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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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姉弟の仲が深まって何よりじゃないですか

「全くあなた様は素晴らしい、聖女の呼び名に恥じぬ立派なお方ですなあ」

「もーっ、シシ先生は不良を叱るのがお仕事でしょ!? 何でやたらに褒めてくるんですか!?」

「それはもちろん、叱るよりも褒めた方が嫌そうになさるからです」

「嫌がらせだった!!」


 がく。脱力する私に、フフンと鼻を鳴らすシシである。完全に小学生の喧嘩だ。


「君達仲良しだね……。さあ、ザコル。離してくれ。もう同行しようなどと考えないから」

「いいえ。今日はこのまま過ごさせていただきます」

「今日一日この格好でいる気かい!?」


 小脇に抱えられた大型魚のような体勢を強いられているオーレンだ。捕縛用の丈夫な網で丁寧にラッピングもされている。


「はい。本当は三日以上拘束したいのですが、正直面倒なので今日一日だけです」

「どれだけ僕を信用していないんだ!!」

「長いことナカタやミカから逃げ回り、アメリアお嬢様やサギラ侯爵親子にさえまともに挨拶していない事実を忘れたのですか? 一つも信用できません、父上」


 うぐう。大型魚は黙った。


「さて、ミリナ姉上。今日も巡回なさるのですか」

「ええ…。寂しがってばかりいられません。皆さんがいらっしゃらないのですから尚更、力を示しておかなければ」


 ミリナは涙を拭き、ぐ、と拳を握ってみせる。


「その意気です、姉上」


 数日前から、ミリナは飛行型の魔獣に乗って領内の要所を巡回するようになった。地上には降りず、アカイシやツルギの領境・国境沿いを通ってシータイやカリューの方まで上空をぐるりと回るだけだ。もちろん牽制が目的である。


「巡回によってどれほどの効果があったかは判りませんが、今の私にはこれくらいしかできませんものね」

「その『これくらい』が姉上にしかできんのだ。大型の魔獣が人を乗せて飛び回っている領だぞ。俺ならビビって安易に攻め込もうなどとは考えん」

「ふふっ、ジーロ様ほどの実力の方がおっしゃると説得力がありますね。今日も力を貸してちょうだい、ミリュー」


 キュルウ!

 ミリューが元気に鳴く。


「ミカ様は、今日も一緒に乗ってくださいませんの?」


 ミリナが甘えるような視線を私によこす。うっ、と胸を押さえるとザコルにジロリと睨まれた。


「遠目ですが、シータイやカリューの様子も見られますのに」

「しょっ、初日にご一緒しましたが、領一周するのは意外に時間がかかりましたので…。穴熊さん達との打ち合わせが一段落したら、またご一緒させていただけませんか」

「ええ、ええ。もちろん! 次はぜひ二人と一匹、女だけでお出かけしましょうね」


 にこにこ。


「ミリナ姉上」

「何でしょうか、ザコル様。ミリューがいれば危険などありませんよ」

「危険があろうがなかろうが、常に側を離れないのが護衛という仕事です」

「ミリュー、あなた護衛もできるわよね」


 キュルルウ!


「ほら、ミリューもこう言っているわ」

「姉上はミリューの言葉を翻訳できないでしょう!」

「まあ。みくびらないでちょうだい。私はこの子の育て親なのよ? 言いたいことくらい解ります」

「ミカ!! 本当にそんなことを言っているんですか!?」

「えっと、まあ、肯定はしてますね」


 キュルル……

 ミリナ、楽しい、歓喜。


 ミリューはミリナが楽しそうに口喧嘩しているのが嬉しいようだ。

 ギャイギャイと言い合っているザコルとミリナに、人間達も顔を見合わせて笑った。





 ミリナを乗せたミリューは、どこからともなく現れたコマと、見張り台から降りて駆けてきたイリヤとゴーシも乗せ、大空へと飛び立った。


 上空は寒い。ミリナは防寒バッチリの格好だったが、イリヤとゴーシはその辺で遊んでいる時の格好のままだ。まあ、あの二人なら大丈夫だろう。コマは半纏を着込んでいて、今日も最強に可愛かった。


「さーて。穴熊さん達はもう集まってくれてるでしょうし、行きましょうか」

「はあ…。あの姉上が全く遠慮しなくなるなんて」

「姉弟の仲が深まって何よりじゃないですか」

「何が何よりですか!! 僕と姉上はあなたをめぐって対立しているんです!!」


 ミイミイ、ミイ?

 ザコル、ママとケンカ、楽しくない?


「ううん、口ではこう言ってるけど楽しいと思うよ。この人、家族が大好きだから」

「適当なことを言うな!!」


 ぷりぷりするザコルの片腕を取ろうとしたが、小脇に大型魚を抱えている姿を見て思い直した。両腕とも塞ぐのは護衛業務に支障をきたしそうである。


「ザコルよ、父上の拘束を代わってやろう」

「いいのですか、ジーロ兄様」

「ああ。そのお転婆の相手をしてやれ。タイタ殿、申し訳ないが」

「もちろんお手伝いいたしますとも」

「では脚側を」

「あの、いい加減に僕を獲物みたいに運ぶのはやめてくれないかな…」


 ジーロとタイタは文句を言うオーレンに構わず、その巨躯を肩に担ぎ上げた。


 と、思ったら私の足も浮いた。


「はれ?」


 ダッ。


「あーっ待ちやがれ変態執着クソヘタレ大魔王ぉぉー……」


 エビーの罵声があっという間に遠くなる。

 獲物みたいに担がれてダッシュされるのも久しぶりだな、とつい笑ってしまった。




 盛大に舌を噛んだことは言うまでもない。





つづく

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