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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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文句があるのはそっちじゃない?

 翌朝。

 私は護衛達と共に、早朝鍛錬に参加すべく訓練場を目指していた。そんな私の隣に何者かがシャッと並ぶ。


「くぉの、ごぅじょっぱり!」


 ビシィ。

 いきなり人差し指を突きつけてきたのは穴熊三号だった。


「えっ、何ですって、ごうじょ……?」


 ボソボソ……。

(この強情っぱり。と、テイラーの第二騎士団長殿から伝言を預かっている)


「そうですか……第二騎士団長が」


 つまりハコネである。昨日の交信に護衛として同席していたか、やり取りを後から聞いたのか。


 ボソボソボソ……。

(嫌だったなら怒って文句を言ってやればいいものを、黙って出て行った挙句謝ることも許してやらないなんて。こっちの肝まで冷えるからやめろ。と、言っていた)


「そうですか……ホノルにそうされたことがあるんですかね?」


 ホノルはハコネの妻で、アメリアが私に派遣してくれた敏腕侍女である。


(そうではな……ある? どちらだ騎士団長。トラウマ?)


 もしかしなくともハコネはリアルタイムで交信しているんだろうか。伝言を装っているのは、ザッシュやアメリアを交えず勝手に穴熊を使っているからか。


「ハコネ兄さんも悪さとかするんですね。あ、たまにしてるか」


 ぎく。穴熊が律儀にハコネの仕草を真似る。バレバレもいいところだ。


(一人で戦おうとするのもやめろ、似たもの同士め。と、昨日言っていた。今日ではなく)


 あくまで『伝言』を装い切るつもりらしい。


「似たもの同士、確かにそうですね。叱ってくれてありがとうございます、って伝えておいてください」

「ぎょぃ」

「あ、待って」


 去ろうとする穴熊三号が振り返る。


「あの、強情っ張りで、ごめんなさい」

「ひめ、ぁゃまる、きも、ひぇる。ゃめろ」


 ビシィ。

 穴熊三号はそう言って再び私に人差し指を突きつけ、そしてザクザクと雪を踏んで去っていった。

 ちなみに、護衛三人を振り返ったが全員何も言ってくれなかった。






「文句があるのはそっちじゃない? ていうか謝ることも許してくれないってお互い様じゃない……?」


 私は若干のもやもやを抱えつつ、久しぶりとなる猟犬式ストレッチ体操を丁寧に行う。


「大丈夫です。ミカ様が正しくないわけありませんから。謝る必要も許す筋合も文句を受け付ける義務もありません。ないに決まってます」

「ピッタは私を肯定しすぎじゃない……?」


 目の前で同じ体操をしているのは、アーユル商会会頭ドーシャが連れてきた部下であり、彼の実妹でもあるピッタである。

 彼女は私の強火ファンでもある。自分のこととはいえ彼女の『推し』を否定したくはないのだが、私に幻想を抱きすぎではとちょっと思っている。


「ついに打って出られるのですよね」

「聞いちゃった?」


 アーユル商会はサカシータ領のお隣、モナ男爵直属の諜報部隊でもある。このピッタももちろん工作員、中でも暗号作成と解読が彼女の得意分野だ。


 諜報や潜入や戦闘は専門じゃないと彼女は謙遜するが、こっちが知りたい情報をピンポイントで教えてくれたりするし、影武者をやらせればサカシータの玄人達が舌を巻くレベルだし、手合わせしてみると普通に強かったりもする。マルチな才能を持つ女子なのである。


「もーさあ、聞いてくれるピッタ。うちの人、ていうか護衛達、わざわざ人が寝込んでる時にみんなを焚き付けようとするんだよ。同志巻き込んだりすれば私が反対すると思って!」

「ええ、ええ、いくらでも愚痴をください。私が成敗して参りましょう」

「成敗……いや、なんでみんな代理戦争しようとするの?」

「それはもちろんミカ様が大好きだからです!!」

「わあ、それはありがとうだけど普通に愚痴らせてほしい」


 私はただ喋ってスッキリしたいだけだ。特に、同志の件に関しては今更状況を覆せるとは思っていない。


「はっは、率直でいいなあ。俺も今度からそう言おうか」

「ジーロ様は本命以外に率直な殺し文句を放たないでください」


 突然気配をあらわにしたジーロに釘を刺す。またいつの間に背後を取られたんだ……。


 シャッ、私とジーロの間にザコルが高速で割り込む。


「兄様。人をやたらに動揺させるのはやめてくれますか」

「お前はもっと愛を伝えろ、父上の二の舞になるぞ」


 彼らのお父さんは昭和の日本男児らしく、愛をささやくのが苦手である。最近はいくらか妻達に素直な気持ちを言うようになったようだが。


「僕は割とあからさまな方だと思うのですが。でも、そうですね。ミカは素直じゃなくて強情っぱりで寂しがり屋なので、いちいち許可を得ず勝手に構っていこうと思います」


 どん、ザコルはそう言って胸を叩いた。なにあれ得意げかわいい。


「あの、猟犬様って、前々からミカ様の都合も考えず勝手にベタベタ触ってますよね……?」

「うぐ」


 そんなザコルの胸をピッタの正論がつらぬいた。


「いいか女子よ。この弟はな、少し冷たくされただけでも怖気付くヘタレなのだ。全く、一度や二度振られたくらいでヘコたれているようでは、一途とは言えんなあ」

「僕は振られていません!! …………でっ、ですよね!?」

「何で疑問形なんですか? 振った覚えはないですけど。勝手にすればいいと思いますよ」


 にこ。


「その肝の冷える笑顔はやめてください!!」

「あ、はい」


 すん。言われた通り笑顔をやめてみたが、ザコルの表情はみるみる絶望に染まった。


「無表情の方が怖いですね……」

「そうだな。異界娘といえば、どこかひょうきんな顔をしているのが常だからな」


 ひょうきんな顔ってなんだ。


「もう、ザコルはそんな顔しないでくださいよ。塩対応つらぬけないじゃないですか」


 私が両手を広げてみせると、彼は私の胴に手を回してぎゅっと捕まえた。


 ……その瞬間、変な声があちこちの薮や雪の中から上がるのは定期である。


 そんなに強く捕まえなくとも逃げ場なんてないのに。

 私はすがる彼の頭をいーこいーこと撫でた。




つづく

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