そうして矢の雨の中でも平然と立っていたのだろうな、お前は
雪玉が飛び交う空を見上げる。私はクリナに背をつけ、彼女にくくりつけていた弓と矢筒をそっと外した。
相手が何かアクションを起こしたら即座に構えようと矢を一本引き抜いた所で、三階建ての建物の上部で相手が倒れるのを見た。
しばらくして、それの首根っこを掴んで姿を現したはジーロだった。彼が引きずってきたものを雑に投げると、影の一人が速やかにそれを回収し、姿を消した。
「貴殿まで羽虫退治に参加する必要はないと言ったろうが」
「念の為ですよ。見つけちゃったものですから」
「大体、姫を放ったらかして何を遊んでいるんだアイツは」
ジーロはそう言って飛んで来た雪玉を素手ではたく。
「壁走りは私のリクエストですから。それに、護りは完璧です。だってこの雪玉、さっきから私を狙ってるんですよ。ほら、みんな頑張って私に当たらないようにしてるでしょう?」
ザコルが攻撃しているのは、明確に私の周りを陣取っている人々だった。
避けたら私に当たるという絶妙な軌道で雪玉レーザーが飛んでくるので、みんな腕や武器を使って必死にガードしながら反撃している。どれくらい必死かというと、もはや誰も何も言えないくらいの必死さだ。
私のかたわらに来たジーロにも雪玉が次々と飛んでくるようになった。
「なるほど? 誰も盾を辞められん状況か。おい、俺ばかり狙い撃ちするなザコル!!」
誰も盾を辞められない。ジーロの言う通りだが、後から出てきた影達はフリーに動いている。
ザコルは雪玉に紛れさせてたまに本物の武器も投げている。影達はザコルを雪玉で狙いつつ、ザコルが仕留めた曲者を回収しているのだ。
突然始まった銃撃戦ならぬ雪撃戦に、窓からのぞいている子供達はみんな大興奮。商店街の住民達は雪玉を何とかザコルに当てようと四苦八苦しているが、みんな笑顔だ。こんな乱闘のさなかでは曲者の一人や二人倒れたところで非戦闘員には分かるまい。
彼らを怖がらせないようにという、ザコルなりの配慮なのだと思う。
「曲者にも分かりやすく隙を作ってあげてるんですよね。私を誘拐するのが目的なら今じゃないでしょうけど、私を害するのが目的なら今くらいの混乱時がチャンスです。ザコルも離れてるし」
「冷静だな……。狙われて怖くはないのか」
「怖い? ザコルが張った罠の中にいるんですよ、むしろどこよりも安全ですよね。でも、やることないので上からの襲撃だけ警戒してます」
ジーロは私と一緒に、雪玉飛び交う天を仰ぐ。よく晴れた、雲一つない冬の空。
「ふむ。そうして矢の雨の中でも平然と立っていたのだろうな、お前は」
「平然となんてしてないですよ。でも今みたいに盾に護られてたからやることなくて、それっぽい顔してダガー構えてました。こんな感じで」
ふざけて短刀を構えてみせた瞬間、丁度頭上から雪玉が降ってきたので真っ二つに切り裂く。
「シータイに遊びに行く前に意識高めとけってことかな。ふふっ、デートっていうか演習ですよね」
「楽しいか?」
「はい。こんな楽しいデート生まれて初めてです」
「ふはっ、はははっ、流石は異界娘だ。頭上の警戒はそのまま怠るなよ」
ジーロは大笑いしながら建物の間に消えていった。
デートというより演習、これはどうやら正解のようだ。
影と同志達が私の周りを警戒、怪しい者がいれば排除。穴熊は姿を現さないが曲者の処理などで暗躍しているようである。ジーロと領都警備隊の騎士達はさしずめ、他領の騎士団役といったところか。
囮は私だけではない。新参者ながら魔獣を束ねて領内でも力を見せつけているミリナや、最近女性コミュニティの間で陰口を叩かれているララとルル、以前から元ザハリファンに追い回されているゴーシやリコもそうだ。そんな囮達を匿う領主夫妻とて、全く恨みを買っていないことはないだろう。
影達が実際に領外で行うのは邪教のアジト調査であって囮を使った曲者掃討作戦ではないが、こうした演習はお互いの理解を深めるにはもってこいの機会である。そして、我々はきちんと街に溶け込めるぞと、彼らを心配する私に知らしめてくれてもいるのだ。
「実力は心配してないんだけどなあ……」
私ごときが彼らの実力を疑うなんて失礼にも程がある。心配しているのはそこじゃない。
ふと、さっきザラミーアがやってみせた集団洗脳を思い出す。あれもデモンストレーションか?
「まさか、領外でも有象無象を一ヶ所に集めて洗脳集会を行うつもりじゃ」
いかにもやりそうだ。闇の力、つまり『陰』の能力を持った影が集まれば不可能じゃないだろうし効率もいい。集会開くとかめちゃくちゃ目立ちそうだけど…………
「…………うん、もう心配しすぎるのはやめよう」
ここらが潮時だ。私も意識を変えていかないといけない。
自分がついていけない以上、ある程度の指示をして、あとは好きにやってこい、くらいのことを言えるようにならないと。もちろん、何でも許していいわけじゃないが、禁止事項は定めた上で、私の目の届かないところで抜け道をつつくくらいのことは目こぼししていかないと。
というか、それ、私だ。イーリアがいつも目こぼししてくれているが、ほぼ私の所業である。黙って実行して後でいいように言い訳するところまで含めて私である。
「イーリア様に優しくしよう……」
今日の催しは、演習込みとはいえ、私の気分転換と同志接待がメインの目的のはずだ。
今日もサカシータ家の厚意に感謝しつつ。
私は、たまに思い出したように上から降ってくる雪玉をサクッと切り裂いた。
つづく




