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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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みどぃのふく、ちたいなあ

 以前、シータイから子爵邸に入った際も、子爵邸から領都ソメーバミャーコへ買い物に出かけた際も、どちらも屋根と座席のついた馬ゾリに乗せてもらったので、こうして開けた視界のまま道をゆくのは実は初めてのことだった。


 どんなコースで行くんだろう。ザコルは計画を聞いているんだろうか。


「まずは、ララとルルが住み込んでいるという一軒家に向かえと言われました」

「やった、ずっと行きたかったんですよねえ。ララさん達にも会いたかったし! 嬉しいなあ」


 彼女達とはノリも合うし、久しぶりに会えるのが本当に楽しみだ。

 造花作りの進捗はどうなっているのかも気になっていた。とはいえずっと吹雪だったし、道が通れるようになったのもきっと昨日今日のことだ。ルルの娘で二歳のリコは元気にしているだろうか。いや、むしろ元気を持て余しているかも……。


 子爵邸の近くにあると聞いていたその一軒家は、民家が立ち並ぶエリアの少し手前に建っていた。


 雪に埋もれている所が多く全体像はつかみにくいが、整えられた植栽と建物をぐるりと囲むレンガの壁、同じ色のレンガで作られたトンガリ屋根が印象的なおうちだ。

 なんというか、囲い壁も母屋も民家にしては頑丈そうに見える。一軒家というより、サカシータ騎士団が使っていた何かの施設だったとか、そういった類の建物なのかもしれない。


「こんな薄い壁では、いつかゴーシかリコが穴を開けそうだ」


 というのは囲い壁を見たザコルの感想である。


「薄い、ですかね。民家にしては厚そうに見えるんですけど……」

「不十分です。そのうち補強工事が入ります」


 決定事項らしい。


 私達は少し手前でクリナから降り、門へと近づく。


 入り口に立っていた衛士は、私達の姿を見るなり中へと報せに走ってくれた。というか、彼が扉を叩いた瞬間中からバアンと開いて、小さなモコモコが飛び出してきた。


「ミーカ!」

「待ちなさいリコ!!」


 母親であるルルの制止も虚しく、リコはものすごい勢いで私めがけて突っ込んできた。が、私に到達する前にザコルに捕まった。


「その勢いではミカが怪我をしますよ、リコ」


 ザコルに注意されたものの、抱きかかえられたリコはキャハハと笑っている。テンションマックスだ。


「申し訳ありません!! ザコル様、ミカ様……っ、ひえっ、ひえええ深緑ペアルック尊すぎてしぬ!!」


 ズシャア、ルルはいきなり玄関で崩れ落ちた。その後ろからララも現れ、同じような感じで崩れ落ちた。


「ミカ様のデートコーデかわいすぎてしぬ! ザコル様の衣装はなんか変わってるけど信じられないくらいしっくりきててしぬうう!!」

「お分かりいただけますかこの良さが」


 流石だ。この忍装束の価値を一目で見抜くとは。


「リコもみどぃのふく、ちたいなあ」

「緑の服が着たい、ですか。では今日街で見つけたら買ってきましょう」

「そそそそんな高価な贈り物はっ」

「? 子供の服でしょう、面積も小さそうですしそう高価なものとは」

「子供服は意外に高いのです!! 意外に!! 下手をすると大人のものよりも!!」


 そうなんだ。どうしてだろう、細かくて作るのが大変なんだろうか。それとも大人のものに比べ、需要の関係で生産数が少ないのか。必要ではあるだろうに。


「ザコル、彼女達はお裁縫のプロですから、材料をプレゼントしたらどうでしょう。こないだのエプロン作りで使った深緑の生地もまだ余ってますし。セージさんも追加を持ってきてるんじゃないでしょうか」

「それは名案ですね」


 アロマ商会ばかりからものを買っていて、いい加減に不公平と思われそうではあるが。


「先日あんなに贅沢な材料でエプロンを作らせていただいたのにさらに!?」

「濃い色の生地はそれだけで高級品ですからああああ」


 玄関で押し問答していたら、先ほど案内してくれた衛士に「早く入ってくだせえ、部屋が冷えますぜ」と苦笑された。





「簡単ですが、以上が進捗となります。帳簿付けはこちらのハルさんが確認してくださっているので、間違いはないかと」


 ララとルルは、そう言って傍に控えていた女性を私に紹介した。


「ハルと申します。サカシータ第二夫人ザラミーア様のご指示で、学び舎から出向してまいりました」

「初めまして。テイラー領よりまいりましたミカ・ホッタと申します。ララさんとルルさんの教師役の方ですね。経理の補佐まで、ありがとうございます」

「恐縮でございます、聖女様。この時期は学び舎も休みになりますから、短期の職をいただけてありがたく存じております。ここにいると、教え子達も顔を見せてくれますし」

「教え子、あ、そっか、内職をしてくれる子達ですか。先生がいてくれるなら子供達も安心でしょうね。流石はザラミーア様」


 女性で、文字書き計算が教えられて、帳簿の確認もできて、内職を求めてやってくる子供達のフォローもできる。学び舎に途中編入する息子がいる母親(ララ)としても、見知った先生ができて安心できるだろう。まさに適任だ。


「ララ様とルル様は、明日から歴史や地理のお勉強に入らせていただくんですよ」

「えっ、早いですね? まだ読み書き計算を始めたところだと聞いていたのに。実は全然できるんですか?」


 ララとルルがブンブンと首を横に振る。


「まさか、最低限の金勘定と、よく行く店の看板や品の札が読めるくらいですよ」

「書く方はまだまだです」

「ご謙遜を。お二人ともお子様が生まれる以前から自力で努力なさってきたんでしょう。私も思ったよりお出来になって驚いたほどなんですよ。もっと自信を持ってくださいね」

『ハル先生……』


 励まされたララとルルが泣きそうな顔になる。理知的で優しそうな先生だ。そんなハル先生は私の方に顔を向ける。


「聖女様は、こちらの言葉を真に理解するために、膨大な写本をなさったと聞き及んでおります。知見を得つつ様々な単語や文法を習得するにこれほど効果的な方法もないでしょうが、その努力が当たり前にできる人間は限られますわ。逸話が街に届いた時には、学び舎の教師の間でも非常に話題になりました。ご本人にお会いできて大変光栄でございます」


「えへ、そんな風に言ってもらえるなんて恐縮です。私には魔法としての翻訳能力がありますし、テイラー家の厚意で蔵書を自由にさせてもらいましたから。勉強に没頭できる時間もたんまりとあって。ただただ恵まれた環境だったのだと思っています」


「まあ、なんて謙虚なお方かしら……」


 ハルからは、子爵邸で教えていたソロバンの話もせがまれた。彼女は、いつか学び舎に導入される日を楽しみにしていると言ってくれた。




つづく

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