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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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変……面白い方だったのねえ

「ザコル様って、変……面白い方だったのねえ……」


 教会の椅子に座っていた女の一人がつぶやく。


「まあ、そうね。あのご一族で普通の人というのも聞いたことがないけれど」

「ザハリ様に勝手な噂流されてたって話だし、実は優秀だって聞いたから、真面目なお方かと思ったのに」


 話題の聖女と猟犬が間近に見られると聞いて。

 普段はさほど通ってもいない教会にやってきたミーハーな彼女達の視線の先には、聖女が願っていたのは自分の側でなく民の無事かと、落ち込んでいるのか拗ねているのかよく判らない男の姿があった。


 領主の八男坊でもある彼は、頭に変な金属のプレートを当て、不思議な襟元の服を着ていた。マントも含めて全身が同じ深緑色なので、言い方は悪いが、遠目に見るとまるで沼に生えた藻のようだ。


 対する聖女様の方は、同じ深緑でも色の濃淡や柄の組み合わせ、差し色などによってしっかりコーディネートされている。その隣にいるせいで余計とその不自然さというか、野暮ったさが際立っていた。


 かわいらしい少女にしか見えない聖女様は、むっすりと黙った英雄、深緑の猟犬を傍らで必死になだめている。


「ザハリ様はよくお会いしに行ったけど、やっぱりそっくりよね」

「うーん、顔は似てなくもないけどさ、さっき飛び入りで大剣を振るっていた人の方が似てなかったかしら。体つきだって」


 格好の野暮ったさはともかく、肩や腕に乗った筋肉は、サカシータ一族の中でも華奢な方であったザハリとは比べ物にならない質量だ。先ほどの大剣の試し斬りを見なくとも、体格と佇まいだけで道を極めた実力者であることが一目瞭然である。


 昔は何とも思わなかったしザハリの吹聴することを素直に信じていたが、改めて彼本人を見てみると、どうして『弱い』弟の好きにさせていたのかと不思議に思えてならない。


「本当に聖女様のお人形を手作りするつもりなのかしら」

「それは流石に聴き間違いなんじゃ」


 ざわざわざわ。


 彼女達の周りでも同じように噂話をしている女性グループが何組かいる。


「ねえ、イーリア様の後ろに隠れていらっしゃるのって、領主様、よね?」

「そうよね!? 私も思ったのよ、あんなに大きな人、ザッシュ様か領主様しかいないはずだわ」

「私、領主様と女帝様がお話しされているのを初めて見たかもしれない」

「あまりうまくいってないって噂だったのに」


 ざわざわざわ。


「ねえ、一番前の椅子に座ってるお子様達って、ご一族のお子様よね。どう見てもイーリア様似の男の子と、どう見てもザラミーア様に似たご兄妹!」

「……あれはザラミーア様似というか」


 皆、なんとなくザコルの顔に視線を移す。


「三人ともかわいらしいわねえ、誰のお子なのかしら」


 わざとらしい。どうせ分かっているだろうに。


「金髪碧眼の子はイアン様のお子じゃない? 奥様が魔獣達と一人息子を連れて帰ってきたって言ってたじゃない」

「あの茶髪に緑眼の方が奥様かしら。お祖母様の碧眼をお孫様が継ぐなんてことあるのね」

「あの焦げ茶の髪の兄妹の母親は、ほら、あっちよ、あの双子。見覚えあると思ったのよね、昔、ザハリ様の親衛隊にいた子達じゃないの」

「ああ、貧乏なのに、服とか必死で作って貢いでた子達?」

「じゃあ、やっぱりあの兄妹はザハリ様の」


 突然、ミーカ、と小さな妹の方が叫んだかと思えば席から飛び降り、聖女様に向かって走り出した。母親と見られる双子の一人が慌てて追いかける。


 あの勢いでは、と誰もが危ぶんだ瞬間、サッとザコルが間に入って女の子を抱き上げた。母親がペコペコとザコルに謝っている。


 聖女が手を広げると、女の子は嬉しそうに聖女の腕の中に移っていった。母親と聖女は親しげに笑い合う。


「……何か、すごく打ち解けてるわね」

「ザコル様、何も思うところがないのかしら?」

「ここだけの話、かの方は聖女様の悪口も言ってたってのに」


 聖女がぎゅうぎゅうと焦げ茶髪の女の子を抱きしめ、女の子はキャッキャッと楽しそうに笑う。焦げ茶髪の男の子と、金髪の男の子は仲良さげに話している。テンションが上がって椅子を揺らし始めた男子二人の頭を、いつの間に移動したのかザコルが両手で押さえた。二人はごめんなさーい、と軽く謝った。


 随分と懐いているねえ、と年配の女性がつぶやく。


 そのうち、第二夫人であるザラミーアと元ザハリ親衛隊の双子が何か話し始めた。一方的な命令という雰囲気ではなく、ザラミーアも双子に気を遣っているようだ。


「……なあに? 随分とうまくやっているようじゃない、あの子達」

「調子のいいこと。連座、って言葉を知らないのかしらねえ」


 ザハリが聖女に刃を向けて罰せられたことは、民の間でも知れ渡っていた。長年汚名を着せられていたザコルの名誉回復を狙いとして、そうなるように子爵家が情報を出したからだ。


 関所で起きた水害から多くの人を救い上げ、山の民の神官からも認められている聖女と深緑の猟犬の『信者』はこの領都の街でも増え続けている。


 その二人を貶め、あまつさえ刃を向けた人物など、いくら領主子息といえど悪者以外の何者でもない。一応、イアンにも聖女誘拐未遂の罪があるのだが、元々領内で人気を集めていた分、反動としてザハリへの悪感情は膨らむ一方だった。


 仕方のない部分はある。これは、人を貶めることで自分を高めてきたザハリの罪だ。それに『連座』するように、元ザハリファンの、特に過激に活動していた者達は肩身狭く暮らさざるを得ない状況になっていた。


「そういえばもう一人いたじゃないの、気が触れたって、有名な母親が」

「ああ、子爵邸に忍び込んで暴れて、そのままっていう?」

「あそこは一家で心酔してたからねえ。爺さん婆さんが今も娘と赤ん坊を子爵家に拐われたって騒いでるよ。ああみっともない。あんたんとこの娘のせいだって皆が言うのに聞かないの」

「五歳くらいの子をずっと家に閉じ込めて、この子だけは渡さんって言って籠城してるらしいわ」

「どんどん孤立してるって。次に吹雪が来たら死人が出るんじゃない」


 おお、いやだいやだ。


「でもねえ、あの爺婆も頭がおかしいけれど、正直、あれもどうなのかしらと思っちゃう」

「まさか領主一家の一員にでもなったつもりかねえ…。お子はともかく、ただの愛人でしょう?」

「次はザコル様の妾の座でも狙ってんじゃないの、同じ顔だからって」

「貧乏人ってやあね、ほんと図々しい」

「調子に乗らないでほしいわ、聖女様がおかわいそうよ」


 よよよ、くすくすくす。


 最初に、ザコル様って面白い人だったのね、と発言した女はそれとなく後ろのグループの顔を確認する…見たところ、子育てに余裕の出てきた三十歳前後の女性グループだ。あの双子と同い歳くらいの者もいるだろう。


 人を貶めることで自分を高める。ああいう手合いは謎に拡散力を持つから厄介だ。


「調子に乗っているのは自分達だと解らないのかしらね」

「そうねえ」


 サカシータ家と聖女が、あの双子とその子供達を尊重するとあれだけアピールしているのに。この会場を飾る『造花』の慈善事業は聖女の発案だが、現場の仕切りはあの双子の姉妹に任せられていると聞く。


 イーリアあたりに目をつけられないうちに逃げた方がいい、と忠告してやるべきだろうか。


 ……いや、そこまでしてやる義理はないか、と女は思い直す。


 しばらくすると「話を聴きたい」と教会の管理者が声をかけにきて、そのグループは連れられていった。




つづく

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