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乗り物酔いには効くのかなって

「ミカにもたれかかるな離れろ下衆が!」

「姫、暇だろ。肩でも揉め」

「えええ」


 コマは、憤るザコルと困惑する私に「ケケッ」と笑った。


「何やってんすかコマさんうちの姫に必要以上に触んねーでくださいよ!」

「…………!!(語彙消失中)」

「え、処します?」

「ちょちょちょ、みんな落ち着いて私は大丈夫だから! 危ないから席立たないで!?」


 どうどうどうどうどう。こっちはイキリたつ護衛達を必死で宥めているのに、コマは私に体重を預けたまま動く様子がない。

 彼に編んでやったニット帽が私の頬に当たる。身がすくんだりはしなかったものの、どうしていいのか分からず手が泳ぐ。


「? どうしたの皆さん、何かあったのかしら?」


 先頭で手綱を握っていたミリナがこちらを振り返らず様子を訊く。


「母さま、コマちゃんがミカさまをまくらにしてるんです」

「まあ、枕ですって? どうしてそんなことを。ゴーシさん、一体どうなっているの?」


 彼女の真後ろにいたイリヤの説明では要領を得ず、ミリナはその後ろに乗っていたゴーシにも質問した。


 ちなみに。甥姪にあたるゴーシやリコに様付けするのは適当じゃないと言われ、かといって呼び捨ても慣れず、結局さん付けで呼んでいるミリナである。


「えっと、せーじょさま取りあってケンカしてまーす」

「喧嘩!? ここ上空よ!?」

「ミカ、席を替わりましょう。そいつは僕が払い落とします」

「ケッ、やってみやがれ」


 キュルルルッ!!

 喧嘩、無い、空!!


「ねえちょっと、上空で揉めるなってミリューも」

「やったれ兄貴ィ!!」


 ギャーギャーギャー…………






「お前達、少しは静かに飛べんのか」

『……………………』


 私達は、呆れ顔を向けてくる人を胡乱な目で見返した。

 ちなみにコマは到着後何事もなかったかのように降り、さっさと魔獣舎の中へ行ってしまった。一体何だったんだ。


「ジーロ様!! 今のセリフ、あなた様にこそ言わせていただきたい!!」


 迷惑運転の被害にあったシシは雪上にへたり込んで叫んでいた。そして「うぷ」と口を押さえる。


「せんせ、あんま大声出すと余計気持ち悪くなりますって。いつぞや、魔力過多のくせに身体張ってギャグかましてた姐さんじゃねーんだから」

「魔力過多でギャグなんかかました覚えないよっ」


 ぷりぷり。シシの背中をさするエビーに文句を言う。


「わあああ、ちょーでけえー!! すげえええー!! きっとセカイイチでけーよ、こんなとこにすんでんの!? ミリュー!!」


 キュルウッ。


 魔獣舎を見てはしゃぐゴーシに、ドヤァとばかりに胸を張ってみせるミリューである。身体は大きいが彼女はまだまだ若い。精神年齢的にはイリヤやゴーシとそう変わらないのかもしれない。


「僕達が住む邸より大きいだろう、ゴーシ」

「はい大きいですおじいさま! 思いっきりジャンプしてもへいにのぼれなさそうだし……」

「くふっ、ゴーシ兄さまぼくと同じことかんがえてる! ぼくもね、あっちでジャンプしてみたんだけど、入れなかったです!」

「あははっ、バカだなあ、おれもあとでやるから見とけよ」

「兄さまもおバカですね、くふふふふっ」


 やんちゃな天使達に、オーレンの相合が崩れまくっている。

 私は自分のカバンから竹製の筒を取り出した。


「シシ先生、お水をどうぞ。私の水筒で申し訳ないですが」

「申し訳ありません、お言葉に甘えさせていただきま……」


 シシは、受け取った水筒をまじまじと見つめ、そして私の顔に視線を移した。


「………………」

「えっと、乗り物酔いには効くのかなって」


 はああ、とシシは溜め息をついて、そしてグビッと水筒の水をあおった。





 てくてく。やっと立ち上がったシシを連れ、魔獣舎のひんやりとした石畳の廊下を歩く。


 さっさと中に入ったコマをも追い抜き、少年達がわーっと走り出したので、親や祖父母や叔父はそれを追いかけて行った。ちなみに、ミリュー達は建物の上にもある魔獣専用の入り口から既に中に入っている。



「効きませんな」


 シシは憮然とした顔でそうのたまった。


「そうですか。まあ、お酒の酔いにも効きませんからね。帰りはオーレン様に乗せてもらってください」

「そうさせていただきましょう」


 私は、竹製の水筒の口に自分の涙を塗りつけてシシに渡していた。

 私が温度をいじった水でさえ魔力の残滓で判ってしまうシシには即バレたが、黙って検証に付き合ってくれた。かつて治癒効果に副作用などはないだろうと言ったのは彼なので、それを証明する意味でも飲んでくれたのかもしれない。

 どうやら『酔い』は平衡感覚の乱れも含め、病気の類とは認識されないことが判った。


「酔い止めの薬とか持ってきてないんですか」

「放っておけば治るものに薬など要るとお思いでか」

「確かに。つい自分の世界の感覚でものを言ってしまいました」

「はあ、まさかこんな『酔い』にまで薬を使う感覚でいらっしゃるとは。さぞ恵まれた環境でお暮らしだったのでしょうなあ」

「まあ、そうなんでしょうね」


 衣食住という点でも医療という点でも、この世界に比べて現代の日本ははるかに進んでいるし、恵まれてもいる。

 シシと話していたら、ザコルがスッと横に並んだ。


「ミカ。もう抱き上げていいですか」

「え、今ですか?」

「我が儘を言ってほしいと言ったのはあなたでしょう」

「そうでした」


 要するに私に触れて落ち着きたいらしい。手を広げたら、サッと縦抱きにされた。


「相変わらず嫉妬深いことだ。こんなジジイにまで」

「人を理不尽に巻き込むなと言われたので。別に、シシに八つ当たりするのでも僕は構わないのですが」

「是非ともやめていただきましょう。今は特に」


 シシは、こめかみを押さえた。まだ酔いは晴れていないようだ。


「うちの兄がすみません」

「いえ、謝りたいのはこちらでございます。この一族の中では、あなた様がいかに大人しく常識的な方であったかと思い知る毎日でございましてな。王都を燃やす燃やすと言いながら結局燃やしはしませんでしたし」

「………………」


 代わりに隣の国の王都にゴロツキを放ったとは言えまい。

 私は、私を抱く人の頭に頬擦りしていーこいーこと撫でた。




つづく

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