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われぁ、つよぃ。しんぱぃ、すぅな

 翌日。早朝鍛錬と、穴熊、影、小中型魔獣達との打ち合わせを終えた後。


 一週間後シータイに行きたいからミリューに乗せてほしいとミリナに頼んだら、彼女は快諾した上にとても喜んでくれた。一緒にお出かけするのが楽しみなのはもちろん、私が慣れ親しんだ町にまた遊びに行けることが、自分のことのように嬉しいのだという。女神かな。天使の母は女神で相違ないか。


 子供達も行きたがるかもしれないからと、伝える前に保護者であるララルルやオーレンに話を通しておく、とミリナはウキウキ去っていった。


 その日の昼食後。内緒話をするなら僕の部屋が一番、とオーレンが執務室を貸してくれることになったので、シータイを訪ねる旨を穴熊を通してアメリア一行にも報告することにした。一応、私という要人の移動スケジュールは極秘事項である。


 心優しき妹のことだ。ミリナと同じく、訪問できるまで戦況が落ち着いたことを一緒に喜んでくれるかと思いきや、反応は意外なものだった。


(ミカお姉様は、シータイまで空を飛んで行かれるのですわよね? でしたら、わたくしの元にも飛んで来てくださってもいいはずよ……!! ずるいですわ、シータイの皆様ばかり!!)


 いつもながら穴熊隊長が名演技すぎて感心する。彼は、アメリアが扇子を握りしめてぷるぷるしている様子まで見事に再現していた。ドワーフのような容貌のまま演じるので違和感はハンパないが。


「いや、今そちらはテイラー邸ですよね? そこまで飛んで行くのは流石に」


(愚かな妹の我が儘と聴き流してくだされば結構ですわ。ただわたくし、寂しくて寂しくて)


 よよよ。ドワーフは目元を拭く真似をしてみせる。


(ああ、泣くなアメリア嬢。顔見せくらい、手続きを経れば不可能というほどのことでもないだろう。なあ妹よ)


 キリッ。泣き真似の次はザッシュの真似である。忙しない演技派ドワーフだ。


「アメリアがかわいいからって無茶振りはやめてくださいよザッシュお兄様。疎開先、じゃなかったサカシータを出るなんて、私はよくても他のみんなに怒られるに決まってます。大体、私やザコルに山奥に引っ込んでろとか言ったのはザッシュお兄様とハコネ兄さんじゃないですか」


 あいつらは国を傾けるから山奥にでもやって世に出さないに限る、などと二人で言っていたらしい。ドワーフが聴いていたらしくチクってくれた。


(穴熊や暇な影達を使って邪教を狩る計画なの算段だろう。貴殿が直接戦わぬというなら俺はそれでいい)


「いや、狩るっていうか、まずは潜入調査がメインですよ。片っ端から狩ったりしたら本命に警戒されちゃうでしょ?」


(いっぱしの軍師のようなことを言う)


「専属護衛の受け売りです。当の穴熊さんと影達はコソコソと『殲滅! 殲滅!』とか言ってて、言うこと聞いてくれる気あるのか分からないんですけど」


 今日の午前中も、殲滅殲滅異界娘じゃないぞと蹴散らしたばかりである。


 ぐふぉっ。

 交信役に徹していた穴熊隊長が吹き出した。


「穴熊の旦那、ザコルの兄貴や姐さんの言う通り慎重にはした方がいいすよ。俺らテイラー第二騎士団でも追ってましたけど、あいつら逃げ足の速さだけはガチなんで」


 エビーも、他人事みたいに笑っている穴熊に釘を刺してくれた。


「もつぃろん、けぃかくてき、センメツ」


 もちろん、計画的に殲滅するに決まっている。


「また殲滅って言った!」

「うーんまあ、最終的に一匹たりとも逃がしゃしねーってんことならいいんすけどお」

「よくないよっ。邪教の末端信者なんて、血迷った一般人と大差ないのもいっぱいいるんですよ!? まさか皆殺しにする気ですか!?」

「ミカ。その一般人と大差ない末端信者に、深緑湖の街で囲まれかけたことは忘れたんですか?」

「ほんそれっす。いくら元一般人でも敵は敵、情けは無用すよ」


 すぅ。私は息を整え、胸に手を当てた。


「未だ何もしていない民のために、罪を犯させないための我慢をしていただけませんか。そう、うちの彼氏は言いました」

「素晴らしい。心の猟犬ノートの中でもひときわ輝きを放つ、徳の高い名言です」

「そんなこと言いましたか…?」


 うんうんうん。


「徳が高い。まさにタイタの言う通りです。いくら囲まれたとしても皆殺しにくらい秒でできただろうに、攻撃される前にその場を逃げ切ってあげる選択ができちゃうのがうちのザコルほんと優しいしゅきぃ!!」

「やめろ」


 飛びついたらベリッと剥がされた。遅れてじわりと赤面。しゅき。


「…コホン。僕は、あそこが無関係な人々が行き交う場であったこともそうですが、あの大人数相手にあなたを無傷で守り切るのが難しいと判断し離脱したに過ぎません。それに、穴熊も影も、皆殺しにするとは言っていませんよ」

「じゃあ、捕まえてどうするんですか? 拘留するとしても結構な数になっちゃいますよ?」


 むう。穴熊は一瞬黙ったものの、仕方ないとばかりに口を開いた。


「……ごぅもん、せんのぅ。影、とくぃ」


 拷問や洗脳は影の得意分野だ。


「無理矢理宗旨替えさせる気だった。っていうか領外で力使う気ですね!? 穴熊さんが連絡に使う以外は危ないから禁止って」

「ばれなぃ。だぃじょぶ」

「本当に!? バレたら強制送還ですよ強制送還!! ミリナ様に頼んで魔獣飛ばしてもらいますからね!?」

「ひめ、かほご」

「過保護とか皆さんにだけは言われたくないんですよっ」


 ギャイギャイギャイ。


 正直、穴熊と影達がこんなに言うことを聞いてくれないとは思わなかった。サイカ国にイタズラを仕掛けに行った盗賊団、じゃなかった野次三人衆や騎士団幹部達も興奮すると話など聞いてくれなかったが、それに近いものを感じる。ジーロの言う通り、血の気が多いのはゴロツキも影も変わらないらしい。


(はは、苦戦しているな)

(ミカお姉様は罪なお方ですもの。仕方ありませんわ)


 ほう。溜め息。


「はあ!? 私が罪な人だから言うこと聞いてくれないんですか!?」


 穴熊は私と言い合いながら、器用に交信役も続けている。


「ひめ。メィヤァ教、しんと、ここにぃる、どぅする?」


 姫様よ。もしも、メイヤー教の神徒がここにいたらばどうなさる?


「浄化使われる前に物理で意識刈り取ります」

「………………」

「サゴちゃん達の敵、っていうか闇の力を持つ人を無条件で迫害するような連中、話もする必要ないですよね。……何ですか、その目つき。私はいいんですよ私は!! 何人出てこようが最悪魔法で全員ヤれますし!?」


 ぐふぉーっ。穴熊は盛大に吹き出した。


「みなごろし、つもり。わらぅ」

「だって敵だもん!!」

「われぁ、つよぃ。しんぱぃ、すぅな」

「強いのは解ってますよっ、邪教はもちろん、メイヤー教にだって簡単にやられたりしないことくらい…………でも心配なんだもん!! お願いですから慎重に行動してくださいよ…っ」

「なくな。じゃきょぅ、ひめの敵。かならずセンメツす」

「だから殲滅殲滅異界娘じゃないんですよおおおおおお」


 アメリアに報告しているのか穴熊と喧嘩しているのか分からないまま、次の予定が押してきてその会はお開きとなった。




つづく

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