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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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随分とお上品なイタズラですこと

「寝室の場所替えをいたしましょう、聖女様」


 昼食後、そう言って私の部屋を訪ねてきたのは、執務メイドのメイド長であった。彼女はザラミーアの右腕だ。


「窓はこのままでということですか?」

「ええ、あの見事な氷の滑り台はいい目眩しにもなるでしょう、とローリとカルダに熱弁されて上も納得いたしました。まあ、この邸に侵入できる曲者なんてそうそうおりませんけれど、念のためということです」


 彼女はそう言ってホホホと笑った。

 名目上の理由はそれとして、同志達の接待に使う気だろう。ローリとカルダの意見なので上もそのように認識しているはずだ。


「へへっ、ますます破壊できなくなったな兄貴」

「うるさいエビー。やっとしゃべるようになったかと思えば。あの氷の道は、僕とお前の無能の象徴だぞ」

「ぎゃああ無能って言わないでくださいよお!」

「うるさい喚くな無能が」

「また無能って言った!! 姐さんに無能扱いされたのガチでトラウマなのに!!」

「? 無能扱いなんかしてないよエビー」

「したじゃねーすか!!『そう言ってるんだけど伝わらないかな』って『この無能が』って意味っしょ!?」


 被害妄想が過ぎるチャラ男である。


「あの叱る気さえない、冷たい、ゴミを見るような目……!! 思い出しただけで鬱になる……!!」

「はいはい、ぶった斬ってごめんて。エビーは気が利くいい子だよ、流石はエビー、さすエビだなー」

「棒読み!! 俺ぁ褒められて伸びるタイプなんすからね!? 罵られてよがるタイプの変態じゃないんでそこんとこよろしくっすマジで」


 面倒くさいチャラ男である。


「その変態とは僕のことか」

「俺のことだろエビっち、いやー照れるなー」


 ヒュヒュヒュヒュヒュヒュヒュンカカカカカカカカカカカッ


「うおっ、二人してかぎ針投げてくんな避けきれねーだろが変態ども!!」


 変態連盟によるかぎ針総攻撃にエビーが悲鳴を上げる。いつの間にサゴシまでかぎ針を実装したんだ……。あの子、編み物なんてしないだろうに。


「まあまあ。仲直りができたようで何よりですわねえ」


 ホホホ。

 護衛と私で喧嘩をしていると思われていたらしい。まあ、喧嘩みたいなものか。


「聖女様、後ほど第一夫人が謝罪に参ります。どうか、お話だけでも聴いてやってくださいますよう、よろしくお願い申し上げます」

「はい、もちろん。いつでもお越しくださいとお伝え願えますか」

「承知いたしました。感謝申し上げます、聖女様」

「いえ。ご迷惑をおかけしたのは私の方ですから。騎士団や使用人の皆さんには明日改めて謝罪に回らせていただきますね」


 私がそう言うと、メイド長は首を横に振った。


「聖女様からの謝罪は不要でございます」

「でも、氷の道の撤去とか仕事増やしちゃいましたし」


「庭木の間、つまり普段誰も足を踏み入れない区域の氷の道は整備を急ぐ必要はございませんし、使用人用の小道の雪かき、雪踏みはどのみち必須でございました。失踪なさったのも夜が白んでから日の出までというわずかな時間。その間でさえも、魔獣の声で居場所はほとんど割れていたと聞いています。そうなりますと、本当に困ったのはテイラーの護衛方のみと言えるのですよ。随分とお上品なイタズラですこと、と使用人の間では持ちきりなほどで」


 ホホホ。


 ……みんな私に甘すぎじゃないだろうか。ここまででまともに私を叱ってくれたのはシシのみである。随分とお上品なイタズラですこと、がいわゆるイケズな言い回しで、実は盛大なる嫌味だというなら話は別だが。


「いや、やっぱり謝罪には行きますよ。皆さんの立場じゃ怒れないですもん、せめて謝るくらいはしなきゃ」

「謝っても逆に褒められる結果になるとは思いますけどねえ、何しろ物を一つも壊していないのですから」


 ホホホ。

 彼女はジーロと同じセリフをお上品にのたまい、私達に身の回りのものだけ持って部屋を出るようにと告げて退出していった。





「サカシータの人達の器が大きすぎる……。どうしてシシ先生以外誰も私を叱ってくれないのか」


 コマですら何やってんだと呆れてみせたくらいでそれ以上は追及してこなかった。


「ですから、ミカの暴走など暴走のうちに入らないと言ったじゃないですか」

「まあ、子供が壁を壊した記念で宴開いちゃう感じの人達すからねえ」

「慌てたのはテイラーの護衛ばかりとは全くその通りでございますね。どなたもミカ殿の実力、判断力を信用なさっておられるのでしょう」


 ここんちの子であるザコルはともかく、エビーとタイタも染まりすぎではないだろうか。外に出てきた人員を思えばまあまあの大騒ぎだったはずだ。まあ、騒ぎを起こしたのは私なのだが。


「まあそんなもんじゃないですか。猟犬殿とエビーが新雪にハマって死にかけた以外、何の被害も出てませんしー」

「それは正直誤算だったから何度でも謝りたい。ペータ、ペータ」


 シュバ。


「お呼びでしょうか」

「なんかメリーに動きが似てきたよね……。今、ちょっと叱られたい気分なんだけどさ、ペータなら叱ってくれるよね?」

「えっ、僕がミカ様を叱る? ですか?」

「うん。私がシータイで追いかけっこ仕掛けたりすると叱ってくれてたじゃない。またですか、って」

「うううーん」


 ペータは、どこかサゴシを思わせる仕草で悩んでみせた。


「正直に申し上げまして、ここ最近、ミカ様のお話が下々の耳に届きにくい状況が続いていたように思いますので」


 誰も私の話を聞いてなかった、というのををペータはお上品に表現してくれた。


「実力行使による抗議もやむなしだったかと……」

「いや庇ってどうすんの、叱ってよ」

「申し訳ございません僕では荷が勝ちすぎます!! メリー、メリー!!」


 シュバ。


「お前が私を呼ぶな」


 ゴゴゴゴゴ。


「わあその冷たい目、ちょっとクセになりそう。メリーは叱ってくれるよね? 休めって言ってたんだし!」


 ふるふる、メリーは私のもとに跪きつつ首を横に振った。


「正直、ご心配申し上げた部分もございました。しかし、窓から伸びた氷の道、クローゼットにない戦闘服や武器類、邸外に響き渡る魔獣の声。何かが始まるのだと心の臓を揺らされたあの感覚。ああ、ミカ様に魅せられたあの日の興奮を思い出すかのようで……!!」


 語り始めた……。


「ミカ様、どうかニホンへお渡りになる際にはぜひ私をもお連れになってくださいませどうかどうかどうか」

「ちょっ、自分から渡る予定はないよっ、ザコルが勝手に言ってるだけだから! しかも本気で日本沈没させそうだからとてもじゃないけど連れて行けないよっ」

「我が神に暴言を吐く民ばかりの国などお望み通り沈没させてしまえばよろしいのです!!」

「すがりつかないで、ザコルもウンウン頷いてないで……いや、全員頷いてる!? どんだけ私に過保護なの!? 止めて止めて、また私が出奔するよ!?」


 過保護軍団の標的がツルギ山や各宗教団体から日本に移ってしまった。非常によろしくない。人間を召喚、還送する方法はやはり軽々しく暴くべきではないのだ、と大いに実感した。


 それにしても、例えばここがテイラー邸ならハコネとホノルの夫妻が飛んできて説教されていたと思う。子爵邸であからさまに怒られないのは私が『お客様』だからだ。


 やっぱり挨拶回りには行くとしよう。




つづく

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