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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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長生きの秘訣

 翌日、まだ陽も登らぬ早朝。

 激しい風の音と冷え込みから、外の猛吹雪を確信する。窓はきっと白で覆われていることだろう。


 布団から少しでも顔を出せば、ひやりとした空気が触手となって頬や首をつかみにかかる。肺に侵入しようとする冷気から逃げるように、私は目の前のあたたかな胸に顔をうずめた。頭の下を通って背中回った腕が、意思を持って私を抱き寄せる。


 おはよう、と声をかけると、あくびまじりの挨拶が返ってきた。その反応に満足し、起きだそうとすると背に回った腕に力がこもり、身動きが取れなくなった。

 心地よい圧力と温もりが幸福感となって、じいんと胸を熱くする。


「つかまっちゃった。ふふ」

「……まだ、寒いじゃないですか。僕が、暖炉に、薪を、くべてあげます……から…………」


 ぐう。


 二度寝しちゃった。無防備すぎる。愛しさと切なさとナントカが同時に湧き上がってしまう。


「ダメダメ。私まで二度寝したら起きられなくなっちゃう。ザコル、ザコル。一緒に暖炉を点けましょう。点けないなら先に起きますよ」

「嫌だ。待って」


 きゅぅ、柄にもない甘えた物言いに心臓をつかまれる。


「ま……っ、まって、またキャラ崩壊してますよっ、強くすりすりしないで、あごがチクチクする…っ」

「ミカはかわいい、ちいさい、やわらかい、ちいさい……ああ、すきだ」

「んえええええええええええ」


 供給過多で朝から心神喪失しかけるも、何とか自我を保ち切ってザコルを文字通り叩き起こし、ベッドから這い出た自分を褒めたい。





「寝ぼけて、すみません…………」


 パチッ、熾火に新しくくべた薪が音を立てる。ゆらめく火の前でザコルが頭を抱えている。私はその丸まった背をさすった。


「いえ。いつもはむしろ私の方がベタベタしてますので」


 私がかわいいとか愛してるとか好きとかカッコいいとか言い募ってすりすりしてザコルが限界になり、ベッドを飛び出すのがいつものパターンだ。


「ザコルって、小さい女の子の方が好みですか」

「えっ」


 ぎく。


「ぼっ、僕は背丈で人を選んだことなどありません! ……でっ、ですが、たまたま、ミカが、その、背丈だから、その背丈に、愛着? を持ってしまった、と言いますか、ええと」


 しどろもどろ。動揺させてしまった。


「ザコルがチビな私が好きだと言ってくれるなら、チビでよかったなと思っただけですよ」

「やはり、気にしていたんですか」

「背の高い女子に憧れた時期もありました。私では、カッコいい系になりたくてもなれないので」


 そういえば、隣領の領都チッカで山の民が開く屋台に寄った際、最高にカッコいい山岳民族の女になりたいから服をチョイスしてくれと頼んだら、居合わせたシリル少年に『お姉さんじゃカッコよくならないと思う』とズバリ言われたのは記憶に残っている。


「イーリア様やミリナ様は、上背もあって凛とした佇まいでカッコいいですよねえ」

「ミカも、格好いい時がありますよ」

「えっ本当ですか!? やったあ、ザコル嘘つかないから信じますよ!」

「あの寒気のする笑顔で人を容赦なく追い詰めている時なんかは非常に格好いいです」

「寒気のする笑顔」


 それは格好いいというか、何というか……。


「あ、でもザコルの魔王みたいな微笑みはカッコいいからきっと褒め言葉だ!」

「ぼっ、僕のことはいいんです! ……実は、ミカに内緒話があったのですが。昨夜は話をする前に寝入ってしまいました」

「内緒話?」


 急に声のトーンを落としたザコルに合わせ、私も小声で問い返す。


「大事な話ですか」

「はい」


 いつまでも部屋着のまま暖炉の前を動かない気配二つに業を煮やしたか、続き部屋の扉がガチャッと開き、早く着替えやがれとオカン…ではなくチャラ男に怒られた。





 結局その後、二人でゆっくり内緒話するようなタイミングなど訪れないまま、早朝鍛錬のために道場へ向かうことになった。

 一番乗りを目指してやってきたつもりだったが、道場には既にオーレンとミリナ、そしてイリヤとゴーシがいて、四人で竹刀を振るっていた。竹刀はもちろん、オーレンがこだわって職人に作らせたものだ。


「めーん!」

「ははっ、その意気だよミリナさん」


 オーレンは義理の娘と孫達に剣道を教えていた。前世では高校まで剣道部だったらしい。今世でも、竹刀を使った素振りはもちろん、片刃で造られた太刀を使って居合斬りのような鍛錬も行っている。


「あっ、ミカさまたちだ! おはようございます!」

『おはようございます』


 丁寧にお辞儀までしたイリヤにつられ、何となくその場に居合わせた全員が挨拶を復唱し、ぺこりと頭を下げあった。朝の会である。


「皆さん早いですね。今日こそは一番乗りかと思ったのに」


 私の問いには、ニカッと笑ったゴーシが答えた。


「きのう、めちゃくちゃ早くねたんだ! な、イリヤ」

「はい。早くねた方が早く大きくなるって、ビョーキしにくくなるって、ずっとケンコウでいられるって…………ずっと」


 もじもじ。もじもじ。


「コマさんって人が、おれらにそう言うんだよ。な?」


 ゴーシがイリヤの肩を叩く。ミリナはニコニコしてそんな二人を見ている。


「そっか。ずっと健康で、長生きしてあげるんだね」

「いっ、いきじごくしてあげるんです! ぼくが、ずっと!」

「うんうん。ぜひやってあげて。ここにいるみんなの分まで、ずっと」


 こくり。歳上に囲まれた少年は小さくうなずいた。


「…………っ、僕の孫、天使すぎじゃない!?」

「っ、いや同意っす、マジで」

「俺の寿命もあげるから長生きして……!!」


 涙もろい祖父とチャラ男と闇の眷属は号泣している。


「オーレン様。俺も、横で共に素振りをしてもよろしいでしょうか」

「いっいいよ、いいに決まってるよ、タイタ君にはちょっと軽いかもしれないけど竹刀も良かったら使って」

「ありがとうございます」


 タイタは一例し、脇に置いてある木箱から竹刀を一本引き抜いてきた。


「鍛錬を続けることは、サカシータ一族の長生きの秘訣とザコル殿に教わりました」

『ほんとう!?』

「ええ、英雄たる叔父様がおっしゃることですから、間違いございません。今日もしっかり体づくりをいたしましょう」

『うん!』


 少年達はタイタにならい、手にしていた竹刀を構え直した。




つづく

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