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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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ここは全てあの異界娘の手の平の上だ

「全くコマさんは。どうせ何か聞きつけて試しに来たんでしょうけど、無闇にうちの子を怒らせないでくださいよ。この子だって最終兵器の一人なんですからね? 私には国に終わらせんなって言うくせに」


「は…っ、試したとは? 最終兵器? 俺が?」


 タイタは私の言葉に動揺しているが今更である。彼は思わずといった感じで頼みの綱、相方エビーの方を見たが、そのエビーもうんうんと頷いていた。

 うちのかわいい騎士様が国をも揺るがす巨大秘密結社の実質最高幹部、というのは今や誰もが知る事実である。


「フン、検証と前置きなんかしたら本気で怒らせられねえだろが。『浄化』っつうのはな、正義を拗らせたヤツにしか発動できねえ代物だ」

「正義を拗らせた……」


 猟犬狂いとカプ厨を拗らせた、の間違いではないだろうか。というのは飲み込んだ。タイタに神徒の資質があると聞きつけて検証を仕掛けたのは事実のようだ。


「ミイには、神を信じてる人がたまになるって聞いたんですけど」

「正義を拗らせたヤツには宗教関係者が多いっつうだけだ」

「なるほど。それで宗派は問わない感じなんですねえ……」


 猟犬教でも山神教でも、拗らせるほど心酔しているなら条件は満たされるというわけだ。ミイによれば、イリヤも今の時点でジーロやタイタと同質の魔力を持っているらしいが、まだ魔法の発動はおろか闇や呪いの類を感知するにも至れていない。


 生まれつきの資質を『浄化』が使えるまでに昇華させるには、本人の生き方も重要になってくるのかもしれないな、と思った。


「お前を諦めてねえのも本当だがな、姫」


 ぴく。タイタが再び青筋を立てる。気が立ってるな…。


「またそーいう。どうせ冗談だから気にしな……」

「黙れ下衆が。ミカは絶対に渡さない」

「おうおうやったれ兄貴ィ!」


 気が立ってるのはタイタだけじゃなかった。

 ちょっとータイさんが怒ってるとそっちに戻れないんですけどー!! と離れたところでサゴシが叫んでいる。


 私は思わず眉間を揉んだ。


「いい加減にしたまえ」


 ずい、といきり立つ男達の間に入ったのはシシだった。


「聖女様は今も魔力過多の症状を我慢していらっしゃる。私はそう言ったはずだが、聴こえなかったかね」


 ぴた。シシ以外の男達は全員口をつぐんだ。






 薄暗く冷気で満ちた廊下を抜け、魔獣舎の奥、魔獣達のための個室が円形に並んだホールまでやってきた。

 ここだけは天井近くに光源となる窓があるので、廊下側から見るとまるでスポットが当たっているようにも見える。高い天井も相まって荘厳な雰囲気だ。


 私がホールに入ると、既に並んで待っていた魔獣達が一斉に伏せの体勢をとった。いらっしゃいませ、と言われているようで少し笑う。


「お待たせしました」


 私はザコルに降ろしてもらい。彼らにお辞儀で返す。久しぶりのカーテシーだ。


「今日も貯め込んでるからね、いっぱいもらってくれるとこっちも助かるよ。万が一、お腹いっぱいでいらないって子がいたら今言ってね」


 オーレンとシシの仮説を信じるならば、魔力の過剰供給というのもそれはそれで体に良くなさそうである。魔獣も魔力過多になるかは知らないが、今回から配慮していくことにした。


 ドロン、私の肩に白リスが現れる。


 ミイミイミイ!

 みんな腹ペコ!


 白リスは元気にそう教えてくれた。


「ふふっ、そっか。じゃあ遠慮なく」


 私は目をつむり、集中モードに入る。この場にいる魔獣達全ての気配を意識する。彼らの発する『熱』に向けて、自分の魔力をじわりと流してゆく。


 熱と表現したが、魔獣達にいわゆる体温はない。そこはコマと一緒だ。魔力を血とし巡らせることで生きる生物達。しかしその魂の中心のような部分に、私は確かな『熱』を感じていた。




「あたたかい、か……。ミリナの言う通りだな。ここにいると、ミカという大きな存在に包まれたかのような錯覚さえ起こす」

「母上にしては詩的だな。だが非常に共感できる。なるほど、ここは全てあの異界娘の手の平の上だ」

「まあ、僕ら全員ミカさんの間合いに入っているというので間違いはないよ」



 間合い。魔力譲渡会を物騒な会として結論づけている人々がいる。



「ほう、これは確かにコントロールしてやがんな。どう視る、町医者」

「魔力がまるで網の目のように拡がって、今全ての魔獣達とつながった。見事の一言だ。一匹残らず存在を捕捉できる感覚の鋭さ、繊細かつ大胆な魔力操作。私とて魔法士の端くれだが、自分の魔力をあのように完璧に操る展望など少しも思い浮かばない。魔力量はもちろん、あの集中力とセンスならば、例えどの時代に渡ってきたとしても『別格』であったに違いない。そう思わないか、コマ」

「…まあな。長く生きちゃいるが、あんな規格外は俺もお目にかかったことはねえ。それにしてもお前、随分と『親バカ』になったな町医者」

「親バカ!? 何の話だ!!」



 親バカ。最近、自称主治医が私をベタ褒めしてくるのでいたたまれない。私は王子ではないのに。



 ゴーシとザラミーアはサゴシに促されて少し離れたところで見ているようだ。指向性を持たせているのでダイヤモンドダストほどの負担はないと思うが、念のためである。


 魔力を渡し終わると、ミリナがかけてきて私を抱き締めてくれた。




つづく

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