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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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どーせ間に挟まる気なんかないよ

「さあ、ミカ様。私のことはいい。あなた様はさっさと行って、その魔力過多をどうにかする準備でもしなされ」

「バレてましたか」

「バレぬとでも? 大体、私が何のためについてきたとお思いか」

「オーレン様に誘われただけかと思ってました」


 はあ、と溜め息をつかれた。


「魔力の譲渡をコントロールできるようになったとおっしゃっていたでしょう。オーレン様と話すうち、安全に行えているか判断してやったほうがいい、という話になりましてな」

「そうだったんですね。それはどうもありがとうございます、シシ先生」


 ぺこり。


「何だよ、心配してついてきたんだったら最初にそう言やいいじゃねーすか。素直じゃねーなータヌキせんせーは」

「人をタヌキ呼ばわりするんじゃない。全く…」


 不良の軽口にシシが眉を寄せる。


「せんせーせんせー。気になってたんですけどー、せんせーには俺とかどーいう風に見えてるんですかー?」


 もう一人不良が挙手した。


「真っ黒とかに見えてたりして?」


 闇の不良はおどけてみせる。


「サゴシ君、でしたかな。君の場合、むしろ魔力をほとんどまとっていないように視えます」

「ええっ、マジですか。でも俺、一応……」


 魔法士の端くれなんですけど、とサゴシは言外ににじませた。


「私も、君がどういう者かは知っている。そういう意味でも君はザコル様のおっしゃる通り『完璧な影』なのでしょう。悪魔の力とも言われるその力は、本人が奥底に仕舞い込んでいるうちは感知や視認などできないものです」

「……ほーん?」


 サゴシは首を傾げた。


「実際、私はこのザコル様が秘めていた力にも気づけませんでした。普段、ほとんど漏らさずに生きておられる証拠だ。ザコル様も君も、よほど制御が上手な方と見受けられます」

「褒められちった…」


 えへ、とサゴシがぎこちなく笑う。


「どしたのサゴちゃん」

「なんか、俺あんま大人の男の人に褒められたことないんで、ソワソワするっていうか」

「あっ、その気持ちちょっとわかる。私もお父さんいなかったから。褒められるとどうしていいのか分かんなくなっちゃうよね」

「多分それです。悪い気はしないんですけど」


 えへ、えへへ、私とサゴシはにまにま笑い合う。サゴシは孤児院育ちなので、私よりもずっと苦労や我慢が多かったはずだ。


 コホン、とシシの方は少し気まずげに咳払いした。


「とにかく。私のことはいいから先を急ぎなされ。あなた様も私と同じような『酔い』の症状を我慢しているはずだ。少しは誰かに譲ったのでしょうが、それでもまだまだ魔力はこぼれ出ている状態に見受けられますから」

「? 誰かに譲った? いえ、今日はまだ誰にも魔力あげてないですよ。ミリュー達も、あとでいいって言うから」

「……? ですが、先ほどより落ち着いて……ああ、なるほど。コマですか」

「コマさん? ああ、もしかしてあれ」


 珍しく彼の方から私に密着してきたと思ったら、あれはそういうことだったのか。


「てめえが俺のこと忘れてっからだ」

『わっ』


 突然現れた気配にザコル以外は飛び上がった。




「赤毛、いつまで腑抜けてやがる」


 ゲシゲシ、コマは未だに一言も喋らないタイタを蹴り始めた。


「おっ、おやめください! 基本的に、会話に加わるのは最低限としているだけでございますから」

「そーかよ」


 ケッ。コマは面白くねえ、とばかりに真面目な騎士に吐き捨ててみせる。また何を挑発しにきたんだろうか……。


「そっ、それより! ミカ殿に勝手にお触れになった件ですが! いくらコマ殿とて戯れが過ぎます!」

「タイタ、タイタ。たった今理由が判ったから大丈夫だよ。あふれてた魔力をもらってくれただけみたい」

「そう、なのですか……? コマ殿は、魔力を受け取る能力がおあり、で……」


 ビリリッ。


「やべ」


 しゅば、サゴシが大きく後退する。シシが「まさか君まで」とつぶやくので、思わずうなずいてしまった。

 私にも、今確かに静電気のような光が『視えた』から…………


「タイタ。鎮まってください。君が思うようなことは何も起きていません」


 ザコルが冷静に諭す。


「しかし!」

「そこにいる『それ』はただの人間ではない。どちらかといえば、魔のものに近い存在です」

「魔のもの、ですか。しかし以前、魔獣ではないとおっしゃったのはコマ殿ご自身。ミカ殿はもらえる時はもらって欲しいと確かにおっしゃってはおられましたが、魔獣でもなければ自分から『食べる』ようなことはできないはずだ。あとは、ザコル殿にしかできない、許されない方法でしか……!」


 タイタの言う通り、人間の中で積極的な魔力譲渡を行える相手は今のところ、相性と関係性に恵まれたザコルしかいない。

 方法はマウストゥーマウス、または長時間の肌のふれあいだ。対して、魔獣はそこまで相性にこだわってなさそうだし、さらにそんな行為を経なくとも能動的に魔力を取り込みにいける。彼らはそれを『食べる』と表現している。


「タイタ、落ち着いて。コマさんは私に本当にもたれかかっただけ。その人は、近くに来るだけで『食べる』ことができるんだよ」

「へー、やっぱ魔獣枠ってやつじゃねーすか」


 エビーはピリついた空気など無視して軽口を叩く。


「魔獣じゃねぇ。だが、俺は食える。つーか、今までも姫の許可を得て食ってたぞ」


 コマはサッと私のそばに寄ろうとしたが、私を抱っこしているザコルがサッと避けた。


「なぁーんで、俺らはそれ知らされてねーんすか」


 むす、エビーまで不機嫌になり始めた。


「言えるわけないでしょ、コマさんの特殊な体質に関することだよ。もうあまり隠す気がないみたいだから言うけど、彼は、周囲から魔力を取り込まないと活動に支障が出ちゃう人なの。別に私以外の魔力の高い人とか、魔獣とか、食べ物なんかからも少しずつ取り込めるみたいだけど、普段から魔力あふれさせてる私から取り込むのが一番効率良かったってだけ」


 彼の肌は、人間としては冷たすぎる。血ではなく、魔力に近いものが巡っているからだと聞いた。彼にとって、魔力は血と同じで生命の維持に欠かせないものなのだ。普通の人間は特殊な体質でもない限り魔力が少なくても生きていけるし、まして日常的に取り込む必要などはない。


「私がコマさんをそういう存在だと認識してるせいで、以前は無意識にこっちから譲渡しようとしちゃってたみたいでね。私の魔力が少ない時なんかは、コマさんも気配絶ったり姿消したりしてくれてたんだよ。同じことが魔獣達にも言えるけど。で、その無意識下の譲渡を、最近能動的にコントロールできるようになった私です」


 えっへん。


「で、姫が俺の存在を忘れてやがるみたいだったんでな、意識させてやろうとしただけだ」

「もー、魔力食べてくれるならそう言えばいいじゃないですか。なんでいちいちみんなを煽るようなことするんですか!」

「ケッ。俺はお前をジークに連れ帰ることを諦めてねえからな」


 ニヤァ。


「はいはい、そんな顔したってもう動揺しませんからね。だからねタイタ、問題ないんだよ」

「いいえ大問題でございます!! やはりミカ殿を誘惑なさっているという事実に変わりないではございませんか!! 当方、当て馬や間に挟まる存在は地雷なのです!!」

「はいはい、落ち着いて。どーせ間に挟まる気なんかないよ。というか俺は金輪際お前らの間になんざ立たねえからなって、散々言ってるもん」


 私は、頼んでも間に立ってくれるつもりはないらしい人を軽く睨んだ。




つづく

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