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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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そろそろサプライズの時間かなと思って

 馴染みの後輩とラグの上に座り、かんぱーい、とワインを日本式に酌み交わす。

 絶対に飲み過ぎるなと専属護衛からは念押しされているが、今日も目を盗みどこかで一気飲みしてやろうと思っている。


 チャンカチャンカ、と陽気に弦をはじく音がして、数人の男達が楽器を手に入場してきた。


「おおー? 先頭はビット子爵邸警備隊長、後に続くのはぁ〜、我らが野次三人衆だああ、フゥーッ」

「何の実況なのエビー。ふふっ」


 エビーは既に酔っ払っている。一昨日はあまり飲めなかったし、今日くらいいいだろう。


「こうして見ると、一目瞭然でございますね」


 野次三人衆のうちリーダー格っぽい一人は、ビットと容貌がよく似ていた。兄弟というには歳が離れすぎているように見える。親子か親戚か、そんな間柄なのだろう。


 そんなマンドリンっぽい楽器のカルテットの後ろから、なぜだか判らないが商会女子五人がタンバリンっぽい打楽器を打ち鳴らしながら入場してくる。


「何アレ、ウチもタンバリン役やりたかったんですけど」

「私も」


 そしてさらにその後ろから、気まずそうな顔をしたシシがおずおずと入場してきた。


「メインゲスト登場…っ」

「ゆるキャラかよタヌキ」


 私とカズは大笑いである。


「踊れー踊れー」

「何ソレ、呪いですかぁ?」

「精神感応系のやばい魔法とかできないか試してる」

「あっはウチもやる」


 二人で踊れー踊れーと呪っていたら、ブチギレたシシが不良を叱りにきた。






「ミカは人をおちょくる天才ですね。今日こそ腹筋がちぎれるかと思いました」

「え、この邸なりの歓迎の儀式ですよね、私関係ないですよ」

「いや、楽器で町医者を盛り立てながら入場してこいってミカ様の命令だろ」


 なあ、と野次三人衆が顔を見合わせる。


「いつの間にそんな指示を……っ」


 ザコルがまたうずくまった。


「ザコル様!! このお転婆の行動を把握できていないことにもっと危機感を覚えられてはいかがですかな!? 朝から晩まで四六時中張り付いておいて……!!」


 ガミガミガミガミガミ。


「こっ、このミカが本気になったら僕などいくらでも出し抜けます…っくくく」


 ザコルはカラになったジョッキを指差した。さっきどさくさに紛れて一気飲みしてやった。けぷ。


「ウチの姐さんマジサイコー…ぐぇ、ちょ、センセっ、たんまたんま」

「はは、流石は医者殿。人の急所を狙うのがお上手だ」

「タイさん止め…っ」


 シシはエビーを締め上げ、もとい八つ当たりし始めた。


「俺らだけじゃあ華がねえなと思ってな、ピッタちゃん達も誘っといたぜ」

「天才ですか」

「ははは褒めんなよう」


 キャスティングも天才だが楽器のチョイスも天才だ。タンバリン隊が加わることによって、おちゃらけ度がぐんとアップしたように思う。


 そんなタンバリン女子達はオーレン達の方へ挨拶しに行っている。酔っ払いギャルは「タンバリン貸してー」と絡みに行った。


「伝説の工作員の目を盗むたぁ流石はイタズラの首謀者だぜぇ、俺ぁこーんなに楽しみにしてんだからな、よろしく頼むぜ聖女様」

「おい叔父貴、イタズラって何だよ」

「お前らも付き合えよ。マージから好きに使えって便りもらってっかんな」


 げっへっへ。相変わらず盗賊みたいな下卑た笑い方をする御仁である。どうやら、ビットから見てこのゴロツキ…じゃなかった野次三人衆は、甥と甥の友達二人といった感じの間柄のようだ。


「うちの孫ぁ元気か」

「孫、ああガットかぁ? 元気に決まってんだろ、アイツ俺ら見るとすぐ雪かドングリ投げつけてくんぜ」

「はあ? ドングリ?」

「こないだ藪から狙われたよな。また精度が高えんだ腹立たしいことに」

「ドングリ先生とその手下の教育だろ」


 被害者の野次三人衆は、幼児軍団に武器を持たせた張本人を睨む。


「ガットは優秀ですよ。数もよく数えられますし、体の使い方も上手です」


 張本人はしれっと真顔で答えた。真面目に悪さする、を地でいくドングリ先生である。


「うちの孫の面倒も見てくださったんですかい、さぞいい経験になったろうな。ありがとうございやす、ザコル坊ちゃん」


 ビットはぺこりと頭を下げた。


「ビットさん、ガットくんのおじいちゃんだったんですね。お孫さんがいる歳に見えないのに」


 ビットは四十歳そこそこくらいに見える。まあ、二代続けて二十歳かそれより若い時に子供を作っているのならアラフォーでもおかしくはないか。

 というか、野次三人衆の一人とガットの親のどっちかは従兄弟同士なのか。どうりで軽口を叩き合っていたはずだ。


「嬉しいこと言ってくれんじゃねえか聖女様。俺は生涯現役でいるつもりだかんな、そこんとこよろしく!」

「うるせえ、上の世代がどかねーから俺らにいいポストが回ってこねえんだろが!」

「お前らは単に精進不足なだけだろが。実力で這い上がりやがれ」

「はっ、俺ら最近あの鬼畜仕様の鍛錬続けてっかんなあ、叔父貴相手でも負けねーぞ!」

「そーだそーだザコル様に比べたら全員ザコだぜザコ」

「言ったなお前ら、明日覚悟しとけよゴラァ!」


 わーっ、むさい男達がじゃれ合う。


 よっこらせ、と私は立ち上がった。同時にザコルとタイタも立ち上がる。


「ミカ殿、どちらへ」


 タイタがそう声をかけてきた。まだシシに締め上げられているエビーを横目に伺いつつ。


「そろそろサプライズの時間かなと思って」


 私は、こちらに向かってきている気配の方に体を向け、そして一礼した。




つづく

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