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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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コードネームは『氷』

「コマさん。いくつか、こちらから質問してもいいですか」

「ああ。お前の質問には答えると約束したからな」

「そうでしたっけ。答えられることなら答えてやる、じゃなかったですか」


 へっ、とコマは私に笑ってみせた。


 そんな話をしたのは、彼の特殊な体質を告白された時だったと思う。それなのに私が大した質問をしないからと、私が訊きたそうなことを勝手にしゃべりに来てくれたこともあった。彼はとことん親切なツンデレお兄さんである。


「四郎さんは、ご自分で出て行ったんですか?」

「可能性は低い、と俺は考えている。正直、そこまでする自我が残っていたとも思えない。それに、あそこを出て行くのは自殺行為だ。あいつは角から常に魔力を発している。もう若くないせいか、自身の魔力生産力じゃ放出する量にまるで追っ付かねえ。常に魔力供給を受けるか、魔力を放出しねえような処置が必要だ」


 魔力を放出しねえような処置、か…。


「変なこと訊くんですが、四郎さんって今も闇タイプですか?」


 某ポケットに入るモンスターみたいな言い方になってしまった。


「フン、いい質問だ。結論から言えば『否』だ。人間としてのあいつは闇の力でしか魔法を発動できない、典型的な闇の魔法士だった。だが、魔獣として生きる上で必要とする魔力と、角から放出している魔力はごくごく一般的なものだ」

「一般的…。じゃあ今は『万物』タイプなんですかねえ。ミイが私の魔力タイプは自然の全てで、光も闇も含む万物だというんです」


 ミイ! 肩で白リスが踊る。


「万物か。まあ、そんな感じかもな」


 そう、光も闇も含むという割に、いかにも光魔法っぽい『浄化』は使えないらしいのが私である。何だろうな、こう、確固たる正義とか信念とか、潔癖なまでに突き詰める何かが内にないからかもしれない。

 それはまあともかくとして。魔獣としての四郎が闇を持たないというのなら、アレが効くということになる。


「彼、結婚してましたか?」

「いや、独り身のまま、同じ渡り人の子を養子にとって俺の姉として育てていた」


 フジの里を作ったという六人のうちの誰かの子だろうか。

 その一人、万治の手記から察するに、召喚時に子供だったのは四郎のみで、あとの五人は大人というか少なくとも十代後半以上という印象だった。四郎が若くして子供を迎えたのか、誰かの晩年の子か。


「あいつは、自分の力を人のために役立ててえだのとぬかして里を出たくせに、渡り人の中でさえも異質で強大すぎた自分の力を後世に遺すことを恐れていた。だから、自分の子供は作らなかった。昔も今も、それが気に入らんという輩は絶えない」


「例えば」

「例えば、豚だ。何度無理だと説明しても、何か手を施せば人に戻るのではと期待していたらしい。クソだ」


 豚。彼が王宮の豚と呼ぶのは、現王の弟君、つまりは王弟殿下である。クソ呼ばわりだが。


「それから?」

「てめえ、今度こそ気づいてんだろ」


 イラついたように睨まれる。


 今度こそ、というのは以前、コマの特殊体質について知る手がかりはあったのに踏み込まず、なんとなくコマが人に触られるのを避けていそう、というフワッとした動機で彼を庇っていた件から出た言葉である。

 私は基本的に、相手が話したい時に話したいことを話せばいい、というスタンスで生きているだけだ。


「例えば、邪教集団とかですか」

「へっ、決まってんだろうが」

「やっぱり、そういうことなんですね……」


 彼は、そういう輩に連れ去られた。そういうことだ。

 邪教が絡むなら、必ず『魔封じの香』が絡んでくる。アレは、魔獣の力を抑え込む目的ではなく、延命のために魔力が放出されないように使われている、ということか……。


「えーと、邪教の経典の一節で『尊き渡り人は我らが祈りによって新しい境地へと達し、聖なる獣神となって我らを導くだろう。かつてご光臨なされた神、ラースラ様は言った。我が同胞、神の卵たる渡り人を我らがもとに迎え、非情なる世に光射す聖域をもたらそう』ってとこなんですけど」


「よく覚えてんなお前。俺はクソムカつくから一文字も覚えてねーぞ」

「私もここしか覚えてないですよ。ザコルの頼んで、そこだけ見せてもらったんです」


 他のページは見せてもらえなかった。エビーにも邪教の経典なんか真面目に読み込もうとするなと怒られた。


「四郎さんが子供を残す気がなかったというなら、このかつて光臨したラースラ様の言葉とやらはイコール四郎さんの言葉ではない、ってことなんでしょうか。あと『光射す聖域』って何なのかなって思ってたんですよねえ」


 四郎は、結界師とでも呼ぶべきか、認識阻害の魔法を使い、周りから隔絶したエリアを作り出せる魔法士であったらしい。


「その『聖域』の中で何がしたいのか知りませんけど、どうやら、彼らだけの隠れ里というか、無法地帯を作りたいようなことで合ってますかね」

「今時点で、シロウを連れ出したとしても実現不可能だがな」

「だけど、同じように力を持った渡り人を孕ませれば受け継ぐかもしれない。そうでなくとも、膨大な魔力量を持つ渡り人からガッツリ魔力譲渡でもされれば、四郎さん自身が復活するかもしれない」


 いわゆる、粘膜を介しての魔力譲渡。それなら孕まずとも繋がるだけでできる。


「いくら魔力譲渡されようと、あいつの人としての寿命が復活するとは思えない。あいつの年齢はもう……」


 百年前に召喚された日本人の子供。今、百歳から百十歳の間。人間としての寿命はとうに限界だ。


「でも、万が一それが成功して無法地帯を作られるのは、近隣領にとって脅威でしかない。だから、王都周辺、または王領周辺にあたるテイラー、ジークは私を遠い辺境に逃す作戦を支持した」


 私が捕まると何かマズいことが起きる。いつだったか、シータイ町長マージにそんな話をされたことを思い出していた。

 マージがこの王宮の秘密というか、四郎をめぐる一連のことを知っていた可能性は低いと思うが……まあ、でもマージだしな。愛する推しの坊ちゃまに関係することなら何でも調べ上げているかもしれない。



 コードネームは『氷』か『氷を守れ』ってとこか。




つづく

今更ですが。フジの里って、四郎って何だっけ……という方はep.5あたりを読み返してください。

やっとコマちゃんの話ができます。

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