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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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よっ、我ら会員の星!

 ザコルは人々の歓声をよそに、斬馬剣に刃こぼれがないか軽くチェックし、


「ふむ、いい剣だ。この大きさでありながら、ブレもなく切れ味もいい。よく鍛えられていて強度も申し分ないです。しかしこれを山中で振るったら木々をも巻き込んで山を丸裸にしてしまいそうだ。平原での戦にはもってこいですね」


 と評した。


「マネジ。君も振ってみますか」

「いいんですか!?」


 どこからか白装束が転がり出てきた。観客達がギョッとしている。

 どうぞ、とザコルが渡した大剣をヒョイと受け取った白装束にはもっとギョッとしていた。


「だだっ、誰ですかい!?」

「店主。勝手なことをしてすみません。彼は、ムツ工房の跡取りですよ」

「ムツ工房の!? あの!? なんだってこんなところにそんな格好で」

「マネジは勉強家なんです。彼にも振らせてやっていいですか」

「そっ、そりゃもう」


 武器屋の店主がうなずくが早いか、マネジは大剣を氷柱の残った下部めがけて振り切った。

 今度はガキンと衝突音がし、スパアン、と派手に氷の切れ端が飛び、雪に突き刺さった。


 うおああああああああ!?


 距離を取っていた観客は訳もわからないまま、再び歓声を上げた。


「誰よあの人、あの方もサカシータ一族のどなたかじゃないの!?」

「ザコル様に似てるような気もするけど、ザハリ様がここにいらっしゃるのはありえないし」


 どよどよどよ。

 ザハリという元アイドルのことをよく知る女性陣がざわついている。マネジは、関所を守るシータイ町民達をして双子よりも双子といわしめる、ザコルのプロ影武者である。


「ありゃ影か? うちの騎士団にあんなのいたかあ?」


 民衆に紛れていたらしい騎士団員が首をひねっている。


「あんな実力じゃ知らねえ訳ねえだろ、同志って人らのお一人にすげえ実力者がいるって聞いたことあるぞ」

「同志ナニモンだよ……。どっかの騎士団長とかじゃねーのか?」


 鍛治屋の倅である。


「ひょええええ流石は辺境エリア統括者殿おおお」


 観客の間をすり抜けて白装束がわらわらと湧いて出てきた。


「よっ、我ら会員の星!」

「いいや、駄目だ」


 マネジは同志達の賞賛に首を横に振った。


「何が駄目だと?」

「君らも猟犬様の試し斬りを先に見ただろう。僕じゃあんなに静かには斬れない。切り口も見てご覧よ、こんなに違うんだ」


 そう言われて皆がザコルの斬った氷に目をやる。まるでレーザーか何かで切ったかのようなつるっつるの断面だった。対するマネジが斬った方の断面は、ノミか何かで割ったような凹凸のある濁った断面だ。


「本当だ、本当に全然違う!!」


 白装束がワッと氷塊の周りに駆け寄る。他の観客もつられるようにして集まってきた。


「いやあ、どっちもすげえが、どう振るったらこんな違いが出んだ」

「練度が違うってヤツだろう。やっぱ、ご一族の中でも抜きん出てんだなザコル様は」

「つうか本当に本職影か?」

「重戦士か剣士が本職の間違いだろ、どう見ても真似事レベルじゃねえ」


 マネジは大剣をスッと店主に差し出した。


「やはり、まだまだ精進が足りない。店主殿、突然お借りして申し訳ありません。もしよろしければ、ご自慢の武器庫を見せていただけないでしょうか。現在、我が工房ではあまり重量級の武器を扱っておりませんので、個人的に購入もさせていただきたく」


「そりゃもうどうぞどうぞ、サカシータ一族向けに揃えた武器がたんまりございますから。その『斬馬剣』が振れるあなた様ならいくらでも使いこなせるでしょうねえ私もムツ工房様のお話をぜひともお聞きしたく」


 店主は急に商売人の顔になって手を揉み始める。

 私はハッと我に帰った。


「ずっ、ずるいマネジさんサカシータ一族専用武器の倉庫私も見たいのに!!」

「やっと言葉を発しましたねミカ。『斬馬剣』の試し斬りはどうでしたか」

「好き」

「すっ」


 ずざ。不意打ちだったのか、ザコルが僅かに後ずさった。


「好き、だけど、いや、ちょっと待って、語彙がどっかいっちゃったんです。えっと、好き、あれ、好きしか出てこない。抱きついていいですか? じゃなかった、違う、好き!」

「わ、分かりましたからここで抱き付かないで!」

「えっ、血まみれでも抱きついていいんですよね!?」

「そうじゃな、違いませんが違う、そうじゃない、だから」

「好き、好き、好き」

「落ち着いて! 落ち着いたら、感想を聞かせてください。分かりましたか」

「はい、好きです」


 ザコルは一旦天を仰ぎ、呼吸を整えると、懐から紙を取り出して私に見せた。


「…………ええと、この通り、僕達は次の指令がありますから、そろそろ」

「好……っそんな殺生な!! サカシータ一族専用武器の倉庫見たいさっきから気になってたのに絶対に見たい見たい見たい」

「急に口が回り始めましたね。しかし残念ですが、また後日に」

「でもでも私達が移動しちゃうと同志達が武器をゆっくり見れないじゃないですかだから一緒に見るべきです店の売上のためにもねえそうでしょねえねえねえ」


 結局、私に押し負けた推しは、興奮する私や同志達と一緒に重量級の武器倉庫を一緒に見てくれた。




つづく

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