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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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誓ってくれますか

「そろそろ昼か」


 ジーロが窓に近づき、太陽の高さを目視で確認した。


「全く悪だくみとは楽しい。つい時間を忘れそうになるなあ。サンド」


 そんなジーロに、サンドもニヤリと笑い返す。


「こちらから撃って出るなど初めての試みだからな。ザコルを除くが」

「あれは下見だったのだろう。全く領孝行なヤツだ」


 ザコルは『イタズラ』と称して、いつ有事が起きてもいいように隣国を自分の脚で下調べしていたのだ。国のためというよりは、故郷の力になるために。

 そう語る兄達の横で、剣に愛された姫騎士と、別格一族の血を両方とも色濃く継いだ六男は目線を下げた。


「あたし、ザコルに謝りたいわ。いっときでも領と家族に復讐するつもりで帰ってきたなんて、思ってしまったこと……」


 当のザコルは首を傾げた。


「僕は気にしていませんが。僕は誰にどう思われようとも、僕のためにこの『聖域』を守りたいだけなので。…でも」


 ザコルはそこで一拍置く。そして真っ直ぐに六兄を見上げた。


「ロット兄様が、僕自身を悪く思っていたわけではないと知れたのは嬉しかったです。僕の『いい兄ちゃん』でいてくださり、ありがとうございます」


 ぺこり。頭を下げた弟に、ロット何かが込み上げたかように息を吸い詰めた。


「っ、ザコル……! あたし、あたし…っ、アンタが帰ってきてくれて本ッ当に嬉しいわ! 今は心から言える!! もう何か贈りたいくらいよ! 何がいい!? 武器とか!?」


 貢ぎ出した…。今までどちらかというと搾取する側だった兄が、ついに。


「いえ、物は結構ですが……一つだけ」

「何!? 何でもおっしゃい!!」

「作戦通り、一人で飛び出さないと誓ってくれますか。僕は、兄様が心配なのです」

「…っ、ええ、ええ、そんなこといくらでも誓ってやるわよ…! 絶対にアンタの言う通りにするわ!」

「はい。約束ですよ」


 ニコォ。



「うわー、刷り込んでるぅー…」

「やっぱ、今使ったよな? 忍ぶ気ゼロかよ…」


 二人の様子を見ていたエビーとサゴシは引いている。サゴシはいつの間に輪に加わっていたんだろう。


「ザコル坊ちゃん、容姿は男らしくなったっつうのに、ザラミーア奥様にますます似てきたように感じんのは気のせいじゃねえな…」


 ごくり、ビットが喉を鳴らす。


「あれはザラミーア以上の使い手だぞ。ザハリとも比べ物にならん。その気になればいくらでも蹂躙できよう」


 くくっ、ジーロも喉を鳴らす。


「ザコル殿に『その気』はございませんよ、ジーロ殿」

「判っているさ、タイタ殿。単に力加減を身につけようとしているのだろう。親兄弟を実験台にしてな」


 カーテンの膨らみがビクッとした。今の所、実験台にされているのはオーレンとロットのみである。



「ウチ、野生の人に文句言ってくる」

「まあまあ。実験っていっても、ロット様の生還率が上がるだけのおまじないだよ」


 席を立とうとした後輩をそう言って止める。


「ウチが同行するからそんな心配いらねーし」

「うん。あんたも気をつけてねカズ。私は心配してるんだよ」

「…っ、そんなん言うと抱きついてチューしますからねぇ!?」

「えっ、きゃーっ、あはは」

「やめろナカタ!!」


 人の彼ピにちょっかいをかけていたワンコはすかさず割って入りにきた。




 トントン、ノックが鳴り、少年少女がワゴンを押して入ってきた。


「ペータ、ペータじゃねえか!」

「おま、最近見ねえと思ったらこんなとこに!」

「メリーもいんじゃねえか、つかなんでお前野放しに…っ」


 びっくりしたのは野次三人衆である。三人は、この元従僕、元メイドの二人が私についてきていたのを知らなかったらしい。


「僕達は影としてミカ様にお仕えするよう、マージ町長様に命ぜられてここにおります」


 ペータは一礼した。メリーも合わせて頭を下げる。


「影!? いや、ペータはともかくメリーは…っ」

「女帝様のご指示と伺っております」


 ぐ、そう聞いた三人は言葉を飲んだ。女帝の力とは強大である。


「ペータくん、メリー。牛乳と蜂蜜の用意をありがとう。温めちゃうから給仕お願いね」

『はちみつにゅーにゅだぁ!』


 少年達が歓声を上げる。にゅーにゅ、とすっかり二歳児リコの口調がうつって定着している。


 私が魔法で牛乳を温めただけの蜂蜜牛乳だが、シータイの町長屋敷にあまり出入りしていなかった野次三人衆は初めて口にしたらしく、いたく感動してくれた。




 ふと見ると、マヨがマグカップを手にしたまま静かに涙していた。


「マヨさ……」


 声をかけようとしたが、彼女はにこ、と笑ってサッと涙を拭いた。

 彼女の視線の先には、熱いマグカップをフーフーするゴーシとイリヤ、彼らが火傷しないようそっと見守るミリナの姿があった。


 マヨの背にそっとサンドが手を添える。


「贖う機会をいただき感謝する、氷姫殿」

「サンド様……」


 ぽそりと、サンドが私に向けた言葉はつぶやきに近く、私以外では近くにいたザコルとカズくらいにしか聴こえなかったろう。贖う、とはどういうことかと返そうとしたら、ザコルがシィ、と指を口元に当てた。


「私達では、坊っちゃんをお救いすることができませんでした」

「マヨ様……」


 坊ちゃん、は多分イリヤのことではない。マヨはそっとテーブルにマグを置いた。


「坊ちゃんにかけられた『まじない』を洗い流してくださいましたこと、深く御礼申し上げます。私達で必ず究明してまいりますので、どうか、義姉と甥をよろしくお願い申し上げます」


 サンドとマヨは周囲から目立たぬよう、しかし丁重に私に頭を下げた。




つづく

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