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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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俺と逃げるか?

「よう、そこのクソ姫。てめーはそこで一体何やってんだ」


 キュルウ……


 魔獣舎の方から飛んできたミリューと、その彼女に騎乗したコマが呆れたみたいな顔と様子で私を見ている。プテラも一緒だ。

 私と朱雀は、子爵邸の正門横にある高い尖塔の屋根で一休みしていた。ここなら巡回中の騎士も近づけない。


「朱雀様に協力してもらってプチ家出中です。おはようございます、コマさん、ミリュー、プテラ様」


 ギュオオ…。

 プテラに『様』付けするなと怒られた。玄武と朱雀は怒らないのに。


 ミイにも敬語を使うなと怒られたことがある。単にフレンドリーに接して欲しいだけだと思ったが、もしかして種族的な序列とか、そういうのが関係しているんだろうか。


 一人と二匹も尖塔の屋根に乗ってきた。重みで崩れないことを祈るばかりだ。


「お前、スザクと意思疎通できんのか? そいつの鳴き声は言葉に聞こえねえとか言ってなかったか」

「そうですね、朱雀様は思考を言語化してないんだと思います。簡単な指示の言葉は理解できるみたいですが、翻訳能力を使ってもコミュニケーションは厳しいです。でもなんか、魔力のやり取り? 的な感じで通じ合ってます。ね、朱雀様」


 キョエ、キョエ。

 朱雀が私の頭を食んでくる。何となくだが、腹減った的な波動を感じる。


「魔力のやり取りで通じ合うだと? お前、やっぱ魔獣じゃねーの」

「違います。皆、朝食はまだですよね」


 私は自分の魔力をじわりと溶かし、その場のメンバーにつなげる。

 魔力を供給すると、魔獣達は満足そうに鳴いた。コマの顔色も良くなって、より一層かわいくなった気がする。


「ミカぁぁぁ…!!」

「あ、忍者が壁をよじ登ってきた」


 恐ろしい形相である。怒ってるなあ。


「ザコ……」


 ぐい、背後から急に腕が伸びてきて、私を捕まえた。

 ヒュ、と息が上がる。

 気配が、なかった。


「俺の方が速かったなあ、ザコル」

「ジーロ兄様!!」


 ザコルが殺気を放つのにも構わず、ジーロは私の耳元に口を寄せた。


「どうだ異界娘よ。あれに叱られそうだし、俺と逃げるか? ん?」

「ジ、ジ……ロ、さま」

「ミカを離せ!! ミカは、僕でしか駄目なんだ!!」

「我が弟ながら傲慢だな。この娘には、お前を選ばない自由だってあるのに」

「違っ、そうじゃ」

「そこが窮屈なら、いつでも攫ってや」


 キョエエエエエエエエエ!!


「っ!?」


 突如けたたましい叫びを上げた朱雀に、流石のジーロも注目する。

 私の方は、自分から意識が外れたことで気が抜けたのか、急に身体から力が抜けた。


「あ」


 ずる、と急勾配の屋根の上にあった足が滑る。


「異界む……っ」


 脱力してジーロの腕から抜けかけた私の胴にガッと腕を回される。同時に、片腕も掴まれていた。

 胴を捕まえたのはザコルで、腕を掴んだのはコマだ。魔獣達は翼を広げかけたところだった。落ちたらキャッチしてくれるつもりだったのだろう。


「高所で人間を取り合うんじゃねえこのバカ兄弟どもが」

「お前もミリューの上でちょっかいをかけてきただろうがこのクソコマ!! 腕を離せ、僕が支えるから」


 キョエ、キョエエ!


「おいやめろスザク、つつくな」


 朱雀からくちばし攻撃を受けたコマが私の腕を離す。


「す、みま……」

「謝るな。謝らなくていい。出し抜こうとした、いや、話を聞かなかった僕を叱ればいいんだ」

「……ううん、ぐだぐだと、悩んでた、私も悪いんですよ。心配かけましたね」

「………………」


 ジーロもかろうじて掴んでいた私の上着から手を離した。私は、胴を抱え込む人の首に手を回す。嗅ぎ慣れた匂いや体温に、安堵が広がっていく。 


「俺もすまんかった、驚かせたな」

「いいえ。怒られそうだから、庇ってくれようとしたんですよね。ありがとうございます、ジーロ様」

「いや」


 ジーロが少しだけ寂しそうに眉を下げた気がしたが、すぐにあっけらかんと笑い返してくれた。




 

「そうかそうか、事実、ザコル以外の男は受け付けん体質だったのか。惜しいなあ。俺なら、その野生みあふれる自由さや奔放さごと愛してやれると思ったのに」

「あ、愛」

「僕だってこの破天荒さを愛しています!」

「あい……っ」


 ひええ、と再び脱力しそうになるが、今度は腰をがっちりホールドされて膝の間に入れられているので安心安全である。

 何でだか知らないが、ザコルもジーロも尖塔の屋根の上に腰を下ろして落ち着いてしまった。下で騒いでいる人々に報告などしなくていいんだろうか。まあ、騒ぎを起こしたのは私なのだが。


「ですが、僕から離れるのは色々な意味で危ないのであまり迂闊なことは」

「色々な意味で危ないか、確かに。お前が死にかけるくらいだものなあ、ザコル」

「死にかけた? え、なんで」

「窓の外で新雪に溺れて窒息しかけていたからな、俺が助けてやった」


 ふふん、とジーロが得意げに胸を叩く。


「窓の外? あれ、やっぱり落とし穴には落ちてくれたんですか? ていうか新雪に溺れて窒息!?」


 雪にただハマったとかじゃなく、溺れて窒息。そんなことがあり得るのだろうか。


「まあ、僕の身長より積もっていましたから。とはいえ、溺れかけたのは僕が下手にもがいたせいです。冷静でなかったので」

「ざまあないよなあ」

「黙れください」

「本当に死にかけたんですね!? ごめんなさい、そんなに危険なことになるなんて知らなくて」


 雪国恐るべしだ。新雪の上に落とし穴はもう二度と作るまい。


「謝らなくていいと言った。あの薄氷を張った落とし穴には正直感心しましたし」

「感心してる場合ですか!? 危険な目に遭ったのに!!」

「僕を危険な目に遭わせられるなんて感心しかない、という話です」


 うんうん、ザコルの言葉にジーロがうなずく。


「そうだぞ。俺達を殺せるだなんて正直魅力でしかない。ザコルが嫌になったらいつでも別れろ、俺が引き取る」

「いや、あの」

「俺が先約だ野生児。犬が嫌になったら俺がジークに連れていく。毒や薬にも詳しいしな、研究もはかどるだろう」

「あの、いや」


 コマまで割り込んできた。ザコルからじわじわと殺気が漏れ出ているのだが、ジーロもコマも完全にスルーだ。


「研究なら俺も手伝ってほしいぞ、ツルギ山の遺跡や文化について書にまとめておきたいことがいくらでもあってな。そういうのは得意だろう異界娘」

「えっと」

「山はこいつにとって今や因縁の場所だ。呑気に編纂の手伝いなんざしてられっかよ」

「ジーク領にも因縁の場所はあるだろうが、貴殿もホッタだしなコマリ殿」

「その名で呼ぶな。大体、こいつとシロウは親戚でも何でもねえ」

「分からんぞ? 世の中、一つも予想のつかぬことが容易に起きるからなあ」

「仮に繋がりがあったとしたって百年も前に召喚されてきたヤツと近しい関係のわけねえだろボケ」

「ふむ、それは確かにな」


 いつの間に仲良くなったのか、ジーロとコマは二人で会話を始めてしまった。


 オーレンからは聞いていないが、ジーロも私とツルギの王族との関係について知っていそうな雰囲気だ。

 というかさっき、本気になったら気配をオーレンや本職の影ばりに消せることが判ってしまった。彼の戦闘力や野生スキルを考えたらそりゃそうかと思うものの、普段、やたらに気配を主張しているので正直油断していた。


 やはり、子爵邸内は内緒話には向かないようである。




つづく

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