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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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よし、まずは風呂を沸かそう

「ミカ、疲れているんでしょう。今日は珍しく酒も口にしていませんよね。部屋で休みましょう」

「え、ちょ、ま」


 ザコルは半ば無理矢理道場から私を連れ出した。後ろからはタイタが一人ついてくる。ミリナは笑顔でひらひらと手を振っていた。


「離して、ちゃんと行くから、自分で行くから、うじうじ悩んでごめんなさい、だから離して」

「何を言っているんですか。あなたという要人が初めて行く場所に、先遣隊が出るのはごく自然なことですよ」

「その先遣隊の筆頭が物騒すぎることおっしゃってるんですよっ、あっちには仲良くしてくれた子供達だっているのに……!!」


 シータイに滞在していた山の民の子供達のうち、シリルとリラは当のカオリの孫達だ。当然だが、その母親はカオリが山で産んだ娘、カオル。

 チベトはともかく、彼らはきっと何も知らない。騒ぎにすればするほどデリケートな部分が踏み荒らされて、修復不可能になってしまうかもしれない。大体、まだそのカオリが私を産んだ『香織』であると確信も得ていない段階なのに。


「その子供の一人はあなたに恩義を感じ『仲間』にすることにこだわっていましたから、事情を知ればむしろ姉上に加勢するのではと思いますが」

「いくらあの子だってそんなすぐ受け入れられるわけないでしょう!? 第一まだ決まったわけじゃないのに、半端なこと吹き込んで思い込ませるのも危険です!」

「黙っている方が悪い、とは思いませんか」

「思いません! 軽々しく言えるほど簡単な問題じゃないはずですから!」


 山の民の長老チベトは、私が一族の誰かが産んだ子であることに既に気づいている可能性があった。

 根拠は、初対面で一族の未婚の女性を象徴する紋様の入った頭巾を渡してきたこと、そして二度に渡りわざわざ着用を促しているということだ。頭巾は、王族とか皇族の姫が着けるティアラみたいなものにも相当するらしい。どう考えても余所者に軽々しく勧めるような代物ではない。


 一族の女性を親に持つ人間が、異世界から渡り人としてやってきた。その時点で、その渡り人を産んだ女性には、おのずと異世界とこの世界を行き来した容疑がかかる。彼女は、あっちで子供を産んだなどと話したのだろうか。チベトは私の何を見て確信に至ったのだろう。


「あの、ザコルって、自治区の人でも逮捕できる権限とかありますか」

「難しいですね。自治区のことですから、国から抗議という形を取ることは可能だと思いますが」


 それを聞いて少しだけ安心した。オースト国として山の民が召喚術か何かを行使したことを罰するのは難しい、ということだ。


「あなた自身には、いくらでも引っ掻き回す権利がありますよ」

「ええ、そうでしょうね。だから私が直接行きます。とりあえず彼の、先生のところに連れて行ってください。お願い……!!」

「はあ、どうしてあなたが庇ってやらなければならないんだ」


 ぶつぶつ。


「逆に、どうして私のために泣いてくれる人を放っておかなければならないんですか。彼だって、私の…っ」


 じわ。涙があふれそうになる。


「ミカ殿。どちらにいらっしゃるかはおよそ見当はついております」

「タイタ」


 穏やかな声に顔を上げる。いつもの変わらない笑顔が目に入った。


「かの方はあなた様が呼び寄せたお客人。滅多なことは起きようもございません」

「そう、だといいんだけど」


 確かに、私の責任で子爵邸に呼びましょうとは言った。


「しかし、赴かれる前に、浴室を回ってからにしてはいかがでしょう。今日は、昼以降ほとんど魔力を使われていないと記憶しております。その状態で赴けば、主治医殿は必ずあなた様をお叱りになるでしょう」


 ……私のことなど放っておけばいいのに、どうしてご自分の体調を優先させるということができないのか。


 まだ怒られてもいないのにシシの言いそうなセリフが頭に浮かぶ。


「失礼ながら少々、冷静さや思考力を欠いておられるようにも見受けられますので」

「そうかも、全然頭回ってない気がする」


 典型的な魔力過多の症状だ。そういえば頭も痛いし涙も出る。


「さっきの薬湯に何か入っていたのでは?」

「はあ? まさか。きっとただの胃薬ですよ」

「僕が毒味すると言ったのに」

「ザコルが毒味したって意味ないでしょ!」


 ふん。と鼻を鳴らすザコルも不機嫌だ。どうしてそんなに…………


「あなたが『山』や、あの医者のことばかり気にするからです」

「………………」


 そこまで自覚していて、なおも当たりを強くしてくるうちの彼氏よと。

 そういえばこの人、私が祖母を懐かしむだけでも嫉妬するんだった。最近私に優しいシシのことはもちろん、現在進行形で私が頭を悩ませている『香織』のことなんて、なおさら全くこれっぽっちも気に入らないんだろう。


「ザコル、あなたがいないと私、何にもできないんです」

「まさか。僕のことなんていくらでも出し抜けるくせに」

「ううん、あなたという心の支えがなければ、悩む余裕さえなかった。……うじうじ悩んでごめんなさい、私、あなたに甘えすぎてたと思います。もう悩まないから、だから」

「いえ、あなたは僕のもとでいくらでも悩んでください。その間に、僕が周りを使って適宜解決してあげます」


 ニコォ。


 弱ったふりをしてみたが過保護大魔王には全く響かなかった。


 ……よし、まずは風呂を沸かそう。頭をクリアにしよう。話はそれからだ。




つづく

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