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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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じゃあ、そういうことでね

「えー、じゃあ、そういうことでね。第一回餃子パーティの準備をしていきたいと、思いまーす!」


 わーっ、パチパチパチ。お揃いのエプロンを着けたゴーシとイリヤが歓声を上げている。

 ゴーシの保護者たるララとルルは、二歳のリコを連れて昨日昼の間に造花作りの拠点でもある一軒家に帰っていた。ゴーシも帰る予定だったが、大雪になりそうで危ないということで彼だけ子爵邸に残ったのだった。


「リア! ザラ! 餃子だよ餃子だって餃子なんだよミカさんが作ってくれるんだってすごいすごいすごい」

「分かった、分かったから落ち着け」

「料理人達に覚えてもらうのでしょう、あなたが騒いでいては話が聴こえませんわ」


 そうだった、とオーレンはお口にバッテンを指で表現する。そんなゆるキャラみたいな仕草に妻二人が苦笑する。


「ミカ様、小麦粉です」

「ありがとうございますミリナ様」


 私と同じ灰黒の謎服風エプロンを着けたミリナからボウルを受け取る。今日の彼女は助手役を買ってでてくれた。


「えー、ではまず、こちらのパン用の小麦粉……というか強力粉しかなかったので、これだけで作っていきたいと思います。多分、皮がもちもち系の餃子になるかと思いますが、いいでしょうかオーレン様」

「いいに決まってる! 僕は皮が厚くて食べ応えのある方が好きなんだ!」

「えー、ご当主の許可も得られたのでこのまま続けまーす」


 本来なら、強力粉と薄力粉を混ぜ合わせて丁度いい食感を目指すところだが、テイラーから送られてきたのは強力粉ばかりであった。薄力粉を入れたほうがパリッと仕上がるのは分かっているが、サカシータで流通しているのは主にライ麦だし、他に選択肢もないのでとりあえずは強力粉百パーセントで作ってみることにしたのだ。


 強力粉と薄力粉では小麦の種類からして違う。テイラーでは主に強力粉用の硬い小麦を作っているのだろう。パンを作るために育てているのだから当たり前だ。

 いっそ、ライ麦粉と強力粉を混ぜた生地を作ってみるのもありかもしれない。きっと、私も オーレンも食べたことのない味になるだろう。


 ミリナから水の入ったカップを受け取る。あらかじめ量を計っておいたものだ。私はそれに魔法をかけ、水を即熱湯にした。


「この小麦粉に塩と熱湯を少しずつ加えて、木ベラとかで混ぜて、まとまってきて冷めたら手でこねて丸くしてラップを……あ、ラップとかなかった。じゃあ、せめて油で表面をコーティングしとこっかな。そこに、濡れ布巾かけてしばらく寝かせます。この生地は乾きやすいので注意が必要です」


 ふむふむ。興味津々の少年達と邸の料理人達が最前列を陣取り、私の手元を穴が開くくらいの勢いでのぞき込んでいる。


「生地寝かせてる間に餡というか、肉だねを作っちゃいます。ミンチにしてもらった鹿肉に、細かく刻んだネギと、塩を少々。よく混ぜておきます」


 本来ならば白菜やキャベツを刻んだものとか、生姜やニンニクや大葉などの他の薬味も入れたりするのだが、ここにあるのは狩りで得たジビエ肉と塩と、そしてエシャロットにしか見えないネギのみ。とはいえネギと塩が贅沢に使えるだけ勝ち組だ。普通に美味しい餃子になるだろう。


「おいザコル、ネギを刻んでみてくれ」

「僕がですか? 分かりました」


 ザコルは調理ができるらしい、と聞きかじったジーロがネギとナイフを弟に押し付けている。ザコルはそれを受け取り、事前に私が教えた通りにものすごいスピードでネギを刻み始めた。あっという間にカットネギが山になり、そして部屋にネギの芳香が充満した。


「うっ、これはすごい、すごいが」

「目に染みる…っ」

「目が、目があああ」


 最前列の料理人達がうめきながら、それでも何とかその人間離れした手技を見ようと目をこすっている。


「やべ、ちょっと退がろうぜタイさん」

「ああ。ミカ殿、ミリナ様も少し離れたほうがよろしいかと」


 エビーとタイタは私とミリナを現場からそっと遠ざける。目が潰れていては護衛の仕事に支障が出るからだ。

 イーリアとザラミーアも壁際に避難したが、サカシータ一族には目潰しも効かないのか、オーレンとジーロと少年達は歓声を上げてザコルの手元をのぞき込んでいる。


「君すごいね!? 本当に何でもできるじゃないか!! 本当に僕の息子なの!? 今すぐ定食屋やラーメン屋もやれそうだ!」

「ふむ、元王太子側近というのも伊達ではないな」


 定食屋とラーメン屋はともかく、王子の側近はネギを刻まないと思う。


「僕は側近ではありません。ただの暗部構成員です。それに、食材にナイフを使い始めたのは最近のことです。今まで、調理という行為にあまり意義を感じていませんでしたから」

「先生はそのへんのくさとかドングリとかをそのままたべてたんですよね!」

「そうです」

「ぶふっ」


 イリヤの言葉を肯定したザコルを見て、とゴーシが吹き出す。


「マジかよザコルおじさま! おれだけかとおもってたよ」

「ぼくもたべてました!」


 野生の真面目くん達が揃って手を上げる。ミリナはちょっと恥ずかしかったのか苦笑だけしていた。


「はは、お前ら揃って野生児か。いいなあ、誇らしいぞ」

「待ってジーロ、誇るようなことじゃないからね? 君達がみんな苦労してたのは知ってるけれど! もうっ、これからはいいものばかり食べるんだよ……!」


 オーレンが涙ぐむ。決してネギのせいではないだろう。




つづく

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