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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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私も仲間に入れろと言っているのだ

「ほんと、姐さんの料理を人質に取られたら何でもゆーこと聞くんすねえー」

「うるさいエビー」


 ヒュンヒュン、廊下にかぎ針が飛ぶ。


「ザコル、専業主婦って意外と忙しいんですよ」

「ミカは一体何を言っているんですか?」


 働いてほしくなさそうなので釘を刺してみただけである。


「で、義母上はどうしてついて来たんですか」

「リコはおばあさまのことが好きだから一緒に行きたいだろう?」

「リアおばーしゃ、しゅきぃ」

「なんと愛い……!! 聴いたかエビー!!」

「聴いてますよお、お孫さんめちゃ良い子でよかったすね女帝閣下」

「そうだろうそうだろう私は世界一幸せな祖母だ!!」


 きゃっきゃっ。

 まるっと無視されたザコルは、義母とは反対側にいる人の方に顔を向けた。


「どうしてついて来たんですかジーロ兄様」

「八つ当たりしようとするな。俺はその母のお守りだ。お前一人では御しきれまい」

「それは、はい。ありがとうございます……」


 ザコルはムッスリとしつつも、素直にお礼を言った。


 ミリナとタイタは後方で『推しの新情報』の話をしている。ララとルルは笑いを噛み殺している。イリヤとゴーシはわーっと走っていってしまい、サカシータ騎士のローリとカルダが追いかけた。いつもの光景である。




 ララとルルを交えた食事会場では、拘束…もといラッピングし直されたオーレンとザラミーアが待っていた。


 ララとルルには、私が勝手に始めた『街の子供達に内職させて地域還元しよう計画』を代行してもらっている。サカシータ家の使用人も何人か派遣されているが、中心はこの二人だ。


「布の買取は始まっておりますが、既に倉庫がいっぱいになるほどの盛況ぶりです」

「あれを全部造花にしきれるかどうかという量で」

「そんなに集まったんですか。使う前に一度洗濯もしたいですよね、手伝いに行きたいな」

「あら、それなら私も」

「そんな!! 洗濯や水通しくらい私達でやれますから!! ミカ様もミリナ様もお忙しいですよね!?」

「というか私達のお給金までミカ様のご出資金で賄われてるって……!!」

「あ、いえそこは自分のお金というわけでもないので、あまり気にしないでいただけると」


 当然だが、出資したお金は私個人のお金ではなく、あくまでもテイラー伯セオドアに持たされた小遣いである。本来宿泊費や物資の購入によって地域還元するべきだろうが、宿も物も間に合っていて使いどころがないので『赤字になりそうな慈善事業』を興しているだけなのだ。


「ミカよ、それは品格維持費といって、本来伯爵家の姫に相当する立場であるあなたの身の回りに使われるべき金だぞ」


 イーリアに呆れまじりの顔をされた。


「そう言われましても。今でさえVIP待遇なのに、これ以上何を維持しろとおっしゃるんです?」

「あなたは物の価値を知っている割に、自分が纏うものという認識がなさすぎる」

「そうですかね、私の身の回りって割と高級品で固められているかと思うんですが……」


 最たるものは、知らぬ間に持たされていた護身用の短刀である。客を選ぶという有名工房が出し渋るほどの名品で、ザコルが無理を言って譲ってもらった一振りらしい。


「武器もそうですが、マージお姉様が仕立ててくださった雪国迷彩服一式も、テイラーから追加で届いた服も全然安物じゃなさそうですし……。あ、これ、こないだザコルが編んでくれたレースのストールと飾り襟です! 商会女子が見たら卒倒する出来ですよ!」

「それは、まあ、高級品には違いないだろうが……」


 イーリアは眉間を揉み始めた。


「ふふっ、それ以上のものを作れる職人はうちの領都にいませんわ、リア様」

「そうと言えばそうなのだろうが、いや違う、そうではない!」

「はは、母上がこれほど悩まされる相手というのも貴重だなあ」


 頭をかきむしるイーリアに、ほっこりするザラミーアとジーロである。




 ララとルル、そしてザラミーアに内職希望の子供達の面接の進捗、買取の帳簿などを見せてもらいつつ、食事会は和やかに終了した。


「夜な夜な造花作りとかしたかったのに、完全委託業務になっちゃった……」

「ミカ様ったら、今でさえ羊っぽいアミグルミやソロバン教本の写しを毎日作ってらっしゃるでしょうに」


 ミリナにまで呆れられた。


「だってだって、内職といえば造花作りじゃないですか! ねえオーレン様!」

「内職といえば造花作り。それはそうだけれど、夜中に細かい作業なんて目を悪くするし、君が作業を抱え込みすぎているのはミリナさんの言う通りだよ」


 食事のために手だけ拘束を解かれていたオーレンは、ザコルによって再び巻き巻きされていた。どんだけ信用されていないんだ。


「抱え込むというほどの量では。護衛達と毎日楽しく編んだり書いたりしてるだけですよ」


 ここサカシータ子爵邸に滞在していると、テイラー勢だけで過ごせるのは隙間時間に設ける制作時間くらいだったりする。各々のペースで手を動かしながら、最近の振り返りなどを話す憩いのひとときだ。あれはあれで、考えを共有・整理するための大切な時間になっている。


「ミカ様、そんなに造花作りがしたいなら……じゃなかった、工程の確認のために、ある程度準備が整ったところで資材を一式お持ちしますね」

「ありがとうございますララ様! あと販売する段階になったら絶対呼んでくださいね!? 店舗作り絶対一緒にやりたい!!」

「ミカ様が行くなら私もお手伝いに行きたいわ!」

「もちろんです。ミカ様とミリナ様のお店ですから」

「違いますよ、私達のお店です!」


 きゃっきゃっ。大人女子ばかりで布のお花屋さん開業。絶対楽しいやつだ。


「ミカ、店の制服を私に作らせろ」


 イーリアが真顔で割り込んできた。


「作らせろ、とは」

「ララとルルとミリナとお前が着る分の制服を作らせろ。いや、作る」

「えっ、それなら私が」

「私も仲間に入れろと言っているのだ。この後採寸だ。いいな」


 圧。


「え、ええ、ではお願いいたしま」


 ガッ。


「わっ」


 椅子が浮いた。




つづく

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