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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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君がイタズラに参加していいって言ったんじゃないかあ!!

「行っちまいましたねえ」


 ミイミイミイ!!


「次は俺らの番だってミイちゃんも気合い入ってますよお」


 エビーが当然のような顔をしてミイの代弁をする。ミイはその通りとばかりに、エビーの頭上で胸を張った。


「ほんとノリだけで通じてるよね君達は。まあ、彼らなら大丈夫だよね。根拠はないけど」


 根拠はないが、数週間から一ヶ月もしたら全員元気に帰ってきそうな気がしている。


「大丈夫に決まっておりますとも。他ならぬ、あなた様の祝福を受けられたのですから」

「もータイタは。祝福とか大袈裟なんだよ。みんなの無事はもちろん真剣に祈ったけどさ、ついでに魔力をちょろっと活性化できたかな? って程度のことでしょ。魔獣達なら魔力と認識して食べられもするけど、人間が直に浴びてるだけじゃ大したことないはず。相性もあると思うし。ね、シシ先生」


 私が普段有り余って垂れ流している魔力は、せいぜいが滋養強壮ドリンクを飲んだ程度の効果を周囲にもたらしている、というのは自称主治医の見解である。ダイヤモンドダストを浴びせたとしても同じような結果だろう。


「……ええ、確かに私は魔力の垂れ流しに関しては『劇的な効果はない』だろうと申し上げました。しかし、後々になって実感するものですな。あなた様の『祈り』は全く馬鹿にできない。いっそ『祝福』や『加護』という言葉を使っても過言ではないと思えるほどだ。事実、シータイでは誰も死にませんでしたからな。あの水害と戦を経て、誰も彼もが順調に回復し、流行病も起きていないなど異様の一言だ」


「異様、か。医者たる貴殿がそこまで言うほどなのか、民が勝手に持ち上げて崇めているのではなく?」


「民の方がよほど現実的だ。彼らはこの方の実の功を讃えているに過ぎません。祈りに力があるように感じているのは、むしろ私の主観でございますよ、ジーロ様」


 ジーロは隣国には行かず、子爵邸に残った。ツルギ山を離れたくなかったのもあるだろうし、在領の息子が全員不在になるのはさすがに不用心だからだろう。山の民のことでは私に力を貸してくれると言ってくれた。


「姐さんの『実の功』ってヤツもいっぱいありますからねえ。馬車でこっちから避難民を迎えにやらせたことも、初手で度数バカ高え酒使って消毒してやったことも、体冷やす前に服を用意してやったことも、大勢を毎日風呂に入れてやったことも、薪も、林檎ジャムも、鍛錬っつうか適度な運動もな。他にも色々あるけどよ、施された民の皆さんはよーく分かってるっしょ」


「それさ、何度も言うけど、みんなが協力してくれたから全部できたんだよ。たまたまうまくいっただけのことも多いし。大体、適度な運動、はザコルとエビーの功績でしょ。猟犬ブートキャンプのリーダーと発案者だもん」


「何言ってんだ、姐さんがいるからみんな参加してくれたんだぜ。人見知りの同志も含めてな」


「はは、エビーの言う通り、最初は会話にならないどころか対面すらも難しい状況だったからな。ミカ殿、いえ公式聖女様の仲立ちなくしてあそこまで打ち解けるのは難しかったことでしょう。二日目以降、民の皆様が参加なさり始めたのは、紛れもなくミカ殿のご人徳によるもの」


「功は体力に関わることだけではない。子供達のために紙と鉛筆を求め、字を教えてやった。娯楽を生み出し、民が編み物で小遣い稼ぎまでできるよう整えていらした。一つ一つは微々たることであっても、着の身着のまま投げ出された民が心を腐らせぬよう、できる限りのことをなさってきたのです。春以降の復興もはかどることでしょうな」


「もーっ、いいんですよ私の褒め褒めタイムは! 一番のネックだった食料問題が同志とテイラー家のパワーオブパワーで解決してなきゃどれも実現不可だったんですから!」


「そうかそうか。何もかもホッタ殿が憂いを晴らしてくれたおかげで今日の出兵が実現したのだな。だから安心しろ、父上、姉上も」


 ぐすっ、ぐすっ。


「もう泣くな姉上。猛犬ロットも調教済みだしな、アイツらの心配は無用だ」

「だっ、だって、だって」


 ビチビチビチ。


「父上はいい加減に大人しくしてくれませんか」

「ザコル離してくれ!! 僕もついていくつもりだったのに…!!」

「何を言っているんですか? 要人がいるのに当主が不在にするなど許されるわけがないでしょう」

「だって君がイタズラに参加していいって言ったんじゃないかあ!!」

「イタズラを一緒に考えませんか、とは言いましたが、実行班に加わっていいとは一言も言っていません。はあ、義母上と母上は見送りも遠慮してくれたのに……」


 イーリアとザラミーアは、孫達を連れて子爵邸の門の脇にある見張り台の上にいる。

 一応、お母さん達には内緒というていで計画していたので、今日まで知らぬふりを通してくれたのだ。一昨日参加希望の幹部達が一斉に邸に雪崩れ込んだが、それでもだ。


 幹部達とは昨日一日だけ早朝鍛錬を共にした。士気は既にマックス、食事も入浴も大騒ぎ。あのうるささでよくぞ知らんぷりしてくれたものだと思う。


 同志と同志村女子はシータイに帰っていった。羊っぽい編みぐるみでいっぱいの馬車を連れて。

 ドーシャが頭を務めるアーユル商会には、主人たるモナ男爵から、必要ならピッタをカズのお付きとして残すように、という指示も出ていたようだが、カズ自身が断っていた。数日後には隣国に出兵する気マンマンだったので当然だ。


 そうして、賑やかだった子爵邸は、一気に静かになった。




つづく

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