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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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考えることがいちいち強者というかなんというか

「あのお転婆、あくまでも自己都合の自己防衛ということにすれば、恨みも全て自分に集まると考えているのか。全く……」


 ザッシュが呆れたように、しかし少しだけ愛おしそうな顔でそうつぶやく。困った妹を想う顔なのは理解していても、一瞬嫉妬してしまう自分の惚れ込みように呆れつつ。


「ええ、そうなのでしょうね。お姉様ったら、わたくし達との交信中に『サゴシ達の敵で、闇の力を持つ人を無条件で迫害するような連中、話もする必要ない』だなんておっしゃっていたのをお忘れなのかしら。それを自己都合だなんて。全く素直でいらっしゃらないこと」


 うんうん、ザッシュに補佐および交信役としてついてきた穴熊五人も黙ってうなずく。

 サカシータ側で複数人が話し出した時は、この五人が手分けして伝言を行なってくれる。各々仕草まで真似てくれるので、まるで小芝居を見ているようで楽しい。


 最近はこの髭や髪を無精に延ばした見た目もなんだか可愛らしく見えるようになった。五人が一つの意思を持っているかのように振る舞う様は、どこか劇に使われる人形めいてもいて。


 どの者も同じような印象を受ける穴熊達。よく見れば背丈や顔立ちに少しずつ違いはあるのに、全員が全員『穴熊』を名乗っている。徹底的に個を消して振る舞っているのは、穴熊という一族の一員であることへの誇りなのかもしれない。


 十日以上にも及んだ旅の中では、その並外れた実力や土木職人としての技能にいくらも助けられた。

 主人であるザッシュの従者に相応しい体格を持ち合わせた戦士の中の戦士でもあるというのに、わたくしったら、可愛らしいお人形のようだなんて。

 きっとお姉様の、世界を丸ごと包み込む母性や姉性のような感覚がわたくしにもうつったのだわ。


「まさか自らを『討伐対象』としてしまうとはな。考えることがいちいち強者というかなんというか。あの義母と気が合うはずだ」

「それを成し遂げてしまうことも非常識ですわ。あのザコルが惚れ込むのも理解できますもの」

「ああ、いくら魔獣達に方法を聞いたとはいえな。そう簡単なことでもないのだろう、なあ、ゴウ殿よ」


 ガウ。


 ザッシュの足元にいた黒狐型の魔獣はいかにもそれらしく鳴いてみせる。

 ゴウはサカシータ兄弟の三男、サンドの従だ。サンドは他の魔獣達とともに王都を引き揚げる際、テイラー邸へも挨拶へ寄ってくれた。その際、ゴウには弟とその大事なひとを護ってくれと伝え、そのまま置いて行った。

 ゴウは主の言いつけ通り、ザッシュやわたくし、そしてサーマル第二王子の側から離れずにいる。テイラー邸の使用人達も彼の存在には随分と慣れたと思う。


 わたくしは、ゴウの許可を得てその艶やかな黒毛を撫でた。あたたかそうな見た目に反して、魔獣の肌はひんやりとしていた。


 ミカが半年で読破したテイラー家の蔵書は、わたくしもほぼ全てに目を通している。魔法や魔法士に関する書物ももちろん全てだ。

 それらの記述の中に『努力』で新たな魔法能力を得た魔法士の話など一人たりとも出てきたことはない。この世に生まれた魔法士にしろ、異世界から渡ってきた魔法士にしろ。力は神より授かるもの、つまり先天的なものだという認識は共通だった。


 それを覆したのは、もしかしなくともミカが世界初かもしれない。その実績一つをもってしても、かの聖女の名は確実に後世へと語り継がれることになるだろう。


「さて、困ったな。おれ達の方でも先んじてメイヤー教の神徒とやらに牽制をかましてやるつもりでいたのに」

「お姉様は向こうが手出ししてくるのを待つおつもりのようですわ」

「確かに、その方が正当性は保たれるのだろうが」

「困ったのは私だよ」


 育ての父、セオドアがわたくし達の間に割り込んでくる。


「もう、領内にある教会には圧力をかけ始めているんだ」

「なんと、水臭い。どうして我らに声をかけてくださらなかったのか」


 ザッシュが不満げに抗議する。


「何、大したことはしてないさ。国教だからと免じてきたものを納めろと通達しているだけだよ。今、この国は未曾有の危機だろう? 民の生活のためにも、他の宗教団体と同じように土地面積に見合った額を納税していただくようお願い申し上げているだけさ。それから、無駄にいる人員を最低限残して国に帰すようにとも要請している。何せ食糧不足が進む可能性があるからね」


「食糧不足か。多大なる支援をいただいた領の者としては耳が痛い」

「姫を護っていただいているのだから、支援は当然のことさ」

「その姫本人が関所町を丸ごと二つも救ってくださっている」

「それは私としても誤算だった。いい意味でね」


 かたじけない、とかしこまるザッシュの肩を父が叩く。


「まあ、食糧不足はただの口実さ。こんな通達くらいで出ていくとも考えていない。王妃殿下が王都の浄化を手伝うようにと召集をかけてさえ、忙しいの一点張りで応じない連中だ。……あまり民に石を投げさせることはしたくないのだけれどね」


 つまり、この非常事態に厚かましくも無税で居座っていると噂を流し、教会から民の心が離れるように仕掛けるつもりか。生活に不満を持ち信心深くもない民なら石くらい投げ込むかもしれない。


「ミカは全てを背負い込むつもりでいるようだが、姫を矢面に立たせているようではこちらも面子が立たない。それをどう説明したものか」


 ミカ達との交信は既に切れている。

 テイラーはこれ以上、メイヤー教のご機嫌を伺うつもりはない。その意志だけを伝えてあとは後日とした。こちらも考えをまとめる必要があった。




つづく

活動報告にも書きましたが、更新遅くなりました。

どうぞご査収をば。

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