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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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返してほしくば言うことを聞いてくださいお願いします!!

 ポクポクポク。


 クリナに乗る私達二人の周りに、エビーとタイタの馬を含む『いつめん』達が位置取る。

 時間的に今日はこのまま帰宅となるのだろう。そういえば、同志達が何か隠している風だったのは何だったんだろう。



「ミカの、それはわざとなんですか」

「何がですか?」

「ぼ、僕を、貸し出そうとした、こととか」


 ぷるぷる。


「? なんで捨てられた子犬みたいな顔するんですか? ザコルを貸そうとした覚えはないですよ。デリケートな話ですし、私が駄目なら、代わりはせめてこの件の当事者であるべきかと思っただけです」

「そうですか。……いえ、確かにそうですね。すみません、我が家のことで気を遣わせて」

「いいえ。頼ってくれて嬉しいですよ。それに、不安にさせたみたいでごめんなさい。できる限りのことをしていきましょうね」


 いーこいーこ。


「……まあ、兄貴が不憫なのは定期として。前から思ってたけどよ、男女同室にあんま抵抗ないのって価値観の違いってやつだよな」

「エビー、それは」


 うんうんうん。エビーの言葉にタイタ以外の皆が揃って首を縦に振る。


「ちょっと、私が異界娘だから二人っきりになれって言ったんじゃないよ? さっきも言ったけど、ザコルの方が当事者に近いから薦めただけであって」

「へー? 姫様ってば前に、猟犬殿に何人侍ろうとも私の愛が薄まることはありません、とか言ってたらしーじゃないですかー。俺はてっきり姫様直々に『妾』当てがってやるつもりなのかなーって」


 ふひひ。ベシャ、下卑た笑みを浮かべるサゴシの頭に雪玉が命中した。


「んなわけないでしょ。大体、私が言ったからってメリーがザコルに侍ると思う?」

「全然思いません」

「でしょ」


 サゴシはメリーからの雪玉集中砲火を避けることもなく全弾被弾している。ちょっと嬉しそうなのがまた気持ち悪くて最高だ。あれならメリーも遠慮なく感情をぶつけにいけるだろう。


「ミカ殿が、ザコル殿とメリー殿のお二人を心から信用なさっている。それだけのことでございましょう?」

「まあ、そうだね。この二人は特にあり得ないと思うかな」


 恋人でもない男女を二人っきりにすることに関しては、異界(日本)の女子でもそこそこ気にする人はいる。が、他ならぬこのザコルがメリーと浮気するかと言ったら、可能性は果てしなくゼロに近い。というかゼロだ。これは断言できる。


 まずメリーが十五歳で幼すぎるというのが第一だが、ザコルから見てメリーはザハリの相手の実妹であり、血はつながらないとはいえ親戚の子なのだ。うちのピは間違ってもそんな子に手を出すようなクズではない。


 根拠はそれで充分といえば充分だが、可能性ゼロと考える理由は他にもある。手を出すためには、私を神と断言して憚らない狂信者を短時間で口説き落とす必要があるのだ。しかもメリーは今や『陰』に転じた闇の力保持者。洗脳も効きにくい。


 それでも、このザコルが本気で闇の力を使えば彼女のポテンシャルを上回って魅了することも可能……かもしれないが、問題は彼自身にもある。未だに私から抱きつかれただけで硬直して逃げ腰になる人が、数十分程度女の子と二人きりになったからといって親密な仲になれるだろうか。答えは否だ。


「そうそう、うちの子と仲良くなりたいならまず昼下がりのベンチに座って老人会的な会合から始めてもらわないと」

「馬鹿にしていますね? 僕だって」

「私にしか興味ない、それ以外は有象無象だって言ってたのは嘘なんですか?」

「……真実です」

「ふふっ。ほら、やっぱりあり得ない」


 ぎゅう。


「馬上で首に巻き付くな」


 べり。通常運転である。


「不憫定期」


 ヒュン、串か何かがエビーに飛ぶ。


「お前はニマニマしてんなよ思春期。さっきの泣きそーな顔はどこ行った」

「至高の時間を邪魔するな失せろくださいサゴシ様。そっちこそ卑猥な顔で崇高なるお二人を見つめないでいただけますか」

「イチャついてたら俄然見るだろ」

「はは、仲がおよろしいですね」

「タイさんも同類だかんな? ニッコニッコしやがって。なあペータ少年」

「僕からは何とも……」


 クリナ、キント、ワグリの馬氏達は何やらぶるるん、と鳴き合っている、ように見える。あいつら何やってんだろーな的な雑談でもしているのかもしれない。



 そっ、私は腕に着けたブレスレットのビーズをなぞる。


 色々あったけど、こんな風に一日中遊んだのなんていつぶりだろう。

 曲者退治や演習に勤しんでいた人々や、途中からデートどころじゃなくなったメリーの事を思うと不謹慎かとは思うが、まだ終わってほしくないなあ……。



「終わらせませぬぞ」

「えっ」



 日が傾きかけた街で、不穏な一言が耳に入る。

 視界の先、鐘のついた塔的な建物の上に、深緑色の布がはためいた。


「ふはははははは!! 人質はここだ!!」

「人質!?」


 よく目を凝らすと、何やら深緑色の布を着けた白装束が誰かをガッチリとホールドして仁王立ちしている。


「えっ、誰が? 誰が誰を人質に?」


 塔は私達から見ると逆光の位置に立っていて、塔の上で叫んでいる犯人の顔も、人質となっている人の顔も、どちらもよく見えなかった。


「返してほしくば言うことを聞いてくださいお願いします!!」

「懇願しちゃってる」


 また何の茶番だろうか。既にグダグダ臭がすごいのだが。


「たっ、大変だあー、これは言うことを聞かないと大変なことになります! いかがいたしましょう、ミカ殿」

「あ、私が言うこと聞くのね?」


 いきなり棒読みで叫び始めたタイタを振り返る。どうやら脅されているのは私らしい。エビーは口を押さえて明後日の方向を見ている。


「あ、じゃあ俺らは影なんで消えますねー」

「ちょっ」


 シュバ。

 サゴシはメリーとペータを連れて消えた。




つづく

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