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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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もう『家族』でしょう?




 ぽくぽくぽく。


 さっきは馬を並べていたエビーとタイタは尾行組に混ざって追うからと消え、私達は再び『概念二人っきり』に戻った。


「これからどこへ行くんですか?」


 アクセも買ってもらったし、カフェにも行ったし、武器屋も行ったし、教会で式もどきも挙げたし、デートらしいことはまあまあこなした気がする。あとは何だろう。まともなデートなど日本でもしたことがないので思いつかない。


「どこへ行きたいですか」

「そうですねえ、何かジーク領のお土産いっぱい買えたのはよかったんですけど、この領都ソメーバミャーコならではのお土産物も見たいな、と思います」

「ここの特産というと、羊毛や皮革、蜂蜜、乳製品、それから野獣の肉とネギくらいでしょうか。前に街へ降りたときにほとんど買っているかと」

「あー」

「もとより、標高くらいしか誇るもののない土地です。しかし、それは新しい土産物になりそうですね」


 ザコルは私の腕の中のものを指した。


「この造花ブーケですか? 確かに。このクォリティなら買う人も多そうです。余り布や古着から、ここまで綺麗なものができるなんて!」


 ぎゅ、と胸に寄せれば、布で作られた花弁が頬をくすぐる。

 販売はまだこれからだが、いくつかの商店で置かせてほしいと話が来ているそうだ。


 教会の飾り付けは、雇い主である私をもてなそうと、この花束を手がけた子供達が頑張ってくれたらしい。

 ザラミーアが難しい話をし始めたところで、私は会場にいた子供達に声をかけ、ねぎらって会場の外に出した。七歳から上は十二歳くらいの親元を離れて領都の学び舎に通う子がほとんどで、みんな礼儀正しくていい子だった。


「ほら、利益が出るではないですか」

「まだ売ってもないのに。でも、正直子供の力を舐めてましたね」


 日本の子供と同列に考えるべきじゃなかった。同じ子供でもハングリー精神や仕事への意識の高さがまるで違う。

 ララとルルによると、内職を請け負った子は作業の手順を真剣に聞いて何度も確認し、さらには報酬はもちろん納期やノルマの有無などまできっちりかっちり確認していくそうである。もはや、下手な大学生のバイトや新卒社員より『社会人』だ。ただ、ララルルも子供の頃から働いてきたせいか、そんな子供達の姿勢を何ら不思議に思っていないようだった。


 子供達の小遣い稼ぎは、今回のような物づくりの内職の他、雪かき、荷運びなどの雑用、個人で行う狩りなど多岐に渡る。そうして得たお金は、貸本代を始めとした学用品代、オヤツ代などになる。中には実家に送ったり、貯め込んで武器や狩りの道具なんかを買う子もいるらしい。意識が高くて当然だ。


 私が伯爵家に持たされた小遣いというか、滞在のお礼代わりに地域へ落としてくるように組まれた予算。と言っても上げ膳据え膳で使い所のない私は、地域に還元したいだけのために造花の内職事業を始めた。


 ザコルには利益が出るからやめろと言われていたが、正直、子供が作った造花など爆売れするわけないし、の割に手間がかかるので賃金を支払ったら大赤字だろう、と、そう思っていたのだが。


 出来上がってきたものを見ると、これは売れちゃうかもな、とドキドキしてしまった。


「まあ、でも、売れたとしても黒字になるのは月単位、いや年単位で先の話でしょうね。布の買取の方も盛況すぎてかなりお金が出てったみたいだし」


 あまりに盛況すぎて布が集まりすぎたため、現在買取の方は一時休止中である。ララルルとサカシータ家の使用人で頑張ってクリーニングしているらしいが、なかなか大変そうだ。使用人の仕事を増やすのも忍びないので、布の洗浄や加工も人を雇ってくれるようにと伝えてきた。


「山の民からも端切れを買おうと思ってたのになあ、でもいっか、買ってきちゃお。ふふっ」


 今あるものは一般家庭の余り布なので、色ははっきり言って地味なものばかりだ。一番多いのは生成色。染料があるなら染めてもいいが、この世界ではそもそも染料が高価だ。しかし、織物を生業にしている山の民なら、もっと派手な色の布や高級な布の端切れも持っているはず。それを高値で買い付けてきてそっと在庫に加えよう。これでかなり小遣いを使い込めるはずだ。


 造花の売価は事業が続いていったときのために高めに設定するつもりだが、投資するだけして利益は地元に還元すれば問題ない。


「春一番に咲く花を、あなたの一番大事な人へ。ってね」

「一番花、でしたか」


 いつかの話の流れで適当に口から出たキャッチコピーと商品名だが、そのまま採用する気でいる。


「働いてくれた子供達には何本かボーナス代わりに持ってっていいことにして、親御さんにでも渡してもらお。きっと喜んでもらえますよね。ふふっ、採算度外視って楽しい!」


 利益を追求しなくていい商売のなんたる気楽なことか。


「あの、ミカ。もう一人の、ザハリの子供の件ですが……」

「謝るのは禁止ですよ。私が勝手にすることなので。でも、これからも力になれそうなことは遠慮なく相談してほしいです。私達、もう『家族』でしょう?」


 ぐ、とザコルが言葉を詰まらせる。


 さて、メリーは実家に着いただろうか。コマをも捕らえたシータイの最強影がついていったので滅多なことはないと思うが。



 あとは、彼女が素直に私達を頼ってくれることを祈るばかりである。




つづく

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