俺の勘は当たるのだ
武器倉庫で盛り上がりすぎて収集つかなくなった同志(タイタ、私含む)と、どうしたら止められるのかと頭を抱えたザコルの前に現れたのは、我らが頼れるエビーであった。
オタクの流儀に順応した陽キャ殿は
「武器は明日でも買えるじゃねーすか、モタモタしてっと今日のスチル全回収できませんよお?」
と目の前のお宝に目がくらむオタク達の目を覚まさせてくれた。
あんなにオタクの扱いを解っている陽キャが他にいるだろうか。全く持って流石はエビー、さすエビである。
しかし、常々思うことだが。この世界、ゲームとかあるわけないのにどうしてチートだとかスチルだとかに相当するスラングが存在しているんだろうか……。しかし私に搭載された翻訳能力は確かに『スチル』と訳した。
「もー、タイさんまで一緒になって盛り上がっちゃってどうすんすか。兄貴はデートなんすからしっかりリードしてくださいよお。姐さんは何つーかちょっと落ち着けっす」
『申し訳ありません』
私達とタイタの三人は揃って頭を下げた。結局、私達はこのツッコミ担当がいないと何も円滑に物事を運べないらしい。
「つか時間押してますから急いで」
クリナがザコルの指示通りに襲歩を始める。エビーはクリナと同じく、サカシータからテイラーに贈られたキントという馬に乗っていた。タイタの馬も同じプロフィールでワグリといい、三頭は揃って栗毛である。
「デートとは、いったい何なんだ……?」
「兄貴は今更概念見失ってんなよ……。つか、大広場で公開試し斬りイベントとか予定にねーこと始めたのはアンタでしょうが。イレギュラーなことすんのやめてくださいよねえ」
「申し訳ありません……」
怒られているザコルだが、私という変な女を堕とすつもりなら今回のデートは大成功である。何せときめくことしか起きてない。
「ふへ、好きい」
ぎゅむ。抱き付かれても逃げ場のないザコルが赤面する。
いつも思うが、自分はいつでも好きな時に平気で私を抱きしめるくせに、どうして私が抱きつくと照れちゃうんだろうな。何度もやっていればそのうち慣れるかと思いきやずーっとそうだ。
「まあ、姐さん楽しそうだからいっか。へへっ」
「ああ、お喜びいただけて本当によかっ」
「異界娘よ」
『わっ』
私とエビーが馬上で飛び上がる。声の方を見れば、駆け足で馬と馬の間を器用に走る人がいた。
「ジーロ兄様」
「ジーロ殿。今までどちらにおられたのですか」
タイタは驚いているのかいないのか、こういう時は全く平静だ。元貴族の子息としてそういう風に躾けられてきたのかもしれない。ザコルは単に気配に気づいていたのだろう。
「いや何、羽虫が思ったより多くてなあ」
こんな雪の季節に羽虫……。
「やはり、こちらでも……」
タイタが深刻そうな、残念そうなトーンで返す。
ふむ。
「羽虫って、こんな城塞都市みたいな街にも侵入するものなんですね」
羽虫と表現するからには有象無象の域を出ないはずだ。特に雪国出身でない羽虫には、関所町シータイの領境を越えることだけでもハードルが高そうだったのに。
「ああ、虫というのは外からも来るが、自然発生もするからなあ。たまにはあぶり出して掃除してやらねばなるまいよ」
なるほど。つまり、元々ここに住まう民の中にも『氷姫』を狙うアンチがいる、ということか。
改めて、ここは誰もが顔見知りのような小さな『町』ではないのだな、と実感する。
人が多ければ暮らしぶりも様々だろう。そんな暮らしの中で、うっかり邪教に入信してしまったり、金銭などを目的に王弟派の手先になったり、はたまたそれ以外の理由で異界からの珍客に反感を持つことだってある。
今日集まってくれたような、私達を好意的な意味で見物するある意味で心に余裕のある人ばかりではないのだ。……それは、当たり前か。
ふざけていたジーロは、一転、憮然とした顔つきになった。
「虫寄せのように扱うのは、俺は反対したぞ」
ちら、ジーロがザコルを睨み上げる。
「兄様……っ」
私が手綱を掴む手の甲を撫でると、ザコルは私に話を譲ってくれた。
「そうですよね。虫さんも、餌がなければたかって叩かれることもありませんからね」
む、ジーロは私に目線を移した。
「違う。俺は湧いた虫に同情などしていない。しかし、わざわざたかられにゆくこともないと言っただけだ。虫を叩き出す方法なら他にもある」
つまり、ジーロはこのデート企画自体に反対だったということだ。みすみす、子爵邸から出して危ない目に遭わせる必要はないと彼は考えていたのだろう。
「えーでも、毒餌でおびきだすのって一番効率良さそうじゃないですか? こっちも射程距離内に入ればちゃんと自分で駆除しますから、大丈夫ですよ」
「言っておくが、貴殿まで虫退治に参加する必要はないぞ」
「ええー、じゃあなんで教えてくれたんですか。最近体なまってるんですよ。ちょっとはやらせくださいよ」
「何がなまっているだ。窓から飛び出して魔獣を乗り回していたくせに。俺はな、意外に数が多いので一応警戒するよう伝えにきただけだ。そうでなければ、純粋に」
ジーロはそこで言葉を切った。
楽しんでいらっしゃいな。
そう、嬉しそうに送り出してくれた人々の笑顔が脳裏に浮かぶ。
「ありがとうございます、ジーロ様」
「何がだ。俺は水を差しに来た邪魔者だぞ。分かっているのか」
「分かってますよ。無茶を承知で、私達が変装もせず街を歩く『全力デートイベ』に協力してくださったんでしょう? うちの護衛騎士とも連携を取って」
エビーはなんで拐われたのかと思えば、単にジーロ指揮による『羽虫退治プロジェクト』のオリエンに参加させられていたようである。サゴシとともに、私達のスケジュール管理をする役として。
そして、羽虫の件は本来、私の耳に入れる予定はなかった。全て秘密裏に処してくれる予定だったのだ。
「ふん、俺はさっさと終わらせてザラミーアを口説きに行きたいだけだ。ザコル、お前は娘を守れよ」
「それは言われずとも」
娘……。お父さんだろうか。
「それと、言っておくがな娘、お前は『毒餌』などではない。かといって『客人』でもない。俺達は『仲間』を喰らおうとする奴に容赦はせん、それだけだ」
「はい」
私の前に、白いハンカチが一枚差し出された。私はそれを受け取って両手で握る。
「…………おい、泣くな。たかられるのはお前のせいじゃない」
「…………ふへ、嬉しくてグッときただけですよ。こんな街ぐるみで色々してくださって……。暇してた影の皆さんが総出で護衛に当たるって聞いた時は、ちょっと多すぎじゃないかなとも思ってましたけど」
「領都もそれなりに広いからな、百人強でも多すぎることはない。しかし、同志の方々が意外にと言っては失礼だが、全く一般人とは思えぬ有能さでなあ、次々と怪しいのを捕まえては穴熊に引き渡している。特にあのマネジという御仁による統率が素晴らしい。ほぼ秘密結社という触れ込みは伊達ではないな」
「大剣の試し斬り、見ました?」
「見たとも! うちの一族以外であれを扱える者がいるとはな! 不可解に強いのは知っていたが、もはや努力や何かで説明できる力量を超えている。ムツ工房の家系図は一度調べた方がいいぞ。俺の勘は当たるのだ」
ジーロは語りたいだけ語り「ではな」と気配を消した。
「調べますか、ザコル殿、ミカ殿」
ジーロが去って、先に口を開いたのはタイタだった。
「いいえ、僕は調べるつもりはありません。ミツジもマネジも根っからの鍛冶屋だ。わざわざ何かを暴いて、血に縛りを課す必要はない」
「私も同意見だよ。普通に部外者だし。マネジさん自身が知りたくて協力してほしいとかなら別だけど」
「……かしこまりました」
ありがとうございます。
タイタは確かに『承諾』しただけなのに、翻訳能力は彼の言葉をなぜか『感謝』として訳した。
何を知っているか、詮索するつもりはない。他ならぬ彼が『悪友』には自由でいてほしいと考えているなら、なおのことである。
つづく




