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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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蚊帳の外

「とはいえ。この件に関して、私から言えることはありません」

『え』


 ミカはそう言ってスプーンを持ち直し、シチューの残りを食べ始めた。


 エビーとタイタは互いに顔を見合わせ、そして僕の方に視線を移した。

 僕が話せば、僕は必ず墓穴を掘る。僕は、とにかく黙っていることしか得意じゃない人間だ。これが世の人から『英雄』や『伝説の工作員』の称号を課せられた人間の体たらくかと、本当に自分が嫌になる。


 だと言うのに、エビーとタイタは『どうする』という視線を引っ込めない。僕は小さく咳払いし、なんとか言葉をしぼり出す。


「そ、それはどう」

「ミカさま! いつになったらいっしょに、たんれんできますか?」


 僕の小さな声は、イリヤの張りのある声にかき消された。


「明日からはできるよ。吹雪も止んだし、外でたくさん走ろうね」

「くふふっ、やったあ。ジーロおじさまも早くかえってくるといいな」

「あしたは雪がっせんもしよーぜ、ジーロおじさまもさそってさ」


 次兄は子供達に人気がある。弟達の面倒を見ていたからか、意外に子供の扱いが上手いのだ。本人も楽しんで相手しているように見える。そういう性分なのだろう。


「ゴーシよ、今日もここに泊まるのはいいが、お前は一度ララに顔を見せろ。心配しているだろうからな」

「あっ、はい、リアおばあさま。えっと、みちがとおれるようになったら、すぐ家まではしってきます!」

「騎士にも付き添わせる。置いていくなよ」


 一人で行くなと釘を刺した義母に、ゴーシは「はぁい」と頭を掻いて笑った。もしかして、心配してもらえるのが嬉しい、などと思っていたりするんだろうか。


 ……ああ、そうかもしれない。母達も、ミリナ姉上も、ミカも、ゴーシを慈しみの目で見ているから。


「イリヤさん、ゴーシさん。後で、外の雪かきや雪踏みを手伝ってやってくれないかしら。元気なあなた達が手伝ってくれたら、きっと団員達も喜ぶわ」

「えっ、ぼくもいいんですか!? ザラおばあさま!」


 イリヤが目を輝かせた。


「あの、ザラおばあさま。まえは、イリヤじゃまだあぶないからダメって言われました、ビットたいちょーに」


 ゴーシは従弟を心配しているらしい。彼はこの領でしかも市井にいたので、雪かきや雪踏みくらいやったことがあるはずだ。

 母は、ミリナの方を見て頷いた。話は通してあるようだ。


「今日はオオノがついて、降ったばかりの雪の扱いについて教えてくれるわ。イリヤさんも、これから少しずつ学んでいかなくてはね。ゴーシさんも、一緒に聞いてあげてくれるかしら」

「は、はい! もちろん……」

「ゴーシ兄さま、よろしくおねがいします!」

「うん、よかったな、イリヤ。やってみたいって言ってたもんな。でも、言っとくけどフツーにタイヘンだぞ?」


 ゴーシは純粋に喜んでいるイリヤに釘を刺した。

 確かに、雪かきの手伝いをしろと言われて喜ぶ子供なんて、領中を探してもこのイリヤくらいのものだろう。『雪国』出身者からすれば、雪の始末なんて面倒な家事の一つでしかない。


「そうなんですか、でも……」

「ゴーシくん。初めての経験は、大変でもなんでもワクワクするものだよ。正直、私もやってみたいもん」

「ミカさまも!? えっと、ぼくもね、サカシータにきてから、はじめてばかりだから、ずっとワクワクなんです! だから、たいへんでもいいんだ」


 イリヤはなおも嬉しそうに、今度は確信をもって自分の気持ちを語る。きっと、ミカが共感してくれたからだ。


「そっかあ、イリヤははじめての『ゆきぐに』だもんな。よっしゃ、じゃあ、おれときょうそうしようぜ。どっちが先にフワフワ雪をペタペタ雪にできるか!」

「ペタペタ雪! くふふっ、なにそれ! たのしみです!」

「いいなあ、私も……」


 とミカは言いかけて、女性達の視線に気付き、言葉を飲んだ。


「えっと、私はまたの機会にします」

「それでいいわ」


 実母は困った子供を見るような顔で、ミカに対して苦笑した。



「あの、ミカ」

「私、お昼まで部屋で休みますね。まだ同志達も来ないだろうし」


 ミカは、僕の問いかけを無視するようにそう言った。


「まあ、ミカが自分から『休む』ですって! えらいわ!」

「ふふっ、休むって言ったら褒められちゃいました。読書や書き物、編み物くらいはしてもいいですか」

「もちろんよ、ねえリア様」

「ああ。根を詰め過ぎるるなよ」


 もう、窓から出る気はないんだろう。窓の外には、氷の道ごと雪を整備する騎士が多数出動している。出たとしてもすぐに見つかるはずだ。


「ミカ様。お部屋まで私が送ります」


 ミリナ姉上が名乗りあげる。


「ふふっ、信用ないですねえ。厨房にお礼だけ言いに行ってもいいでしょうか」

「ええ。皆さん心配なさっていましたから、きっと喜ばれます」

「もう、風邪でもなんでもないのに皆さん過保護なんですから。ミリナ様が『お姫様』の時は私がお世話しに行きますからね? 寝かしつけまでして差し上げます」

「まあ。贅沢だわ」


 くすくす、ミカと姉上が笑い合う。

 僕を始めとした護衛は完全に蚊帳の外だった朝食会は、まもなく解散となった。




つづく

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