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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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呑気だな

「ローリ、カルダ、なぜ普通にバラしにきたのですか」

「も、申し訳ございません猟犬様! 普通にバレているものと思い、つい」


 サゴシ達がどうやって『内緒話』しに行ったのかと訊いたら、スキーで街に行ったと普通に答えてくれたローリとカルダである。


「しょーがないすよ兄貴、普通にバレてましたもん」

「一体いつから普通にご存じでいらしたのか……」


 普通に勘繰ってカマをかけただけである。街に行こうと言って反応がなかったら『じゃあ魔獣舎に行きたい』とか色々言ってみるつもりだった。普通に本当だ。


「いやはや聞きしに勝るご慧眼ですな執行人殿!」


 普通に買い被りすぎである。


「正直なところ、事情を明かしてでもお止めしませんと、普通に門を突破なさるやもと思いまして」

「それなっす。普通に雪ん中を高速移動できるらしいすからね、うちのミカ坊は」


 そう、私一人なら新雪の上に氷の道を展開し、滑って移動するのも可能といえば可能である。

 最悪それも視野に入れてはいたが、ポーズだけで実際にはやらないと思う。なぜなら、ゴールまで魔力が持つかどうか判らない、という単純かつ致命的な問題があるからだ。


 自分一人が通れるだけの狭い道とはいえ、邸から目的地まで通せばそれなりの面積になる。途中で魔力切れを起こして倒れでもしたら新雪に埋まって死ぬだろうし、運よく氷の上に倒れたとしても凍えて死ぬ。

 魔力切れを予感して止まれたとしても、子爵邸の方が街から見て高い土地にあるので、もと来た氷の道を滑走して戻るのは至難の業。新雪にハマる危険を知ってからは、特にその顛末を想像しやすくなった。


「そう、公式聖女様が駆け抜けたという氷の道! 見ましたか執行人殿!」

「ずっと訓練場におりましたので、実はまだ」

「あれを見ぬなどもったいない!! 隣室にいた猟犬様に全く気づかれず窓から抜け出してあまつさえ罠にかけるなどとそんな奇跡を起こせる姫が他におりましょうか!! その奇跡の象徴のようなあの道を!! まだ見ていない!!」

「廊下で騒ぐな、というか僕の失態を大声で喧伝するな」

「失態っつうか当然の結果っつうか。兄貴だって『雲行き怪しい』って自分で言ってたじゃねーすかへへっ」

「うるさいエビー。僕だって追求される覚悟くらいはしていた。だが、まさか窓から飛び出すなんて! しかも夜明け前の視界の悪い時間に! あのお転婆、危険とか躊躇とかいう言葉を知らないのか!」

「はいはい、どうどう」


 エビーがザコルの叫びを受け止める。

 自分は夜明け前の薄暗いうちにミリナ達を出発させようとしてたくせに……。それに、薄暗くても訓練場や門に人がいるのは充分判った。止めに行くなら今しかない、それだけだった。


「しかしローリ殿、見ようにも、敷地内の氷の道は罠も多く危険ということで、子爵邸警備隊の皆さんが整備なさっていると伺いましたが」

「寝室の窓から伸びた滑り台については手が回っていないはずですぞ。猟犬様がおハマりになったという落とし穴も」


 おハマりになった落とし穴……。


「だから僕の失態を見せ物にするなと何度」

「はいはい、窓のやつは後でも見れるっしょ、あんなとこ誰も乗らねーし。なんなら冬の間ずっとあそこにあんじゃねーすか」

「ははは、あり得る」

「部屋に戻ったら即刻破壊しますから!!」

「そんな殺生な!!」


 わーわーギャーギャー。




「呑気だな」


 ぴた。

 私の腕を掴みながらふと振り返ったイーリアの一言に、背後で騒いでいた人々は一瞬で凍りついた。






「こおりのみち、のってみたかったのに。ワナだらけだからアブないっておこられちゃいました」

「せーじょさま、ワナだらけじゃないみち、つくって!」

「うんうん、ちゃんと新雪が踏み固められたらそこに作ってあげるよ。罠がなくても、新雪にハマったら君たちでも危ないし」


 身長を超える深さの新雪は危険。今回のことでしっかり学んだ私である。そこでペータやメリーに釘を刺されたが、腰くらいの深さでも充分危ないらしい。とにかく新雪には今まで以上に気をつけようと心に刻んだ。


 朝から大暴れしていた私のために調理長が作ってくれたというシチューは、具沢山でミルクのコクがあってとても美味しかった。しばらく食欲が落ちていたので心配させたらしい。


「なんか、同志村でピッタが振る舞ってくれたシチューを思い出すなあ……」

「あー、あの大捕物の日すか」

「うん。あの日も拐われかけたり、曲者罠にハメたり、ザコルが超超超カッコよかったり色々あったよね」


 んぐっ、ザコルがシチューを喉に詰まらせた。


「…………あの日も、僕は失敗してばかりでした。ミカにもハメられましたし」

「えー、でも助けに来てくれたときは超超超超超カッコよくて泣いちゃいましたよ」

「やめろ」


 カッコいい、というと照れちゃうザコルだ。


「ミカは、曲者に一撃入れていましたよね。まだ武器の扱いも教えていなかったのに」

「そうでしたねえ、でも刀振り回したらたまたま当たっただけですよ」

「背後に迫る気配を察知して的確に振り回したものを『たまたま』とは言いません」

「全くでございます。隙を作るために書類をばら撒いたり、飛び出せと俺に合図をくださったり、およそ素人のご令嬢がなさる振る舞いではございませんでした」

「ご令嬢じゃないってば。私の話なんていいからザコルの武勇伝話してよ、執行人くんは」


 くすくす。少年達が笑っている。


「ミカさまたちのはなし、いつもおもしろいです!」

「うん、おれもそーおもう!」

「面白く話していらっしゃるけれど、命の危険があったのよ、イリヤ、ゴーシさん」

「そっか、ごめんなさい……」

「いいんだよ、今思い返したら面白おかしいことしか起きてないもん。味方は誰も死ななかったしね」


 誰も死ななかった理由については様々な憶測飛び交っていたが、今となっては理由なんてどうでもいいことだ。面白おかしく語れることに今日も感謝して。


「で、同志とうちの影達が内緒話してるんでしたっけ」


 ぎく。私は不自然に黙った護衛三人の方ににこりと笑いかけた。




つづく

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