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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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私はいいんだよ私は!!

「呪い返してこい! っていいすね」

「いいや異界娘の演説には負ける。闇には闇を。陰には陰を。生半可な『邪』をかたる素人どもには本物を見せつけてこい、だぞ。俺も闇の力を得たかったと羨ましく思ったくらいだ」

「俺は闇も浄化もどっちもうらやましーすよ」


 ミイミイミイ!


「へへっ、解ってるってミイちゃん。俺にしかできねーことはいくらでもあるってな」


 魔力の少ない人代表、エビーはペチペチと頭を叩くマブダチに口元を緩ませる。




「いいですか影の皆さん、必要以上の危険は冒さなくていいですからね? 目立つことをしてそれこそメイヤー教が乗り出してきたら大変」

「分かっておりますとも」

「我らが姫は過保護でございますねェ」


 ぐふっふっふっふ。


「絶対分かってない顔してる……!!」


 私としては、アジトを見つけたらこっそり潜入して調査してもらい、魔獣の居場所を特定できたら次に奪還計画を考えよう、くらいのビジョンだったのに、目の前の影達は完全にアジトをしらみ潰しにでもする気満々だ。


 人数が集まったとはいえ、四分割もしたら一チームあたり二十人くらいの編成になる。穴熊を加えても一個小隊の数に届くかどうかといった少人数だ。奪還計画は、現地の騎士団や警邏隊との連携もとって万全の体勢で行われるべきだと主張しているのに。


「ついでにお仲間サゴシ殿の仇も討ってきてやりましょうか」

「仇って、俺まだ死んでないんですけど」

「ひどい目には遭わされてきたのでしょう。やはり都会とは恐ろしいところですなァ」


 都会、というかメイヤー教の力が及ぶ地域で同朋が迫害されていると知って憂う影達である。知らずに生きてこられたのはオーレンの過保護政策の賜物だろう。


「あの強い光を見た時にはビビってしまったが、分かっていれば対処は可能だ」

「要はあの光を出してくる前にヤってしまえばいいだけのこと」

「いっそメイヤー教の教会にもこちらから殴り込みに行きますか」


 わーっ、それいい! きゃっきゃっ。


「もっと大ごとにしようとしてる…!! サゴちゃん止めてよおおお」

「どーせ冗談ですよ。でも、この人ら腕っぷしバカ強いんで案外イケるんじゃないですか。流石は猟犬殿の故郷、影の実力も重戦士級だぜフゥーッ」


 フゥーッ、鬱々としていた影達もサゴシの真似をして奇声を上げる。


「みんな何ふざけたこと言ってんの! 下手したらサカシータ領そのものがメイヤー教の敵認定されちゃうかもなんだよ!? サゴちゃんだって、私には無駄に敵対するなって言ってたじゃん!!」

「メイヤー教なんか敵でいいとか取るに足らん的なこと言ってたのは姫様ですよね?」

「私はいいんだよ私は!! だってサゴちゃんの敵だよ? 根こそぎ殲滅でオーケー」

「ぶはっ、ダブスタ…っ」

「流石はミカ様だァ!」


 ひーっ、とサゴシと影達は腹を抱えて笑い出した。これ、躁状態ではなかろうか。心配になってきた。


「ジーロ様、その力について詳しく調べさせてはいただけませんかな。メイヤー教以外の神徒など初めてお目にかかるので」

「それは構わん、というかこちらから相談させていただきたいくらいだ、シシ殿。正直、あなたの能力こそ稀有なものであって、俺としては軽々しく利用するのは気が引けるが」

「こんな能力、医者にでもならない限りロクな能力ではありません。あの方も、こんな力ではなく神徒の力を得られていたら、もっと自信をお持ちになれたかもしれないのに……」

「あの方がどの方かは知らんが、生まれながらの体質の問題らしいぞ。こればかりはあの異界娘にも才能がないらしいからな。そんなことで自信を失うことのないようにと、その方にはお伝え願おう」

「ええ、再びお会いできたらばその時に」


 シシが再び王子に会えるのはいつになるだろう。シシ自身が王都にでも赴かない限り、もはや機会は訪れないかもしれない。






 翌日。

 ミリナと小中型の魔獣達も交えてより詳細な打ち合わせ会を開いた。今度はイーリアとザラミーア、孫達も見学に来た。


「おじいさま、まだつかまってるんですか?」

「イスにされてるし」

「おじいさまはね、お風呂以外の時間はずーっとこの網を外してもらえないんだよ。イリヤとゴーシからも何か言ってやってくれ」


 トホホ。


「この椅子は目を離すとすぐにどこかへ消えるからな。それにしてもザコルが編んだというこの網は丈夫だ」

「恐れ入ります義母上。滞在中にいくつか作って置いていきます」

「リア! 君まで僕に座らないでよ!」

「椅子に座って何が悪い。ザラもこちらへおいで」

「リア様ったら、もう座るところがありませんよ」

「何、私の膝の上に座ればいいだろう」

「ふふっ、私は遠慮しておきますわ」


 ザラミーアはオーレンの上に仲良く座る息子と第一夫人に苦笑する。


「フン、こっちの『イタズラ』まで仲間外れにされるようなら暴動を起こしてやるところだった」

「暴動……。そもそも、ミカさんにザッシュや穴熊達を託したのは君だろう、イーリア」

「そうだったか? 手駒を気に入れば持ち帰ってもいいぞとは言ったが」

「当主候補を勝手に手駒にするなんてイタズラが過ぎると僕は言ってるんだ!」

「別にいいだろう、どのみちあのままで当主なんぞ務まるとは思えんかったしな」

「僕は報告連絡相談が必要だって話を」

「お前、逃げ回っていた分際で一体何を言っている?」

「それとこれとは」

「何が違うか」


 ギャイギャイギャイ。


「どっちもどっちだな…。もはや現当主や第一夫人からしてこの自由度なのだから俺達も好きにやるしかあるまい。なあ、ミリナ姉上よ」

「………………」

「緊張しているらしいな。異界娘よ、ほぐしてやれ」

「はいただいま」


 私は、ミリナを気遣うように侍っている魔獣達の間を縫い、彼女の脇腹をつついた。




つづく

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