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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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私だってと、思わずにはいられなかったのよ!

「ああ、やっと私の番よ! 待ちわびたわ!」


 三日目の早朝、そう言ってザラミーアが部屋に飛び込んできた。

 後ろから苦笑気味の執務メイドがワゴンを運び込む。朝食とお茶の用意をしてきてくれたようだ。


「ザラミーア様。来てくださってありがとうございます」

「いいのよいいのよ、夜は寂しかったでしょう。今夜は添い寝して差し上げましょうか」

「ふふ、魅惑的なお誘いですが、オーレン様とイーリア様が眠れなくなっては申し訳ないですから」

「そう? でも仕方ないわね、私もコリーに恨まれたくはないもの。あの子、ちゃんと我慢できているのかしら」

「夜は続き部屋で騎士二人と仲良く寝ていますよ」


 正直、ザコルが隣にいなくて夜寝られるか心配だったのだが、隣室に気配を感じられるだけでも安心できたのはよかった。気配察知の鍛錬を積んでよかったと思えた瞬間である。ザコルがちゃんと眠れているかまでは判らないが。


「あなた達はいつも仲が良くって微笑ましいわ」

「ザラミーア様達こそ。三人いつもラブラブじゃありませんか」


 イーリアもだが、オーレンのザラミーア愛も相当な重さである。一夫一妻が基本の現代日本人からすると不思議な関係にも思えるが、三人は三人でちゃんと愛し合う夫婦だ。


「あなた達があんまり仲良しで幸せそうだから、あの二人も素直になろうと思えたのよ、きっと」


 オーレンは怖がりだし、リア様は強情っぱりなの、とザラミーアは悩ましげな溜め息をつく。


 彼女は、それでも惹かれ合う二人に仲良くあってほしいと願い続けた。その願いは無意識のうちに魔法となり、素直じゃない二人の背中を押し続けた。


「あの二人のかすがいになれるなんて、私ほど幸せな『影』もいないわね。と言っても、自分が影をやっていたなんて、最近知ったのだけれど」

「でも、闇の力は活用なさってましたよね、ほら、地下で」


 この子爵邸の地下には、他を圧倒する力を持つサカシータ一族相手でも『おしおき』ができる仕組みが隠されている。

 中心部分に位置する牢に入った者の神経と精神に作用し、本来の力を発揮できなくさせるほか、ちょこっと口を軽くさせるといった魔法効果を生み出す魔法陣機構だ。魔法陣自体が巨大迷路にもなっており、一度深部に入れば容易には出てこられない。この陣を動かすためには、闇の力を持った者が石板を通じて力を流し込む必要がある。


「あの陣を動かす者は、オーレンが指名していたのよ。いつもは私と、何人かのメイドで動かしていたわ。マヨもその一人だった。私もメイドも、もちろんマヨも、普段は影をしていたわけではなかったの」

「そうだったんですか…」


 闇の力を持っていると自覚していたわけではなく、単にあの陣を動かす役に選ばれただけだと思っていた。ザラミーア自身はあの陣に必要な力の種類を理解していなかった。そういうことだ。

 オーレンもそのあたりはぼかしつつ、意図せず選出したように見せかけていたのだろう。


 ザラミーアは、ザコルにイアンの尋問の手伝いを頼んだことがある。そのことから、ザラミーアもザコルの秘めた力について知っているのではと考えたことはあったが、結局、彼女は純粋に尋問の手伝いを頼んだに過ぎなかった。


 ザコルの方は深部の仕組みを見てすぐにピンときたのだろう。だからサゴシとともに石板の席に座った。そして私を誘導した。王都の地下の機構に関して、勘付かせるきっかけを作るために。


「闇の力、と魔獣ちゃん達は呼ぶのよね。我が領の影達は『陰』と呼ぶわ。『陰』が一種の魔法であることは理解していた。でも、私はそれを授かれなかった。その上、他に特に目立った能力もない落ちこぼれだと長年思っていたのよ。私が利用されないように、リア様とオーレンが守ってくださっていたとも知らずに……」


 しゅん。


「ザラミーア様……」


 どう声をかけようか迷ったところで、ザラミーアはパッと顔を上げた。


「今日は、ミカにぜひ訊こうと思っていたのよ」

「何をですか?」

「もちろん! あのお遊戯のことよ!」

「お遊戯?」

「ほらっ、ジョジーちゃんに習ったんでしょう?」

「ああ、あの強制謎踊りのことですか」


 私が猿型魔獣ジョジーに教えを乞い、鍛錬によって得た闇の力は、人の神経に作用し、強制的に望む動きをさせるタイプの力だ。少年二人と影達にエビー直伝の謎踊りをさせる余興は大変に盛り上がった。


「あなたって本当にすごいわ! 天に授からなかったものを、自ら手を伸ばして掴んでみせたんですから! 私はもうこんな歳だけれど……それでも」


 ぎゅ、ザラミーアは胸の前で手を組み合わせた。


「それでも、私だってと、思わずにはいられなかったのよ!」


 榛色の大きな瞳がきらめいて私を捕まえる。この凄絶な色香に抗える者がこの世界に何割いるんだろうか。流石はあの双子のご母堂である。


 どうやって闇の力を意識したの、練り上げたの、と彼女からの質問は絶えることがなかった。眠れる獅子を起こすことになるかもな、とも思いつつ、私は彼女のために懇切丁寧にコーチングした。


 人に教えていると自分の復習にもなるので、大変有意義な時間となった。




つづく

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