今日はまだまだ忙しくなりそうだ
影はここを出たら何もしゃべりません。心配性なシータイの影は、影達を代表してそうのたまい、下がっていった。
「シータイの者どもは、全員貴殿の理解者なのか」
そんなやりとりを見ていたジーロが問う。
「全員、かどうかは判りませんが、私が魔力過多で泣いていると、通りすがりの町民が『しょーがねーな』とか言って入浴小屋に案内してくれる感じの環境ではありましたね」
「そうか」
「ジーロおじさま! シータイはとってもやさしいまちですよ!」
「そうかそうか。きっと皆で聖女を飼っていたからだな」
人をペット療法要員みたいに言わないでほしい。
「さあ、余興は終わりましたから、打ち合わせ再開しましょうか。ミリナ様、ミリナ様?」
くぅん……
「ナラ、どうしたの?」
私をつついたのは鹿型魔獣のナラだった。
ナラが指す方向には、ミリナが頭を抱えていた。
「えっ、ミリナ様!? どうしたんですか!?」
「なっ、何でもないんです!! さっき推しの新情報がさらっと入ってきた気がして…!! どうしてちゃんと聴いていなかったの私……!!」
ミリナの推しというのは、オーレンとイーリアとザラミーアの三人組のことだろうが、彼らがイチャついていた頃はタイミング的に子供達の心配でそれどころではなかったはずだ。
「後でタイタに聞いてください。あの子なら一言一句覚えてますし何なら同じ熱量で語ってくれますので。では打ち合わせ再開しますねー」
ぱんぱん、と手を叩くと場内の空気がやっと切り替わった。
五チームに分かれてもらった穴熊のうち、一チームは私の側に残ってもらうことにし、残り四チームに影の四チームを合流させ、比較的戦場慣れした魔獣を軸に、一チームあたり二、三匹ずつ割り当てていった。
「でさ、ミイかジョジー、どっちかには相談役としてここに残ってほしいってさっき伝えたと思うけど、どっちが残るか決まった?」
ミイイイ…!
キイイイ…!
白リスと猿は睨み合っていた。
ミイミイ、ミイミイ!!
ミイは空間渡れる! 潜入得意!
キキィ、キキキキィ!!
ジョジーはちょっとなら呪いも平気です! 闇の力作れるし!
ミイミイミイミイ!!
王宮のアレで死にそうになってたくせに!!
キキィキキィキキキキィ!! キキキキィイイ!!
あの時は魔力も足りなくて闇作れなかっただけ!! 今は元気だし平気です!!
揉めてるな…。
「まあまあ、喧嘩しないのよ。二匹ともやる気いっぱいなのよね? でも、ここに残るのも大事なお役目よ。どちらが相応しいか、冷静に話し合って決めましょうね」
ミリナがなだめても両者一歩も譲らずだ。どんだけ手柄にこだわってるんだ。
「ミリナ様、ここは決めちゃっていただけませんか? ふたりの話を聞く限り、その方が納得できると思うので」
「分かりました。そうねえ……。ここは、テイラーの方々と行動し慣れているミイが残る方がいいと思うのだけれど」
ミイイ!?
「そんな顔しないでちょうだい、ミイ。あなたはミカ様の体調をチェックするようにって、コマちゃんからも言われているでしょう?」
私の体調チェック。かつて私が調子を崩した時にコマがミイに頼んだらしいが、あの指示はまだ生きていたのか。
ミイイ……。
「ミイ、私を恨みがましく見ないでくれるかな。私はミイのお願い通りにしてるんだからね?」
ミイ、ミイミイ…。
仕方ない、ミカの見張りはミイにしかできない。
キキィ!!
ミイが引いたのでジョジーがやったーとばかりに宙返りした。
魔獣達とのコミュニケーションの仕方や、どのチームがどこの地域へ行くかなどを簡単に説明していたら午前中が終わってしまった。余興が長すぎたせいである。つまり私のせいだ。
「ええと、今日は午後も話し合いたいと思います! チームごとに現地の情報を共有したりしますのでそのおつもりでー」
ぅぉぉぉぉ……。キキィくぅんキュウキュウ!! ぐふぉっ、ぐふぉっ。
士気は上々だ。
「ミカ。お昼はララとルルを交えて席を設けているわ。彼女達の報告も聞いてやってくれるかしら」
「造花の件ですね、承知しました」
「ミカさん、追加で頼んでいたソロバンが届いているよ。君の出資で頼んだものだから、後で見に来てくれ」
「もう届いたんですか! 二週間はかかるって聞いてたのに。でも、あと二、三日でまた同志のキャラバンが来ますし、丁度よかった。タイタ、教本の写しって何部までできてたっけ」
「今、七十部ほどになりました」
「執務メイドと僕も手伝いに入るよ」
「ありがとうございます!」
バァン。
「ミーカ、ごはんいっちょに、たべゅ!!」
「リコ!」
かわいい闖入者が飛び込んでくる。
今日はまだまだ忙しくなりそうだ。
ぐふぅうう…っ
リコを追って道場に入ってきたララとルルが崩れ落ちた。
「あの、ザコル、いい加減に降ろしてくれませんか」
「嫌です」
「コマさんにからかわれてからずっとこの体勢のままじゃないですか」
「からかったのはミカです」
「はいはいすみません。で、いい加減自分の足で歩きたいんですけど」
「嫌です」
「皆とも話しにくいですし」
「誰も気にしていません」
「気にしてないわけじゃない……と思いたいんですが」
私は俵のように担がれていた……が、途中なんとか縦抱っこに直してもらった、今ここ。である。
タイタに一度注意され、コマに変な顔をされたものの、担がれていても普通に話しかけてくるシータイの影を筆頭に、もはや誰も気にした様子がなかったのは事実である。
もしかして実は担がれていると思っているのは自分だけなんだろうか? と変な錯覚におちいり始めていたが、ララルルの反応でやっと事実だと認識することができた。
どうやら、私が忙しくてゆっくりできないことがストレスで仕方ないらしい。この人、自分一人なら二十四時間でも百時間でも走り続けるくせに、私が数時間でも働くと拒否反応を示すのは何なんだろう。専業主婦になって欲しいと思う夫の心情ってこういうことなんだろうか。何か違う気もするけど。
「今降ろしてくれたら、今日中に角煮を作ってあげます」
「……………………」
むうう、と数秒葛藤したのち、彼はやっと私を床に降ろしてくれた。
つづく




