとうございます。ここで開けろ、ってことですかね。はい開けます」


 視線の圧がすごいので早速リボンに手をかけた。深緑色の上等そうなサテンのリボンだ。


「綺麗なリボンですね」

「髪に結びましょうか」


 ザコルが私の手からリボンを取って髪をいじり始めた。その様子を見た民の皆さんが若干ざわつくのも定期だ。


 リボンを取った木箱を開けると、中に入っていた身長二十センチほどの深緑色の服を着た人形と目が合った。


 厚地のマントに、この国では馴染みのない形の襟元。革で作ったミニチュアのベルトを腰に巻いている。焦茶色の髪は絹糸、茶と榛が混じり合う瞳は繊細な筆使いによって表現され、頭にはマークの入った小さな額当てが…………


 私は人形の入った箱を掴んだまま固まった。蓋がするりと手からすべり、トシャッ、と雪の上に落ちる。


「ふぃっ」

「? ミカ、何をもらったんで…………」


 私の手の中をのぞき込んだザコルまでもが硬直する。


「ふっふっふ。渾身の出来でございますぞ!」

「流石は大商会ですなあ、造形師にまで伝手があろうとは」

「制作に一ヶ月でしたか。構想、運搬などの日程も含めると実質作業時間は二週間もなかったとか」

「短納期の割に想像の五万倍は上をゆくクォリティで若干引きましたな」

「神はここにいたかと」


 わいわい。


「本当はもっと大掛かりな宝探しイベを計画していたのですが、斬馬剣の試し斬りにサカシータ一族専用武器倉庫見学、街中ゲリラ雪合戦と、魅力的なイベント目白押しで時間が押してしまいましてなあ。やはり公式聖女様の生み出す企画は強い!」


 斬馬剣の公開試し斬りイベントと街中ゲリラ雪合戦はザコルが始めたことである。きっかけは私のリクエストとはいえ。


「今日を逃すとミリナ様ララ様ルル様が作るアミグルミに先を越されそうでしたからな、とにかく先にこれだけはお渡しせねばと」

「しかし時間がないとはいえ、我々から直接ミカ様への貢ぎ物をするのは猟犬様のご機嫌を損ねるだろうと、さるお方にご助言いただきまして。一応景品という形を取るためにあのような茶番劇に」

「茶番劇って、ロクな台本もなく演じさせられた身にもなってくれよ! 人質役の方にも散々文句を言われるし!」


 プンスカする犯人役、もといマネジに、共犯の同志達が笑う。


「で、人質って結局誰だったんすか? 俺らからだと逆光で顔とか全然判んなかったんすけど」


 エビーが同志側にいるタイタをつつく。


「あちらにおられるぞ。婚約者のある女性に貢ぎ物はよくないとご助言なさったのもあの方だ」


 タイタが示した先に、やれやれとベンチに座り込む人がいた。なぜか隣にオーレンが付き添っている。会合だろうか。


「いやシシ先生じゃねーっすか、なんでこんなとこで茶番に巻き込まれてんすか?」

「それは私が訊きたい!!」


 シシは眉間を揉みながら絶叫した。

 どんな流れかは分からないが、同志達に貢ぎ物の件を助言したら茶番に巻き込まれたらしい。あんな高い塔の上で人質ごっこなんて、身体能力抜群のマネジはともかくシシはさぞ怖かっただろう。


「シシ君ね、ミカさんが怪我でもしたら、って心配で追ってきたらしいんだよ」

「はあ? マジすかオーレン様、このタヌキジジイが?」


 くわっ。シシは目を剥いた。


「誰がタヌキジジイか! しっ、仕方ないだろう! ただ忍びで買い物にでも行くのかと思って見送ったが、聞けば影も穴熊も、ジーロ様率いる小隊まで出動して厳戒態勢を敷いているというじゃないか。中央の街はいつから戦場になったのかと」


 中央の街、領都ソメーバミャーコの別名である。領都住みではない地方の人は、この街のことを『中央』と呼んでいるのだ。おそらくソメーバミャーコが呼びづらいせいだと思う。


「心配する気持ちは解りますけどお、うちの姐さん、多分シシ先生より強えすよ」


 身も蓋もないことを言わないであげてほしい。


「そんなことは解っている! だが、何かあった時にその方を診られる人間は限られているだろう。しかもこんなジジイ相手に、今夜盤上遊戯などして遊びましょうなどとおっしゃっていたことが、妙に心をざわつかせて」


「あー、何か不吉なこと言い残してったんすね。しょーがねーな、うちの人たらし姫は」


 不吉とか言うな。私は別に死亡フラグのつもりでシシを遊びに誘ったわけではない。あと私も戦場だと思って街に出てきたわけじゃない。呑気に物産展で先生にお土産を買ってましたなどと言ったら、きっと呆れられることだろう。


 私は再び手元に目を戻す。眩しすぎて直視できなかったが、周りを一通りうかがったらちょっとだけ気持ちが落ち着いた。


「……………………」

「ミカ、ミカ」


 さっ、さっ、と目の前を手の平が往復する。しかし私は今度こそ、箱の中身から目を逸らせなくなった。




つづく

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