これ以上占拠されてたまるか!!
私が窓の桟から手を離さない。なので誰も動けない。そのまま五分くらいが経過した。
うちの護衛達は三人して言葉を失ったままである。そんな三人を穴熊隊長が手で雑にどけた。三人は押されるがまま端に寄った。
うぉううぉう……。
(姫よ。いつから、我々が独断で動いていないと気づいていた)
なぜ気づいているかと訊かれても、穴熊のバックに領主陣の誰かがいるのは前々からのことだ。
彼らの動向は、その領主陣の意向と思ってほぼ間違いない。私の手駒をしているのは、本当にあくまでも『ついで』なのだ。
「今回のことなら、私の監視に偉い女性陣が総出でいらしてましたからねえ。最低でもイーリア様は噛んでるかなあと思ってました」
あれだけ『イタズラ』に関わりたがっていたイーリアである。思えば朝食会の間、口数も少なかった気がする。
彼女が絡んでいるなら報酬についても何か考えてくれているだろう。サカシータ領の救世主でもある同志達に協力を要請するのだから、タダ働きはさせないはずだ。イーリアはそういう義理堅いタイプのお貴族様である。
ちなみに、テイラー在住の同志にテイラー騎士団が協力を要請するのはまた事情が違うと思うので何とも言えない。
「つくづく、同志に協力を仰ぐ件に関しては、私が言えることって何もないんですよね。もう仰いじゃった後に何か言っても無駄でしょうし。ザコルがいいと思うならいいんじゃない、って感じです」
「…………僕が?」
屍のようになっていたザコルが言葉を発した。
「自分のファンを利用するのに抵抗ありそうなのは、私よりむしろザコルですよね。ほとんどが一般人ですし」
あくまでも『ほとんど』が、ではあるが。たまに混じっている玄人はノーカンだ。
「あなたは、彼らが初めて持った刃物におっかなびっくりだったのを見て、次の日には刃のついていない十手を勧めてあげていました。一般人だった彼らに、基礎鍛錬を、武器の使い方を、一人一人丁寧に教え込んだのはザコルでしょう。私に『ファンサを』って言われたのもあるでしょうけれど、資質の高い彼らを可愛がって、指導を楽しんでもいましたよね。そのあなたが、彼らの実力と情報網のすごさ……ヤバさ? を認め、頼りたいと思うのなら、それでいいじゃないですか」
反対されようがなんだろうが、僕が彼らを信じたんだと、そう言えばいいのに。
「ミカ。あなたを、心配させたくなかったからです」
「だから、なんで私に遠慮する必要があるんですか? 私も色々葛藤してましたけど、ザコルが決めたことに食い下がったりはしませんよ」
「っ、それでも! 心配はするでしょう! ミカの心をこれ以上占拠されてたまるか!!」
「占拠?」
一体何を言ってるんだろう。
ファヒョッ……。
廊下から変な声が聴こえる。
「来た来た、変態が」
サゴシは自分が変態なのを棚に上げてニマニマする。
「姫様ー、知ってるかもしれないですけど、この猟犬殿ってあの変態集団の神なんですよー」
「うん、知ってる。私もその変態集団の一員みたいなものだし」
「解ってないなあ。姫様はその変態集団の神に変態的に執着されてる側じゃないですか。猟犬殿は、なんつうの? ドータン拒否? ってやつなんですよね?」
「ドータン、ああ、同担拒否?」
「そーそー。だから、姫様に心配してもらえる奴らが妬ましくて仕方ないんですよ」
ファヒョッ。ふぐふっ。変な声が増えた。
「自分から協力仰いだくせにい」
「黙れ!!」
ヒュン、かぎ針が飛んだが、サゴシは難なく避けた。
「穴熊や影にも言うんですよ、姫様を心配させないようにもっと上手くやれって。自分が心配してもらえないからってセコいですよね」
ヒュンヒュンヒュン
「やっぱり、ザッシュ様とかジーロ様とか、器でっかそうな人にしといた方がいいんじゃないですかー?」
ヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュンヒュン
サゴシは雨のように降り注ぐかぎ針をぬるぬると避ける。
「それか俺。なんか特別らしーし?」
ビリリ。
「あーウソウソ冗談ですって怒んないでタイさん! あの『番犬』が離してくれるわけないんだから、ちょっとくらいいいじゃないですか。俺、タイさんのこともだいすきですよー? 意外に人間ぽくて」
「うっ、うるさいですサゴシ殿!! からかうのはおやめください!!」
「ねーねー羨ましいでしょ? 俺だけはちゃーんと姫様の部下らしいんですよ」
「俺だってそのつもりでお二人にお仕えしています!!」
「どーだかー。どっちか言ったら猟犬殿への愛のが重めじゃないですか? 愛しの猟犬殿のお願いならなんでもホイホイ聞いちゃうし、何なら先回りまでして叶えちゃうんだもん。姫様差し置いて嫁気取りですかー?」
「おやめください!! 今は特に……っ」
「ふ、ふふ、ぐふ、第二夫人」
ざあ、タイタが顔色をなくした。
「マネ……っ」
「ふぐふふぐふふふぐふふぐふふお久しぶりだねえ、執行人殿。会えて嬉しいよ」
ぽん、タイタの肩を叩いたのは、背格好と雰囲気がザコルにそっくりな金眼の男だった。
つづく




