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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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迂闊なことはできないな、しないけど

「全く油断も隙もない! 女性ならいくらでも口説いていいと思っているんですか!」

「だからー、ただ釘を刺しただけですって。口説くっていうのなら、『ね、私だけの女王様。チュッ』くらいまでしないと」

「ひょえええそんなことされたらミリナ様が再起不能になっちゃいますからああ」

「やめたげてええ」

「ララさんルルさんまで」

「先生! パウンドケーキおいしいです!」

「このシオキャラメル? ってやつめっちゃおいしーです!」

「リコはオーグウトのがしゅきー!」

「おーぐうと……? ああ、ヨーグルトですか。塩キャラメルとヨーグルトはミカのお気に入りで、じゃない、いや、美味しかったのなら何よりですが!」

「あの、もしかしなくても、ザコルの意見がメニューに反映されてますよね?」

「ちっ、違っ」

「誤魔化さなくたっていいでしょ。スープとケーキはともかく、チッカのカフェで食べたものは私とあなたしか知らないはずですから。あの日のデートも楽しかったですね」


 にこ。


「…………どうしてっ、どうしていつも僕だけ分が悪いんだ……っ」


 がくり。


「え、何が? よく分かんないですけど、食事が届いたみたいだから食べましょうよ」


 振り返って指差せば、給仕にきたウェイトレスが苦笑しながら一礼した。





「……美味しいですか?」

「おいひいえふ」


 もぐもぐもぐ。顎にたれた肉汁をザコルが布巾で拭いてくれる。もれなくあっちでララルルが悶えている。ミリナも正気に戻ったか、こちらを見て微笑んでいる。


「それはよかった。僕も、チッカのカフェでミカと食べた、あのスパイスのきいたソーセージをもう一度食べたかったんです」


 私はあの時チーズ入りのサンドを食べていたので、ソーセージのサンドは今回初めて食べる。あふれる肉汁、ピリッとした辛味。ザコルがもう一度食べたい、と言うのも納得のおいしさだ。

 今になって思うが、胡椒が高級品というこの世界で、辛味のあるスパイスが使われていること自体が珍しい。であれば、あのカフェの目玉商品はこのソーセージだったのだろう。チーズもモナ領の特産ではあるが。


 ……このソーセージ、もしかしなくてもわざわざチッカのカフェから取り寄せたのか。ジーク領の特産品のことといい、一体いつから計画されていたんだろう。


「こちらのメニューですが。僕の意見だけが反映されているわけではありません。僕が話したのはこの、チッカで食べたものの話だけです。ミカと、少しは食べ物を味わって食べようとじっくり話した場所でしたから、印象的で」


「私達、食べられれば何でもいい派の仲間でしたからねえ」


 パウンドケーキの好みはあの頃シータイにいた者なら誰が知っていてもおかしくない。

 パープ芋のポタージュスープは誰の入れ知恵だろう。二人で屋台巡りしていた時のことなので、表向きには屋台のおじさんおばさんくらいしか目撃者はいないはずである。テイラーの影は大体友達のチャラ男か、ジーク出身の同志二人がどこかから見ていたか。


「何も知らないと嘘をついてすみません」

「それはいいですけど、このデート、一体何人噛んでるんですか?」

「内緒です。脅しますか?」

「だから、これはサプライズでしょ、脅さないですよ」


 なんだろう、バレないようにうまくデートしろとか誰かに脅されているんだろうか。


 私は楽しいことしか起きていないので不満はないが、思った以上に規模が大きい可能性が出てきた。サカシータ一家や影や同志や護衛達以外に誰が関わってるんだ。迂闊なことはできないな、しないけど。



 ソーセージサンドを頬張っていると、ウェイトレスがやってきてペコリと挨拶した。


「お食事中に失礼します。もしよろしければ、デザートに当店の人気メニューはいかがでしょう」

「人気メニュー?」

「ええ、毎日数量限定の特別メニューでございます。卵と牛乳と蜂蜜をなめらかになるまで混ぜて濾し、蒸したものなのですが」



 それって…………


「プリン!! プリンですってザコル!!」

「ぷりん?」

「はい、プリンでございます。まさか聖女様もご存知とは。領主様が口頭でお伝えくださったものを、当店で何とか再現いたしました」

「オーレン様レシピですね! ぜひいただきます!」


 ソーセージサンドを食べ切ると、温かい飲み物とともによく冷えたプリンが運ばれてきた。砂糖は高価だからかカラメルはかかっていなかったが、代わりに蜂蜜がミルクピッチャーに入れられて添えられていた。蜂蜜プリン、美味しいに決まっているやつだ。


「そういえば、ロット様がメンタル豆腐、のことをメンタルプリンって言ってた気がする」


 かわいいもの好きで、食いしん坊で、領都にもちょくちょく帰ってきていた彼のことだ。きっとこの店の人気メニューのことも知っていたのだろう。もしかしたら中田も連れて来られたことがあるのかもしれない。とすれば『メンタルプリン』と最初にロットをからかったのも彼女かもしれない。


「ふふっ」

「僕はこのプリンとやら、初見なのですが」


 ザコルは、ゼラチンなどを使っていない、少し固めの食感であろうプリンをスプーンの先でつついている。


「ザコルが王都に行ってから開発されたんですかねえ。食べてみましょうよ。ちなみに私はプリンが大好きです」

「それは、期待大ですね。あなたはあれだけ美味しいものが生み出せるのに、味見した感想が『まあまあ食べられる』と過小評価もいいところですから」

「それは自分が作ったもの限定ですよ」


 その日、ザコルは無事プリンの虜になった。




つづく

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