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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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俺が行ってきてやる

「というわけでな、俺が行ってきてやる」

「えっ、どこへ」


 コマとの会話が途切れた瞬間、ジーロは脈絡なくそう言い放って立ち上がり、プテラの象みたいな質感の肌をペチペチと軽く叩いた。


 ギュオ。

 なに?


 プテラノドン風の魔獣、プテラは心なしか迷惑そうである。


「山だ、山。俺が先触れに行くなら安心だろう。俺にとってツルギ山は聖域だ。感情に任せて無駄に蹂躙するような真似はせんと約束しよう」

「いや、でも、私は自分で行くって、だから」


 だから、こんな騒ぎを起こしてまで『抗議』したのに。


「何も判らん状況で、冷静にできるのか。相手も冷静とは限らん。だからこそ迷っていたのだろう」


 ぐ、と言葉を飲む。相手が取り乱したり、傷ついたり、今いる家族との関係を乱したりしたらどうしようかと……。


「ザコルやミリナ姉上じゃないが、俺も、お前を無駄に傷つけたくはない。本当にいるかいないか判らんような相手より、お前のことをだ。だから先に行って確かめてきてやる。それくらいさせてくれ、いいだろう?」


 ジーロの穏やかな眼差しに泣きそうになる。この人もどうして、私なんかに優しくしてくれるんだろう。


「ミカをお前呼ばわりするな」


 ぎゅう、後ろから強めに拘束される。


「お前は反省しろザコル。手荒な真似をさせればこの娘は余計に傷つくぞ。後悔させたいのか?」

「……いいえ。反省しています、これでも」


 しゅんとした声音に、私はぽんぽんと彼の手の甲を撫でる。わかってるよ、と、ごめんね、を添えて。


「ならいい。お前が焚き付けたのだから、姉上はお前の方で鎮火しておけよ。コマ殿は行くのか」

「ミリナが行かねえなら行く理由がねえな」

「そうか。では、シシ殿でも攫っていくか」

「そりゃあいい。町医者も『女王』を焚き付けた一人だからな」


 けけっ、とコマが笑う。


「そっ、それはだめ! シシ先生が何か罰とか受けたらどうするんですか!?」


「俺がさせん。我が領が世話になった聖女が、直々に主治医と定めた者だ。勝手に害するようならサカシータ当主名代として抗議する。ああ、いっそ当主本人を連れていくのもアリだな。かの結果はあくまでも当主の『主観』に過ぎん。本人からチベトに話させた方が早いかもしれん」


「呼んだ?」

「わっ」


 尖塔の陰から突如オーレンがその巨躯を現した。朱雀がキョエエ! と嬉しそうに叫ぶ。


「この件は静観させてもらってたけど、やっぱり『鑑定』した僕が行った方がいいのかなって僕も思うよ。でも、ミリナさんも連れていく。あれだけ気の立った『女王』に逆らう勇気がないんだ、僕」


 とほほ、と頭を掻くオーレンに、ジーロもザコルもコマも「はあ」と白けた顔になる。


「……と、というのは冗談で、子息は等しく『当主候補』として扱うことにしたからさ。この機会に長老様に挨拶させとくのもいいかなって!」

「そうか。今いない奴らとザコルは置いておくとして、ララとルルはどうするんだ」

「あの二人はまだ決心がついていない。それにもう少しお勉強も必要だ」


 ララとルルは、家庭の事情により、サカシータ領では七歳以上の子がほぼ全員が通うという学び舎に通うことができなかった。よって読み書き計算などはもちろん、サカシータにとってのツルギ山、そこに住まう山の民に持つべき畏敬、山神信仰、アカイシの国境守りのことなど、領民が当然持っているべき知識が充分に備わっていないらしい。

 本人達もその教養不足は自覚していて、とてもではないが『子息』を名乗ることはできないと遠慮しているのだ。


「とりあえず、ゴーシやリコと一緒にイチから学んでもらうことにした。教えられる人間も手配してあるよ。僕達の子になろうがならまいが、教養はきっと彼女達を支えてくれるだろうからね!」


 パチパチパチ。なんて素晴らしく家族思いのお父さんだろう。私は手を叩いているが、他の面々はスルーしているのはなんでだ。


「母親達に教師を手配しろというのはザコルからの助言だろうが。素養は身を扶けるというのも」

「うっ、そ、そうだけど!」


 そうだったのか……。


「素養は身を扶ける、はミカの受け売りですよ」

「そうかそうか、流石は異界娘だ。説得力が違うなあ」


 パチパチパチ。なぜ私が拍手されているんだ。


「えっと、サカシータには学び舎という義務教育制度が元々存在するじゃないですか。そこに当主子息も等しく行くなんて、なかなか珍しいというか、ある意味で進んでいるかと思うんですが」


 ふるふる、ジーロは首を横に振った。


「教師を手配する手間と金を惜しんだだけだ。それに、家に教師という他人を入れたくなかっただけだろう。我が家の父上殿は極度の人見知りだからな。マナー講師でさえ手配を渋って、母がその役を務めた結果、面倒が見きれず素行の悪い野生児のような子息が量産されたというわけだ」


「そう、なんですか、ね……?」


 あまり肯定するのもどうかと思って曖昧な返事をしてしまった。そういえば、もっとマナーの勉強させればよかったなあ、なんてオーレンが言って、ザラミーアが一番教師が必要なのはあなたよ、とかツッコんでいた気がする。


 どうりで、と言ってはなんだが、イーリアに厳しくされたらしいイアンやジーロは所作が洗練されているはずだ。長男次男に歳の近いサンドやザッシュもまあまあ紳士に育ったものの、五男以降は忙しいイーリアでは手が回らなくなった、ということらしい。


「俺やシュウがなんとか面倒を見ていたが、全くもって手を焼かされてばかりだった。異界娘のヤンチャなどかわいらしい方というか、いっそモノを一つも壊していないことを褒めたいまである」


 どうりで、と言ってはなんだが、ジーロが私を庇ってくれるわけだ。


「下の弟達の中でも、比較的大人しかった末の双子が必然的に放置される形になってしまってな、それは俺も申し訳なかったと思っている。ザコルは自力で学んでくれたし、ザハリも要領よくやっていたから……」


 だから、双子の間に起きている問題に気づくのが遅くなった、と。


「この野犬が比較的大人しいだと? 暗部で俺や王子がどんだけ躾け直したと思ってンだ。全部お前のせいかよこのクソ木偶が」


 ゲシゲシ。


「やめてよ小鞠ぃ! こんな場所で蹴ったら滑って落ちちゃうよ!」


 わーん。


 私達は、こんな朝っぱらの、しかも高い塔の屋根の上で一体何をしているんだろうか。まあ、騒ぎを起こしたのは私なのだが。


「はは、職場に恵まれたようでよかったなあザコル」

「……そうは思いませんが。ジーロ兄様やシュウ兄様には感謝しています。自由に生きてほしいです」

「ああ。俺達は俺達で楽しくやっているさ。お前も、肩の力を抜いて生きろよザコル」

「はい」


 ぎゅ、私を抱く腕に力が入る。



 ツルギ山に行くメンバーはオーレンを筆頭に、ミリナとジーロ、そして巻き込まれでシシが先行してくれることが正式に決まった。




つづく

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