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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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概念二人っきりですね

 ぽくぽくぽく。


 雪上なので実際にはそんな音はしないのだが。クリナはそんな音が似合うスピードで子爵邸の門に向かう。分厚い鉄製の扉がついた、とんでもなく頑強な門だ。

 ちなみに騎士団に入団希望の人は門の前で『タノモウ』と叫ぶ慣わしとなっている。もちろん、そんな慣わしが広まる発端を作ったのは日本からの転生者、オーレンである。


 脇から普段門番をしている屈強な騎士達がわらわらと出てきて、十人がかりで門を吊る鉄鎖を引こうとする。


「そら英雄と聖女様の出陣だあああ!!」


 私達はどこへ向かうんだろう。街デートじゃないのか。


「いくぞおおお!!」

『ファイトォーッ』

『いっ』

「待ってええええ!!」


 えっ、と騎士達が鎖を持ったまま私を振り返る。


「えっと、すみません、アレです。アレが見たいんです!!」

「アレ?」

「十六歳のザコルがそれをヒョイって持ち上げて『では行ってまいります』って出て行ったという伝説の再現が……!!」


 おおおおおおお!! 背後にいた同志達から歓声が上がる。

 ふっ、門番騎士の中でも年嵩の騎士が鼻の下を指でこすった。


「流石だぜ聖女様。アレは俺らん間でも語り草になってる」

「ビット隊長が酔うといつも言ってるヤツですね」


 子爵邸警備隊隊長ビットはつい一週間ちょっと前、ロット達について隣国へ出征してしまった。作戦コードネームは『花』。隣国サイカ国の王都や、長年サカシータと接する国境を脅かしてきた辺境領に高ダメージのイタズラを仕掛けに行こうの会である。


 なぜ『花』かといえば、この報復は、サイカ国出身で今はサカシータ一族の母たるイーリアとザラミーアに捧げるものだからだ。彼女達がそれぞれの実家で受けた仕打ちはひどいものだったらしい。


 生まれてから今日まで隣国からの侵略行為に悩まされてきたサカシータの人々は、その隣国から亡命に近い形でやってきた少女達を受け入れ、今では『女帝』『奥様』と仰いで慕っている。特殊な力を持った影達や穴熊達を一切差別しない大らかで実力主義の領民性は、こういったところにも表れているんだろう。ずっと前線状態でしかも半分くらい閉ざされた山奥なのに、閉鎖的な雰囲気がないのはすごいことだと思う。




「なぜわざわざこんなことを…。僕の身長分だけ門を開けてもクリナが通れないでしょう」


 うおおおおおおおおおおお!!


 とかなんとか言いつつも付き合ってくれるのがザコルである。彼は、片手で門扉たる分厚い鉄板を垂直に上げ、見事外界への路を開いて見せてくれた。


「では、行ってまいります」


 私はもちろん、その場の同志も騎士も、密かについてくるつもりだったであろう影の数人まであぶり出されて、大興奮だったのは言うまでもない。





「じゃあ次は壁走りを」

「やるのは構いませんが、いつまで経っても街に着きませんよ」

「確かに。ふふっ。じゃあ街中でやれる所があったらやってもらお」


 ぽくぽくぽく。結局、騎士達に高くまで鉄扉を開けてもらい、私達はクリナに乗って子爵邸の外へと出た。


「タイタも今日は馬じゃなくて潜伏でついてくるんですかね?」

「そのようですね。楽しそうなのでいいでしょう」

「確かに。ふふっ」


 いつもは真面目に紳士をして頑張っている彼だ。オタク仲間である同志達がいる時くらい一緒に過ごしてくれればいい。


 大雪の整備には、魔獣達も出動していたらしい。早朝、ミリナの姿が見られなかったのは、魔獣舎にいたからではなく、こちらを手伝っていたからのようだ。


 よく均された雪道の上を行くのは、見た目だけはクリナに乗った私達二人だけ。一定の距離に大勢の護衛および見守り隊がついてきてはいるが、目視では確認できない。


「概念二人っきりですね」

「概念……。まあ、そうですね」


 エビーとタイタの姿もなく、開けた道の真ん中には私達だけ。高くなり始めた太陽と、その光を透かす木々。旅を始めた頃はまだ緑の葉が視界の上を彩っていたが、今は広葉樹の葉などほぼ全て落ちて、代わりに雪が乗っている。緑は針葉樹のそれだけだ。


 懐かしい気分になって、手綱を握る手の甲に手を重ねる。私達は、ここを撫でたり叩いたりすることでよく意思疎通していた。馬上だと、駆けている時など、あまり声を出せない状況というものがある。簡単なハンドサインというわけだ。


 楽しんでいらっしゃいな。皆の厚意が心に染みる。同時に、心配をかけてしまったな、と申し訳なくも思う。


「気負わずに楽しみましょう。僕も、そうしますから」


 ザコルが私の頭を引き寄せ、髪に頬擦りをする。

 私は思わず、ふへ、とだらしなく笑い、彼の胸に頬擦りを返した。




つづく

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