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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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寛容すぎないかい?

 トントン、オーレンの執務室を軽くノックする。

 風呂は全てとはいわないが邸にある半分は沸かしてきたし、頭痛や倦怠感も引いた。思考はバッチリクリアである。


 扉は内側から開き、どうぞとザラミーアの声がした。


 部屋に入ったその瞬間目に飛び込んできたのは、床に正座をするシシと、それをソファでふんぞりかえって睥睨するイーリアの姿であった。


「ひい!! シシ先生、せんせい…っ」

「ミカ様?」


 一度取り戻したはずの冷静さをかなぐり捨てて駆け寄った私を、シシが不思議そうな顔で見上げる。


「イーリア様!! シシ先生に何させてるんですかっ、何も悪いことしてないのに…!!」

「私は何もさせていない。そいつが勝手に反省しているだけだ」

「えっ、先生自分から正座してるんですか!?」

「ええ。自己反省のために」

「なんだ……」


 へなへな。私はシシのかたわらに座り込んだ。

 どうして人んちの執務室で自分に体罰を与えているんだというツッコミは横に置いておくとして。ひどい尋問を受けているとかでないなら、とりあえずそれでいい。


「言いがかりをつけて申し訳ありません、イーリア様」

「構わん。フッ、良かったな、シシ」


 イーリアに笑われたシシは怪訝な表情になった。


「まさか、本当に私を心配してここまでいらしたのですか」

「当たり前じゃないですかっ、ザコルが、オーレン様は尋問の続きをするつもりでシシ先生を連れてったなんて言うから……」


 じっ。


「?」


 私を黙って見つめるシシを不思議に思って見返す。そして、その視界はサッと大きな手の平でふさがれた。


「それ以上見つめ合うなら、僕はこの邸ごと破壊します」

「邸ごと!?」


 シシが「はあ」と溜め息をついた。


「全くこんなジジイに、というのもそうだが、四六時中激しく嫉妬ばかりしていて疲れないのかと不思議でしょうがない」

「僕の勝手です」

「コホン。私はそちら様の主治医として、魔力過多を起こしていないか視ていただけです。その分では、ここに来る前に風呂でも沸かしてきましたかな。あの状態でまっすぐここに来ていたなら叱ってやるか、魔力解放の薬でも試させようと思ったが」


 魔力解放の薬は、魔封じの香への対策としてシシが作ってくれた症状緩和薬である。一部の邪教徒が香とセットで使うことでラリっているらしい『ニタギ』の毒を原料にしている。もちろん、その中毒成分は何か他の薬草と合わせる事でいい感じに中和されているらしい。


「そうですね。あれも検証しなきゃでした。でも、三包しかないから迷っちゃって」


 あと、逆に魔力の制御ができなくなってダイヤモンドダストが強制発動、みたいになったら危ないと思ってできなかったのもある。何にせよ、試すなら屋外のひらけた場所がいいだろう。


「今、原料となるニタギを取り寄せられないかオーレン様に交渉中です。勝手に毒物を取り寄せなどしたら、住んでいる町の町長に殺されますからな」

「南方原産でしたよね。鳥飛ばしてる子達がいるので、手紙と一緒に頼んだらいいですよ」

「鳥?」

「ミカさん」

「わっ」


 壁からぬるりと現れたオーレンに飛び上がる。


「君さ、彼らが自分達の情報流してるの知ってて黙認してるんだってね。寛容すぎないかい? 今も外にいるだろう」


 部屋の外に控えているのはローリとカルダ。二人はサカシータ騎士だが、出身は南方の辺境を含む広大な領、カリー公爵領だ。


「彼らが私に護衛としてついているのはビット隊長の采配です。それに、彼らただの同志ですし。情報漏洩といっても鳥か飛脚か、言わば空路か陸路かの違いでしかないので、遅かれ早かれ公爵領にも伝わると思います」


 飛脚。同志の中でも俊足自慢が集まってリレーすることで、とんでもない速さで情報をやり取りするシステムである。水害直後から今に至るまで、馬を使って片道十日以上かかる距離を二日や三日で往復している。


 文字面だけでは実感が湧きにくいと思うが、実際にあの距離を馬に乗って旅してきた私には判る。あの距離を毎日全力で駅伝しているだなんてはっきり言って非常識だ。


「ただの同志って。まさか君、同志、って言われたら誰でも信用してるわけじゃないよね?」

「まさか。ここに全会員の顔と名前を覚えている最高幹部がいますから、私の前で同志を騙るのはほぼ不可能です。あと、テイラーにも確認を取りました。カリー公爵様ご本人が同志というか、古参会員のお一人なのは確実です」


 深緑の猟犬ファンの集い。身分や立場を超え、かの英雄を讃え崇める一大組織。同志とはその会員を指す言葉である。というか、シータイにいる会員の人々をまとめて同志と呼んでいたら定着してしまった。


 同志のトップに君臨するのは、富のテイラーと名高い伯爵家子息、十一歳。

 基本的に推しに認知されず陰から見守りたいというのが共通認識であり、特に身元の割れやすい貴族会員の多くが名を明かしていない。今までに会員と判っている貴族は、オースト国南方を治めるカリー公爵本人と、サカシータ領の隣を治めるサギラ侯爵とその嫡男くらいだ。あとにわか新規として第二王子が加わったくらいか。


「……タイタくん。会員が大物だらけみたいだけど、本気で国家転覆とか乗っ取りとか考えてないよね?」

「はは、滅相もない。趣味の集まりでございますよ」

「全国規模で僕を趣味にするのはやはりおかしい気がするのですが…?」

「この後に及んで公爵様以上の大物なんて出てこないよね? ね?」

「申し訳ございません。会員自身の許可なくして名を出すことは固く止められておりますので」

「そっかそれは仕方ないね。せめて否定だけでも」


 にっこり。


「………………」


 笑顔のみ無言で返した『執行人』にオーレンが何とも言えない顔になった。

 タイタは公爵や王子以上の大物がいると肯定しているわけではない。大物がいるかいないかも答えられない、多分それだけだと思う。


「オーレン様。オーレン様こそ、ローリさんとカルダさんのこと黙認してらっしゃるんじゃないんですか? 彼ら、オーレン様には伝えてあるって言ってましたよ」

「ああ。公爵様の名を出されたら許可しないわけにいかないだろう? 僕は長いモノには巻かれる主義なんだ」

「またまたぁ。何かあったら徹底抗戦する気なんですよね?」

「何もないことを祈っているよ」


 にっこり。


 こっちもこっちで否定はしてくれなかった。




つづく

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