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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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僕の頭は飾り物か……?

「じゃ、私部屋にいるね。あとはよろしく」

「あっ、はい?」

「は、かしこまりました」


 ミカはエビーとタイタにそう言って寝室の扉を閉めようとした。僕は思わずその扉をつかむ。


「何ですか?」

「あ、あのっ、ミカ、体調が悪いんですか?」


 それならそうと、コマを探してこなければならない。いつの間にか訓練場から姿を消していて、どこにいるのか判らないが。 


「体調は悪くないですよ。でも部屋で大人しくしてた方がみんな褒めてくれるので。離してくれますか?」

「あ……はい」


 にこ。

 ミカは微笑みだけを残し、寝室の扉を閉めた。誰も入ってくるなと言わんばかりに。



 話をさせて、くれなかった。


 僕達はしばらく廊下に立ち尽くしていたが、廊下に控えるローリとカルダの視線に気付いて移動を決めた。

 声が通りやすい続き部屋ではなく、反対隣の小部屋に入る。


「……ヤバくないすか。ぜっっっっっったい怒ってますよね? どーすんすか兄貴」

「僕が訊きたい」


 なぜ影達と同志を通じ合わせるような真似を勝手にしたかと、怒るだろうと思っていた。ミカは味方の命に潔癖だ。同志達は特に非戦闘員も多いし、焚き付けたり、巻き込んだりすればミカが反発すると予測していた。なのに。


 この件に関して、私から言えることはありません。


 どうして彼女は引くことを選んだのか。姉上達を止めるために窓から夜明け前の雪原へ飛び出すまでする、大胆で、強い意志を持つ彼女が。


「頭抱えねえでくださいよおー。つか、俺らが姐さんの能力のこと、勝手に秘密にしようとした時と状況似てねーすか」


 偶然にも、ミカの涙に治癒効果があると知ってしまった時。ミカに明かさず、とりあえずそこにいたエビーにだけ明かした結果。


「…………そうだ、あの時も静かに一線を引かれた」


 あの日の恐怖と反省を忘れたことはないのに、どうして僕は今日も『わからない』のか。


「せめて同志のキャラバンが来る前に話聞いてもらった方が良くねえすか。じゃねーと、なんか、溝とかできそうな気が」

「だが」


 拒絶するように閉じられた扉。既に溝はできている。今更、話を聞いてくれる気なんてあるんだろうか。


「……僕は理にかなっていると思う。ファンを利用するようで気が引けるが、時間は残されていない。この冬のうちにある程度決着させる必要がある。雪が溶けてしまえば、ここもただの田舎なんだ……!」


 明確にミカを利用しようとしている王弟派や邪教は、雪があってさえも曲者を放っては圧力をかけ続けている。


 この国ははっきり言って危うい淵に立っている。王都が崩壊し、王族達はバラバラになり。地力のある領はそれでも通常通りに近い営みを続けているが、困窮しているところも少なからずある。無事に冬を越せない土地だってあるはずだ。


 突然現れて救世主のように扱われている『氷姫』に、飢えた者達が何を求めるか。予想もつかない。


「それも含めて話しましょうって。ミカさんだって、アンタと距離なんか置きたくないと思いますよ」

「いや、今度こそ、僕に愛想尽か……っ」


 ハッと顔を上げる。


「え、何すか」

「何か、気配がする」

「え、何も感じませんけど」


 エビーもそれなりに練度が上がってきたが、このどうにも形状しがたい、寒気にも近い感覚はまだ理解できないか。


「隣でしょうか。突入しますか、ザコル殿」

「…………いや。この息づかい。サゴシだ」

「左様ですか。ならばよかった」


 タイタが緊張を解く。


 どうやって戻ってきたんだろう。彼のことなのでどうにでもしたんだろうが、新雪の中、あの滑雪板では丘を滑ることはできても登ることはできない。


「兄貴って、なんでサゴシの気配が判んすか」


「何となくです。これを何と表現すべきでしょうか、例えば内臓に手を突っ込んだ時の生温かさとか、適当に抜いて食べた草に虫がついていて口内でうごめかれた時のような不快感とか、そういうのに近い、どうにも、心がぬるっとするような悪寒が走るんです。素晴らしいですよね」


「…………? 素晴らしい? 今のって、もしかして褒めてんすか? 悪口じゃなくて?」


「ええ、褒めています。近づいただけでも判る、いっそ清々しいほどの気持ち悪さ。強い力を秘めているのが如実に判ります。そんな秘めたる力の影響を敏感に感じ取れるのは、僕がいわゆる彼の『お仲間』だからでしょう。普段の彼は完璧に気配をコントロールしていて、決して人に主導を渡しませんから」


「はあ。でも、姐さんにはサゴシがいねーのバレてましたよね? タイさんが不在なのも多分バレてましたし。あの人もなんなんすか。なんで朝っぱらからこっちが手薄だってバレまくってんすか」


「それは僕が訊きたいです。僕が気配を絶って近づいてもなぜか気付くのがミカなので」


 ミカは、僕の魔力のようなものを感知しているのかも、と話していた。彼女の出自が父の言う通りなら、それもあり得ると納得できる。ただし、慣れた人間の気配に限るのでは、と僕は考えている。

 その法則を知ってか知らずか、穴熊やシータイの影は、むしろ気付かれるのを喜んでいた。ミカなら『本気出されたら感知できませんよ』と言うだろうが。


「あの、発言をよろしいでしょうか」

「何ですか、タイタ」


 僕とエビーは、おずおずと挙手したタイタの方に向き直る。


「ミカ殿は、何かを秘密にされた時、ご自分のせいだと、ご自身に要因があると思い込まれる傾向がございます。正直、今も、ひとりご自分を責めていらっしゃらないかと心配で……」

「……っ、確かに」


 自分がどんなに自分勝手な人間かを思い知らされる。ミカに一度拒絶されたくらいで頭を抱えている僕とは人間の出来が違うとしか思えない。たった今、僕は自分の意見を通すことと、ミカの機嫌を取ることしか考えていなかった。


 僕とエビーが彼女の能力を秘密にした時は、その上僕が個人的な精神状況から彼女に触れることをためらったせいで、人から距離を置かれるほどの重大な能力が発覚したのだとミカは思い込んで恐怖していた。あの日だって、ミカの涙を見て、心底後悔したのに。


「僕の頭は飾り物か……?」


 僕はますます頭を抱えることになった。


「だから抱えんなって。姐さん、すぐ自分のこと『毒物』とか『異分子』とか言うからな……。でもよ、今回は同志に協力を求めるように言っただけすよ。そこは姐さんも分かってるっしょ。姐さんは個人的に反対はするでしょーけど、姐さん自身が悪いとか危険だとかって話にはならねえんじゃ」


「ミカ殿は、ご自身がこの世界におられることで多くの人を巻き込みトラブルの種を増やしていると、そんな毒物がこの世界の人間より大事にされていい理由がないと、そのように仰ったことがある。だからこそ、今も味方を戦地に送ることに葛藤があるのではと俺は思うのです」


「それは、そうです。だから、彼女には黙って連携を取らせようとしました。知らなければ悩むこともないだろうと」


「それには俺も同意見でございます。オリヴァー会長には前々から、会員に情報提供などで協力を求める許可をいただいておりました。ゆえに筋が通らぬということはございませんが、知ってお悩みになるくらいなら秘匿もやむなしと、俺も同じように考えておりました。……しかし、かの方の勘の鋭さを全く侮っていたと言わざるを得ません」


 いつも周りの意見を尊重し、自分の意見を押し通すことの少ないタイタが瞳に力を宿して僕を見据える。


「きちんと、ご説明申し上げましょう。その上で、どのようにお考えかお訊きするのです」


 エビーもそれにうなずく。ミカにつれなくされるだけでだけでいとも簡単に頭を抱えてしまう弱い僕の背中を、二人はそっと押した。




つづく

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