攻撃は最大の防御と申しますからなァ
「踊り、やめ」
ピタッ、と踊っていた者達が一斉に動きをとめ、ドッ、と弛緩したように床に膝をついた。
「あれ? すごいつかれてます…!」
「おどっただけなのに!」
サカシータの無敵少年達が珍しく息を切らしている。
ぜい、はあ、とその横で影達も肩を上下させ、必死に酸素を求めていた。
「あの程度の踊りで、どうして…っ」
「多分ですが、操られていたせいかと。無意識に身体が抵抗していたんだと思います。あまり長くやると身体への負担も大きいみたいなので一分くらいで止めましたが、すみません、無理をさせましたね」
ぜい、はあ、ぜい…………
「……………………」
「あの、大丈夫」
ガバッ。
「これは、素晴らしい拷問でございますねミカ様!!」
影の一人は満面の笑みでそう叫んだ。
おお、おお、と他の影達が何かを渇望するようにさざめき始める。どう見ても陽気な踊りを観賞した後の反応ではない。
「拷問? え、違」
「そうだ、これは拷問だ」
「疲れても疲れても強制的に踊らされるという責苦……!! ああ考えるだに恐ろしい!!」
「ああ、こんな生き地獄があるか、いや無い!!」
『いきじごく!?』
生き地獄大好き少年達も目を輝かせた。
「あの、私は別に攻撃目的で闇の力を得たわけではなくてですね、あくまでも防御のつもりで」
「攻撃は最大の防御と申しますからなァ!!」
「コーゲキはさいだいのボーギョ、カッケー!!」
「流石はミカ様だァ!!」
いっきじっごく、いっきじっごく、いっきじっごく。
影と少年達はまた謎踊りを始めた。もちろん私は何もしていない。
ザコルの方を見たら、彼はまた腹を抱えてうずくまっていた。
「ミカは、ミカは本当に天才です……っ」
「もーっ、ザコルはいい加減に笑い止んでくださいよ!!」
「楽しそうだね、ザコル…」
未だ椅子がわりにされているオーレンが呆れまじりにつぶやく。拘束されて座られてさらに爆笑していても怒らないなんて。何だかんだ言って優しいというかゲロ甘なお父さんである。
「人外の世界へようこそ姫様」
「サゴちゃん…。反対してたのにごめんね?」
「もう習得しちゃった後に何か言っても無駄なので小言は言いません。でも、メイヤー教圏内で披露するのだけはやめてくださいよ?」
「解ってるって」
キキィ!
上手でした!
「ありがとう。ジョジーのおかげだよ。これで邪教に拉致られても怖くない!!」
「拉致らせませんけどね。姫様、後ろ後ろー」
「後ろ? へっ」
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ。
振り返ったら、怒りをたたえたイーリアが仁王立ちしていた。
「お転婆だお転婆だと思ってはいたが、ここまでのお転婆とは思わんかったぞ。なあ、ミカよ」
「ど、どどどうしてお怒りに!?」
「分からんのか!! これ以上狙われる理由を増やしてどうする!?」
それはそう、とサゴシがうなずく。
「だっ、だって闇の力を持てばあの『魔封じの香』も跳ね返せるようになるってミイが言うから…っ」
「だからといって…っ、それは、聖女とは対極の力だぞ!?」
「だってだって、聖女とか名乗った覚えないし…っ、闇の力持ってるとか滅茶苦茶カッコいいじゃないですかああ!!」
それはそう、我らが同志タイタが視界の端で頷く。
「カッコいい!? 本気で言っているのか!?」
ぐふぉっ。
タイタと同じく隅の方に控えていた穴熊が吹き出した。
「じょてぃ、ひめ、ほんき」
「穴熊ァァ、お前らは…!! なぜ止めなかった!!」
「サゴシ、止めた」
「だろうな!? お前らは何をしていたという話だ!! お前らだって散々苦労してきただろうに……!! よりによってあんな強い力を得てしまって、彼女が苦労することになるとは思わんのか!?」
ガクガクガク、胸ぐらを掴まれた穴熊一号が派手に揺さぶられる。
「ひ、ひめ、せせ、せかぃ、かぇる。ヤ、ヤミに、イバショ、を」
ガクガクとゆすられながらも返した穴熊の言葉に、影達はハッとしたような顔をした
「姫、が……世界を…変える……?」
「闇に……居場所、を…………」
「そうよ」
にこ、ザラミーアが影達を振り返る。
「あの姫は世界を変えるわ。我らが闇に、居場所を作ってくださるの!」
ザラミーアはほがらかにそう言った。まるで、無邪気に夢をかたる少女のように。
ぐわん、空間が歪む。
ザッ、影達が一斉に床へ膝をつく。
「…………闇には闇を」
『闇には闇を』
「…………陰には陰を」
『陰には陰を』
彼らはなぜか、先程の私の台詞を全員でなぞり始めた。
「…………生半可な『邪』をかたる素人どもには」
『本物を見せつけよ』
ぅぉぉぉぉぉぉぉぉぉ………………!!
地の底から湧き出るような、仄暗い叫び。
ザラミーアのはしゃいだような笑い声。
そこはまるで、世界の転覆でも狙う悪徳宗教の集会のようだった。
つづく




