隣を潰すなとは言われてませんから
「ザコル様あああああんた最ッ高だぜぇえええええ」
「ビットまで飛び付かないでください」
「よおおし胴上げだあああああ」
「ちょっ」
野次三人衆とビットとわらわら集まってきたサカシータ騎士達が、ザコルを胴上げし始めた。どうやら細菌テロの話に感動したらしい。
「そうだろそうだろうちの息子は最高なんだ!」
お父さんも大満足である。
「はい、先輩。タンバリン」
「え、ありがとう」
スッと差し出されたタンバリンっぽい楽器を受け取る。
「私さ、ロット様をとっちめようと思ってたんだよね」
「付き合いますぅ」
「俺もお供いたします」
シャンシャンシャン。
私はカズとタイタを連れ、エビーと駄弁っていたシシを軽くおちょくりつつ、この件の首謀者をタンバリンで盛り立てに向かった。
シャンシャンシャン。
「あの母が物事をうやむやにする所など初めて見たぞ。絶対に止められると思ったのに」
「母様ったらミカ達にはベタ甘なのよぉ。うふふっ。よく分かんないけどあの二人に相談してよかったわぁ」
シャンシャンシャン。
「お前、計算尽くであの二人を巻き込んだのではなかったのか」
「計算? 何それ。シュウ兄に絶対一人で計画するなって言われたから相談しただけよ。もーっ、いないくせにいちいち口うるさいんだから!」
シャンシャンシャン。
「……お前に付き合わされるシュウに初めて同情したな」
「何よっ、トンネル掘ってやるから我慢しろって何年も我慢させられたのはこっちよっ!」
シャンシャンシャン。
「いいか、ザコルが『実績』を示していなければ、こうして父母を説得することなど叶わなかったのだ」
「実績ぃ?」
シャンシャンシャン。
「あれは簡単に言っているが、鳥の死骸などというかさばる上に臭うものを大量に持って精鋭部隊が護る都に侵入し、正確にかの家を狙い撃ちにして今もなおバレていないという話だ。隠密としての身のこなしもさることながら、地理も情勢も、建物の構造やその日の人の動きまで何もかも調べ尽くしていなければ到底できぬ芸当だぞ」
「それはまあ、分かってるわ。凄いとも思ってるわよ。でももうそんなの気にしなくたっていーじゃない、ザコル一人で忍び込むわけじゃないんだし、都なんて力づくで入ってテキトーに何軒か潰してくればいーのよ!」
シャンシャンシャン。
「何か勘違いしているようだが、どうしてかの国で騎士団長にまで登り詰めた人間が今も手をこまねいていると思うのだ。アカイシに現れる山賊もどきは氷山の一角に過ぎん。俺達一人一人は『別格』だろうが、無敵ではないことを自覚しろ。さもなくば俺が『イタズラ』に反対するぞ」
「えーっ、そんなの困るわ! ジロ兄に反対されたら!」
シャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャンシャン
「さっきから何よシャンシャンシャンシャンうるさいわね! もー…………」
ばち。目が合った。
ごく。ロットが喉を鳴らした。
「おお、異界娘よ。どうした」
「ふふ、朝からね、ずっと訊きたかったんですよね。なんで私が黒幕ってことになってるのかなーって」
「そうかそうか、当然の疑問だなあ」
「知ってました? 私って何十年も戦争してない完全に平和ボケした国から来たんですよ」
「知っているとも。よかったな、故国でその才を潰さずに済んで」
「………………」
シャンシャンシャン。
「ウケる。ちょー過激派だと思われてますよせんぱぁい」
「だまらっしゃい。あんたじゃあるまいし、私は脳内お花畑の変態お姉さんでいいんだよ」
ゴシャン。
プププと笑うギャルにタンバリンでチョップを入れる。
「何も知らない姫役に支障が出るというやつか。ザコルの言う通り何度聞いても笑えるなあ」
クククとジーロが歪んだ笑みを浮かべる。こっちにもタンバリンチョップを入れてやろうと思ったがやめた。
「…コホン。うちのかわいい専属護衛こそは誰よりも過激派なので、私はそのストッパー役として期待されているんです。そのかわいい子がどうしても王都を灰燼に帰したいって言うから」
「せめて隣の王都にしておけと?」
「まあ、そうですね。国を終わらすなとは言われてますが、隣を潰すなとは言われてませんから」
無益な戦争には反対だが、この地の人が、何十年、下手したら何百年もちょっかいをかけられている正真正銘の敵ならば。当事者たる人々が、家族の安寧を守るために撃って出ようとするのを止める資格は私にない。
くる。私は当事者の方に向き直る。
「いいでしょうか、ロット様」
「ひゃい」
当事者は飛び上がった。
「必ず、必ずザコルの言うことを守って行動してくださいね? さもなくば私も『イタズラ』に反対しますので」
ゴシャン。
私は、自然と正座の体勢になったマッチョオネエの額にタンバリンチョップを入れた。
つづく




