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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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レア物

 一緒にお出かけしたい、もっと遊びたいと泣くリコに後ろ髪引かれつつ、私達はララ達の住まいを後にした。


「街デートじゃないのか、これじゃ視察だ」


 ぶつぶつ。


「ふへ。忍者が文句言ってる」


 それだけ私とのデートを楽しみにしてくれてるんだな、と心臓が嬉しそうに跳ねる。

 ザコルは懐から紙を取り出して広げた。


「ララから預かった指令書によると」

「指令書」

「次はこの雑貨屋に行けだそうです」

「雑貨屋ですか。何が売ってるんですかねえ」


 どこに行くのか分からないなんて、ミステリーツアーみたいで楽しい。

 あたりは街らしく、建物が増えてきた。





「はぁーい寄ってらっしゃい見てらっしゃい、今日はジーク領の特産品を特別にお売りしてますよおー」


 雑貨屋は、ジーク領フェアを催していた。そして割と混んでいた。私達のために貸切だとかにしない方針に好感が持てる。そもそもこの領都に住まう人は身元がはっきりしている人ばかりらしいので、治安の面でも心配が少ないのかもしれない。つまり、交流しても問題ないということだ。


 ちなみに、人口の割合は、戦闘員やそれに準ずる人が四割、そして学び舎に通う教師と学生が三割、残り三割が商売人や医療関係者といった非戦闘員だそうだ。


「お兄さんお姉さんもぜひ寄ってってくださいよおー」


 店のロゴが入ったエプロンを身にまとい、若い男性店員が呼び込みに精を出している。


「あ!! そこの呼び込みくん、よく見なくてもエビーじゃん!」


 私は店員の顔を思いっきり指さしてしまった。


「え、違いますけど? 他人の空似じゃねーすか?」


 ピューピュピュー、呼び込みくんは調子はずれの口笛で誤魔化した。


「ふふっ、何その雑なしらばっくれ方。気配のタチでもエビーだって判るよ」

「へー、気配のタチすかあ。どんどん素人からかけ離れてくのやめてくれません?」

「今でも普通に素人だよ」

「はいはい、普通に嘘つかんでください。ほぉーら深緑カップルのお通りっすよおー」


 そうエビーが声を上げた瞬間、集まっていた客達が一斉にこちらを振り返った。わあ、と歓声が上がる。


「まあまあ、このかわいらしい少女のような方が、話題の聖女様なのね! 感動してしまうわ」

「あの細腕で、何百人もの被災者を救ってくださったなんて……っ」

「まあ、あんた泣いているの」


 日本でもたまに有名人に会えて泣いている人がいたが、自分がその有名人の立場になる日が来るとは思わなかった。


「しかし、あれで体力はサカシータ一族並みらしいからな」

「並の騎士じゃ走り込みについて行けねえらしいぞ」

「弓も百発百中だとか」

「愛用の短刀はすんげえワザモノらしい。武器屋のオヤジが泣いてた」


 屈強というかゴロツキスタイルな男性グループは、いかにもサカシータ生まれサカシータ育ちな雰囲気だ。シータイの町民もあんな感じの人が多かった。それにしても、私の戦闘力にしか興味がないのか、魔法の話が一切出てこない。もはや魔法士だったことは忘れられているのかもしれない。


「で、深緑の猟犬、つか、ザコル様だろう、あの方は」

「あの変わった衣装は何なのかねえ」

「全く釣り合いが取れてねえぞ」


 ヒソヒソヒソ。

 私は隣のザコルをチラッと見上げた。


「ここの客は僕に忖度がなくて素晴らしいです」

「あ、喜んでたよかった」


 双子の弟、ザハリの流した噂のせいで領内の若い女性中心に倦厭されがちだったザコルだが、その噂は着々と払拭されているらしい。少なくとも領主のお膝元、しかも身元が確かな者ばかりのこの領都であからさまな真似をする人はいないだろう。

 だとすれば、普通に自領の領主子息を雑に扱っているのだ。多分、あの人達は腕に覚えのある戦闘員か何かで領主一族とも絆が深く……


「多分、というか単に、あれはミカのファンです。だから僕に厳しいのです。いいですね、久しぶりの不審者扱いですよ」

「楽しそうですね……」


 どんだけ雑に扱われたいんだ。


 いや。

 雑に扱われるのが嬉しい、というより忖度なしの正直な反応を喜んでいるのかもしれない。

 王都で開かれる貴族のパーティでは、褒め称えてきた者が同じ会場で自分の陰口を叩いている、という場面に何度も遭遇したらしい。独り言を拾うほど耳がいい彼は、完全に人間不信になったと語っていた。だからストレートな反応を示す人間には逆に好感を持つのだ。


 あ、でも。ザコルの、初対面の女性にはばかることない怪訝な顔を『なんて正直な人』と評したのは私か。私の奇行に真正面から『は?』と言ってくれる彼が私は大好きなのだ。


「結局、似た者同士ってことか」

「この謎のシノビ風衣装でいれば、ずっと不審者……!」

「ふふ、よかったですねえ。灰黒の謎服はダボつきのせいで動きにくいって言ってましたもんね。その忍装束、アロマ商会のスタッフが生地にこだわったとか言ってたし、動きやすいんですよね」

「ええ、戦いやすさはオリヴァー様が誂えてくださった僕用の騎士団服に引けをとりません」

「それならぜひルーティンに入れてくださいよ。団服は三着あるから、四日に一度とかでもいいので」

「義母に笑われるのが癪ですが、皆に不審者扱いしてもらえるなら悪くないですね」

「やったあ、これからは定期的に忍者に会える!」


 ぎゅ、私は思わず忍者の腕に飛びついた。


「おいバカップルども、変なイチャつき方してねーで品物見ろよ品物をよ」


 店員に扮したチャラ男が背中をつついてくる。遠慮忖度なしに『ケッ』とか言いながら。


「ふふっ、どれどれ」


 私達は場所を開けてくれた他の客に会釈しつつ、ジーク領特産コーナーへと進んだ。




「まずはこちらッ、ジーク領が誇る秘境、魔の森からいでし伝説の火酒ッ、その名もショーチュー!!」

「いきなりレア物出てきた」

「…………………………」


 いわく付きのお土産品の登場に、楽しそうだったザコルは途端に渋面になった。




つづく

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