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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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お話があります

「ペーちゃん」


「えっ、ぺーちゃん……とは、僕のことでしょうか、ミカ様」


 呼ばれたものの用がなくなって脇に控えていたペータが戸惑いがちに返事する。


「メリーをこっそり尾けて。何かあれば手助けして」


 私は相変わらずザコルをなだめるふりを続けつつ、彼に指示を与える。


「は、しかし、僕では尾行がバレます。情けないことですが、まだまだメリーの練度には及びませんので……」

「そっか、じゃあサゴちゃんは」

「嫌です」


 間髪入れずに返事が飛んできた。


「……だよね、そう言うと思った」


 子爵邸内ならともかくここは街中だ。私を置いてメリーの護衛をしろと言ったって、サゴシは絶対に引き受けてくれない。エビーやタイタも同様だしザコルはもはや論外だ。


「私が参りましょう、ミカ様」


 シュバ。


「え、あ、シータイの、ってもういないし!」


 一瞬話しかけて一瞬で消えたのは、シータイの集会所の近くに住んでいて、なぜかサゴシの影武者に挑戦していたという酔狂で実力派の影だ。彼ならばメリーに気づかれず尾行するくらい朝飯前だろう。


「……はあ、つくづく、あの時メリーを庇ってよかった」


 メリーはシータイで起きた戦の直前、私を拐った実行犯の一人だ。


 彼女はザハリの洗脳によって、私をザコルから引き離すことが絶対に私のためになると心から信じて行動していた。拐われた先で邪教徒に囲まれた時、私は彼女に、今なら庇ってやれるから私の話を聞け、と言った。


 約束通り、私は彼女が極刑に処されないように嘆願し、イーリアがそれを許可した。メリーの上司たるシータイ町長マージは最後まで反対していたが。


 もしもあの時、私という貴人を害した罪でメリーが慣例通りの罰を受けていたら、それを知ったメリーの親族はどのような行動に出ただろう。噂通りなら、一家でザハリに心酔していたという彼らは。


「あなたが庇わなければ、あれの身柄は私が引き取って邸に収容するつもりだった」

「イーリア様」

「また、あなたの扱いでジーロに叱られそうだ」


 それとなく私の側にきたイーリアは、クシャ、と自分の前髪をかきあげた。


「ザコル。いつまで拗ねているつもりだ」

「拗ねてなどいません」

「お前も私を叱るか?」

「いえ。僕も同類ですので。ミカが心配するのを分かっていて聴いたことを教えました。……もはや強硬策以外に、打つ手がないんでしょう」

「まあな。ただ、ゴーシやイリヤの手前、そういった手を打ちたくないのが本音だ。あの二人の信用を失うのは得策じゃない」


 家族を守るためなら、たった一人でも敵に立ち向かえる覚悟と力を持った少年達。


 今は安心して身を預け、無邪気な笑顔を見せてくれているが、それはサカシータ家が母親やきょうだいを守ってくれるからという前提あってこそだ。もしも、自分達以外の子供がサカシータ家によって家族と引き離されたり、ひどく揉めるような事例を目の当たりにしたら、不安や不信を抱く恐れは十分にある。


 イーリアとザコルの二人が私の方を見る。……なんだろうな、どっちにも垂れた犬耳の幻が見える気がする。


「メリー次第ですよ。あの子が助けを求めてくれるなら手を貸します。それはそれとして、ララさんルルさんへの悪評は徹底的に潰すおつもりなんですよね」

「ああ、もちろん。うちにはもう一人、集団の洗脳を得意とした者がいるからな」


 麦の穂を持った豊穣の女神像の前に、一人の女性が進み出る。ザラミーアだ。と、同時に、先ほど別室に連れて行かれていた女性グループが青い顔で席に戻ってきた。


 ここに集められたのは、話題の聖女と猟犬を一目見てやろうという、新し物好きで噂好きな女達。


「皆。私から少しお話があります」


 ザラミーアは女達の前で、新しくサカシータの家に迎え入れる『優秀なる子息』について、迎え入れられる喜びを滔々と語り始めた。








 噂好きな女達、つまり街のインフルエンサー達はもれなく『ララ様ルル様は素晴らしい』『ミリナ様は素晴らしい』などとつぶやきながら帰っていった。


「ミカ! 見てくれたかしら! ここ何日か闇の力をしっかりと練って、今日はそれをきちんと意識してお話ししてみたのよ!」

「え、ええ。効果は絶大でしたね」

「あなたの教えのおかげよ!」


 効果が絶大すぎて観客の目が虚ろになりかけていた。どうしよう、眠れる獅子が眠れるドラゴンか何かだったかもしれない。


「奥様が完全に覚醒なされた」

「くくく、これからが楽しみよ」


 暇な影連合の男達は意味深に笑いながら会場を出て行った。また街の中に溶け込むつもりだろう。


「かわいいジョジーちゃんにもお礼をしなければ。ふふっ、何がいいかしら」


 ガチャ。

 眠いとグズり始めたリコとともに、別室でオヤツを振る舞われていたミリナとララルル、ゴーシとイリヤが戻ってきた。


「ゴーシ様、イリヤ様。また子爵邸でゲームの続きをいたしましょう」

「うん! ありがとタイタさん!」

「こんどはまけないよ、タイタ!」


 私は念の為、強い闇の力に耐性の低いエビーとタイタも彼らと一緒に退避させていた。


「リコ様寝ちゃったんで、ルル様は先に家に戻るそうっす」


 ミリナとララは、引き続き息子達を連れて街歩きを楽しむらしい。


「さあさあ、デートの続きをなさいな。いつまで拗ねているのコリー」

「拗ねてなどいません」


 むくり、心神喪失していた同志達がうごめき始める。


 時間はそろそろ昼下がりにさしかかる頃だ。




つづく

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