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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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責任持って処理してあげますね

「どうしてミカの予定を増やすんですか!」

「落ち着け。そして椅子を降ろせザコル。ホッタ殿の頭が天井につくぞ」

「お兄様のおっしゃる通りですとも、どうか、どうかそっと下に」

「あははは、椅子ジェットコースター久しぶりきゃーっ」

「姐さんは面白がってんなよもおおおおお」


 いつも通りのやり取りである。


 とはいえ、ザコルもフラストレーションが溜まっているのかもしれない。今はロットもカズもマネジもいないし、コマはザコルの相手など滅多にしない。誰かいい感じの戦闘力を持った人と心ゆくまで手合わせでもすればスッキリすると思うのだが。


「あっ、そうだ」


 私はいいアイデアを思いついた。





 昼食後に採寸タイムを無理やりねじ込み、道場に戻って午後の打ち合わせを行い、出来上がってきたソロバンの検品をし、邸内全てのお風呂を沸かし、夕食前に大量に角煮を作って他のVIP達に届けてもらい、護衛や影達にも一皿ずつ用意した。ザコルには皿というかボウルいっぱい出したが、特に他のメンツから文句が出るようなことはなかった。


「おいしい……」

「眉間にしわ寄ってますよ」


 角煮には満足しているようだが、ストレスゲージがMAXなのは一目瞭然である。


「すみません、子供みたいなことばかりして」

「いいんですよ。最近溜まってるんですよね? 私が責任持って処理してあげますね」


 んぐっ、ザコルは角煮を喉に詰まらせた。


「大丈夫ですか」


 ゲホゲホ。私は立ち上がって咳き込む彼の背中をさする。


「おい変態。二人きりの時、一体何させてんだ」

「なっ、何も!!」


 凄んでみせたエビーに、ザコルがものすごい勢いで首を横に振った。


「何のこと?」

「夜すよ、夜。最近妙に静かですし? 何もねーならいいんすけどお」

「なんだ。夜は相変わらず二人して即寝落ちだよ」


 とは言ったが、実は、魔力を渡したり返したり渡したり返したり、何度か往復できるようになっていた。今まで魔力を一度渡しただけで心神喪失していたことを考えれば大いなる進歩である。まあ、今そこまで語る必要はあるまい。


「エビー、変な勘ぐりはよくないぞ」


 紳士タイタが『めっ』とする。


「今、勘ぐらせるような表現したのは姐さんっす」


 うんうんうん、サゴシと、角煮を振る舞うために呼んでいたペータとメリーも頷いている。


「ごめん、変な言い方したみたいで。単に、ザコルが全力で手合わせできる人とか、新鮮な手合わせ見せてくれる人とかがいなくてストレス溜まってるのかな、と思っただけだよ」

「いや、そういうことでは」

「なので私は考えました」

「あの」

「おじいちゃんの顔見に行きましょう!」

「おじいちゃん?」


 ぱちくり。ザコルが瞳をまたたかせる。


「それは、僕の祖父のことですか?」

「じゃなくて、モリヤさんのことですよ」


 ザコルの祖父、ジーレンのことも気にならなくはないが、私はもちろんザコルでさえも居場所を知らない。モリヤなら必ずシータイの門近くにいるので、会いに行こうと思えばいつでも会えるのだ。


「モリヤに手合わせしてもらえと?」

「はい! 滞在中に何度か挑みに行くって言ってたじゃないですか。ザコルが顔を出せばきっと喜んでくれますよ。最近は王都からの難民も来なくなったみたいですし」


 穴熊情報である。


 オースト国内では今、色々あって限界を迎えていたこの国の王都より難民が噴出している。

 多くは周辺の領にて保護されているが、少数ではあるもののこの辺境まで『氷姫』を訪ねてやってくる難民達もいた。一部は難民のふりをした曲者なのだが、中には本当に思い詰めた民もいる。最近はそうした難民達を隣のモナ男爵領でキャッチし、比較的裕福で土地や職が余っているサギラ侯爵領へと連れていく流れができている。


 そんなサギラ侯爵は、息子ともども深緑の猟犬ファンの集い古参会員である。サカシータ一族の大ファンでもあり、とにかく国境最前線のサカシータ領に迷惑をかけるなと脅し…もとい説き伏せ、迷える難民達を高待遇で自領に引き取っていた。


「いい気分転換になりそうでしょう? 私も会いたいです。あと二、三日、いえ四、五日もすればひと段落しますから、ミリナ様にお願いしてミリューに乗せてもらいましょうよ」

「いいんですか、山の民の里の方は」

「山、えーっとぉ」

「いいならいいんです。ミカが会いたいというなら行きましょう」


 ザコルは角煮の大きな塊にフォークを刺し、パク、と口に放り込んだ。






 シータイに顔を出したい、という申し出はあっさり許可が下りた。王都からの難民も来なくなったし、豪雪のおかげで曲者が激減したのも理由の一つだ。


「ただし、一週間後だ」


 オーレンが提示した日程は思ったよりも先だった。だが、穴熊の能力を使わずに先触れを出し、先方の返事も待つとしたら本来それくらいの日数を要するな、とすぐに納得した。


「モリヤの顔を見に行くんだね。マージではなく?」

「もちろんマージお姉様ともお会いしたいですが、一番は、モリヤさんとザコルの手合わせをもう一度この目で見たいんです」

「ああ、ザコルはモリヤに懐いていたからね。いいなあ、モリヤが羨ましいなあ。僕も手合わせを観たい。一緒に行っていいかいザコル」

「嫌です」

「何でだよお!」


 ツーン。シクシク。


 これはあれだ。息子の成長を見たいお父さんと参観日に親に来てほしくない反抗期息子だ。

 ふふ、ほっこり。




つづく

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