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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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お邪魔しやすぜぇ

「もー先輩泣きすぎだし。そっち座って」


 後輩に促され、私は泣きながら椅子に座った。


「…っ、ぅえっ、私、さっきまで、これがどういうものか知らなくて……っ、オーレン様に指摘されて初めて知って」

「ああ、分かった分かった。貴殿が山の民らを軽んじたり、騙そうと考えて着けていたわけではないのは充分理解した。シータイには一時、チベトや神官達を始めとした山の民が数多く滞在していたのだったな、そんな中で自分からそんな真似ができるはずもない。早とちりをした兄様が悪かったのだ。ほれザコル、妹の涙を拭いてやれ」

「……ジーロ兄様、意外と涙に弱いですね。ミカは兄様の妹ではありませんよ」


 じと、ザコルがジーロを横目に見ながら私の顔をハンカチで拭く。


「ザッシュの妹をしているなら俺の妹でもあるだろうが。まあ、その『気にしい』な妹のことだ。既に相当思い詰めているのだろう」

「知ったような顔でミカを語らないでくれますか兄様」

「ザコルお前、俺にホッタ殿を疑わせたいのか信じさせたいのかどっちだ」

「ミカには僕がいればいいんです」


 ぎゅ。肩を引き寄せられる。ちょお、と私の背中をさすっていたギャルが不満の声を上げた。


「弟さんこんなん言ってますけど、ジーロ様に話を聞きに行って山の民の里にも同行してもらいましょうとか言ってたのは弟さんっす」

「うるさいエビー」


 ヒュンヒュン、かぎ針が飛ぶ。あのかぎ針、常に何本持ち歩いてるんだろう。


「そうかそうか、ザコルも兄様を頼りにしているか。全くかわいい奴だ」

「黙ってください。それで、長老のお考えは判りましたか」


 ザコルはキャパオーバーになった私に代わり、これまでの経緯を改めてジーロに説明してくれた。神官達が私を聖人ポストに座らせようとしたことや、長老チベトがそれに反対したことなども含めだ。もちろん、私が本当にツルギの王族筋かもしれない、というのは伏せて話している。


「いいや、わからん。これでもチベトとはそこそこ長い付き合いだが、初対面の女にわざわざ特別な刺繍が入ったものを渡す理由は皆目見当もつかん。あれはいい女だが悪い女でな。特にボケ老人のフリがうまくてなあ、してやられた人間は未だに後をたたん。が、そろそろ本気でボケたのかもしれんな。ホッタ殿は黒髪だし、親戚の娘とでも勘違いしたのかもしれん」


 まさに親戚の娘かもしれない、などとは言えない。オーレンの『鑑定』によるものだとはいえ、私だってまだ半信半疑状態なのだ。長老チベトにボケ容疑がかかるのは心苦しいが、もはやそのセンでいかせてもらうしかないかもしれない。


「んもー、ミカったらそんなに泣いちゃって。そんな細かい刺繍の紋様に何の意味があるとか、一目見て気づくのなんて父様かジロ兄くらいのもんよ。母様達だってきっと知らないわ。父様ったら、黙っといてやればこんなに悩ませることなかったのにっ」

「そうだなあ、ロットの言う通りかもしれんな。俺には父上から『知らずに着けているようだ』と一言あればそれで済んだろうからな。で、その父上はどこだ」

「あそこにいます」


 窓の横に束ねられたカーテンに不自然な膨らみがある。足も生えている。サンドとマヨが鉛筆でつついている。


「……どうして混乱しているホッタ殿に代わり弁解してやらんのだと文句をつけたいところだが、まあいい。ここにいないチベトの真意など考えるだけ無駄だ。直接訊いたとしてもはぐらかされるかもしれんしな。チベトはホッタ殿を山で囲う気はないのだろう。であれば、世話になった聖女への最大限の敬意とでも思って受け取っておけばいい。まあ、初対面で渡してきたことには説明がつかんが、誤差だ、誤差」


「ジーロが聖域に関することをうやむやにするなんて……」


 ボソボソ、カーテンの膨らみからつぶやきが聴こえてくる。


「うやむやか、そうだな。思えば極端な選択ばかりしてきた俺だが、世の中、白黒つけるだけでは円滑に回らんこともあるのだと改めて気づかせてもらった。このホッタ殿にな」


 家における自分の存在意義を疑えば家出して三年帰らず、帰ってきたと思えば愛する聖域を下界から守るために完全野生化。彼の人生は確かに極端である。


「よし、ではそろそろ『花』について話そうではないか。サンド、姉上と甥達を呼んでこい」

「人を顎で使うなよ野生兄」


 そう言いつつもサンドは持っていた鉛筆とソロバンをテーブルに置いた。


「ロットが仕切らんから代わりに仕切ってやっているだけだ。そこの、お前も参加するのか? ジークからの使者よ」


 ジーロに指さされ、コマは不機嫌そうに睨み返した。


「俺は『氷』にいらん火の粉がかかんねえよう、監視にきただけです、御子息様」

「ほお、ホッタ殿は色んな筋の者に護られているようだなあ」


 慇懃無礼を通り越していっそふてぶてしいコマの様子に気を悪くした様子もなく、ジーロは大らかに笑った。





 トントン、ガチャ、わーっ。

 少年達が待ってましたとばかりに部屋へ飛び込んでくる。引率のミリナも後に続いた。


「皆さん、ロット様へのお説教は終わったのかしら?」

「んもーっ、ミリ姉の意地悪! バラさないでちょうだいっ」

「ふふふっ。今日はジーロ様とサンド様とロット様で、早朝からここで兄弟会議なさってたんですよ。ミカ様……あら」


 ミリナはまだ涙を拭いている私に目を止めた。


「まあまあまあ、どうなさったの。そんなに悲しそうなお顔をして」


 駆け寄ろうとするミリナの進路をザコルが立ち塞ぐ。


「姉上。ミカは諸事情あって山の民の里へ行きづらくなったのです。姉上が代わりに行ってやってくれませんか」

「私が、山の民の里へ? どうして、とお訊きしたいところですが……分かりました。私にできることならば」


 ぐ、ミリナは決心したように拳を握った。そこはぜひ、どうして、と訊いてほしかった。


「ちょっと待ってザコル、ミリナ様お一人で行くってどう考えても意味が分からないんですけど!」


 私はハンカチを置いて立ち上がった。

 ミリナは先に里に帰った山の民の女子供や長老とは全く面識がない。何のために来たのかと双方共に混乱するのは目に見えている。


「大丈夫ですよミカ。影武者も同行しますし」

「だからそれが一番意味分かんないって言ってるんですよ! 影武者っていうかコマさんが代わりに行ってどうするんですかもーっ」

「まあ! コマちゃんが一緒に行ってくれるのね! きっと大丈夫ですよミカ様」

「ミリナ。そのクソ犬は姫の気を引く俺らが邪魔なだけだ」

「ええっ、私、お邪魔だったんですか!?」


 天然爆発のミリナと毒舌リアリストのコマはいいコンビだ。

 ミリナはもし日本に逆召喚されたらオレオレ詐欺とかに秒で引っかかりそうだな…。魔獣達が過保護になる理由がまた一つ判ったような気がする。


「んふふっ、さっきからザコルが通常運転でちょっと嬉しいあたしどうかしてるわあ。最近大人しくてなーんか物足りなかったのよねえ」


 ロットは意味不明な発言を繰り返す弟を見てほっこりしている。


「ロット殿、お気持ちはよく解ります」

「やだ、タイタがあたしに共感してくれるの初めてじゃなーい!?」

「そうでしょうか。以前からロット殿はあのお二人の睦まじい様子に和まれていたご様子。その一点に関しては非常に共感しておりますとも」


 その一点以外はあまり共感できてないということは判った。


「きしだんちょーさまとタイタさん、うちのかーちゃんたちみたいなこと言ってる」

「そうですねゴーシ兄さま!」

「もっとどくせんよくまるだしみせろーって、ねるまでずーっとうるせーんだよ」

「もっと独占欲丸出し見せろ、か。うんうん、新しい妹達も面白そうだな。俺も負けてはおれん」

「サンドおじさま、なにかおもしろいことしてください!」

「よし、踊るか!」


 あはははは、と少年達の笑い声が上がる中、トントン、とまたノックが鳴った。


「お邪魔しやすぜぇ」


 うっへっへ。


 顔を出したのは、盗賊みたいな笑顔をたたえた子爵邸警備隊隊長と、シータイでお馴染みのゴロツキ三人衆だった。




つづく

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