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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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うるせえんだよお花畑が

「ミカ様あ! うふふふふふー」


 オーレン達への挨拶を終えた私達に向かって、ミリナが手招きしている。


「ミリナ様、ご機嫌ですねえ」

「だってね、コマちゃんが会いに来てくれたのよ!」

「おい、てめえに会いにきたわけじゃねーぞ」

「まあ。そうなの…。でもいいわ! 私が嬉しいのだもの!」


 うふふふふふふふー。


 ミリナもギャルマインドに触発されたのか、人の事情より自分の気持ちを優先することにしたらしい。いい傾向だと思う。


「コマちゃんね、ジーク領のこと教えてくれるってちゃあんと約束してくれたわ!」

「てめーがしつけえからだいい加減離れろ人妻!!」


 めちゃくちゃすりすりしてくるミリナに暴言を吐いているものの、本気の抵抗はできていないコマだ。ミリナはおそらく、コマが人肌と同じ体温を持たない体質だと知っている。


「私ねえ、人妻じゃあなくなっちゃうのよ。でも、娘にしていただけることになったの」

「ほーん、直に養子に入んのか。そりゃ懐の深えお家なこった」

「でもねえ、心配なの」

「何がだ」

「あの人よ、あの人。決まってるでしょう?」

「はあ? この後に及んでアレの心配でもしてんのか? てめーも大概頭オカシーこと自覚しやがれ」

「もうっ、そんな言い方ないでしょう!? だって私っ、もう話もできなくなるなんて嫌なのよ。縁あって家族になった人なのに!」

「家族ぅ? 相変わらず頭ン中お花畑な女だぜ。いいぜ、外に出せるよう俺が代わりに躾けてやる。丁度試したいことが」

「ダメよ! こないだミカ様にお任せしてうっかり廃人にされてしまうところだったのよ! 私、もう人任せにはしないと誓ったわ!」


 お前うっかり廃人にするところだったんか、と目線で問われた。コマとサンドとマヨに。


「やだなあ、廃人になんてしませんよ。してあげません」


 にこぉ。


『いきじごくだあ…!!』


 少年二人のはしゃいだ声に振り返る。ゴーシとイリヤだ。


「あれ、イーリア様の褒め褒めタイムは終わったの君達」

「うん! リコがらんにゅーしてきたから」

「くふふっ、リコがね、おばあさまたちに『かーいい』を見せにきたんです」

「ふふっ、そりゃ中断せざるを得ないねえ」


 会場の中央の様子をうかがう。フリフリのエプロンやリボンをつけて仁王立ちするリコを、イーリアとザラミーアとオーレンが大興奮で可愛がっている。


「ザコルの手編みヘッドドレスも褒めてもらえましたねえ」

「そうですね」

『はあ!? 手編み!? そのレースが!?』


 私の頭頂部にサンドとマヨの視線が集まった。


「ちょっ、見せてみろ、何なんだお前、これ以上面白くなってどうするつもりだザコル!」

「別に僕は面白くなろうと思ってこれを編んだわけでは」

「びっくりでしょう? 私ねえ、こーんなに編み物上手な弟ができたのよおー、うふふふふー」

「編み物上手とかいうレベル超えてません!? こんなすごいレース間近で見るの生まれて初めてなんですけど!?」


 じろじろじろじろじろじろ。


 レースとともに、なぜか私の顔まで舐め回すように見るマヨの視界をサッとザコルが手で遮った。


「まだ触ってませんよコリー坊ちゃん」

「ミカが減るので見ないでください」


 えっ、と声がする。


「ミカさま、見るとへっちゃうの!?」

「こ、言葉の綾です。ええと、あまり見られると減るような気がするので見ないでほしい、と言いますか」


 イリヤのピュアな反応にザコルが慌てて説明しだし、その様子にサンドとマヨ、私の後ろにいるエビーとタイタも吹き出した。


「あははっ、そんなんでへるわけねーだろ、イリヤ」


 ゴーシにも笑われ、イリヤは、むう、と頬を膨らませた。


「おれも、しょーらいすきな子できたら『へるから見るな』って言おっかなあ」

「もうゴーシ兄さまったら! ぼくにはぜったい見せてください! へらないんでしょ!?」

「……ええー、おまえモテそうだもんなあ、ホントにへりそうだからやだ」

「へらないもん!! 見せてくれなかったらやぶのなかから見るもん!!」


 イリヤは将来、ゴーシのお相手の方に同じセリフを言われそうな予感がする。




「もう行きましょーよ、ウチ早く酒飲みたぁい」

「はいはい」


 ずっと腕にくっつけていたギャルが騒ぎ始めたのでミリナ達のグループを離れる。

 てけてけとコマが追いかけてきた。


「おい姫。あいつらから聞いたぞ、お前死にかけたらしーな。何やってんだこのクソ姫」

「お耳が早いですねえ。ちょっとした理科実験のつもりが大ごとなっちゃいまして」

「いいか。死にかけてまで『俺ら』を助けようとすんのはやめろ」

「俺ら……ついに、自分が魔獣枠だとお認めに」

「俺は魔獣じゃねえがお前の認識の問題だ」


 フンッ。


 コマはどうやら『化け物』要素をひた隠すのをやめたらしい。隣のザコルもちょっと驚いているし、エビーとタイタは顔を見合わせている。


「ご心配ありがとうございます。実は昨日、無意識下の譲渡っていうのをコントロールするのに成功したんですよ。まだ完璧じゃないと思いますが。さっき、魔力枯渇を恐れるあまり魔力過多の方で大ごとになりかけたので、引き続きもらえる時はもらってくれるとありがたいです」

「譲渡をコントロールだぁ? へっ、お前こそいよいよ魔獣じみてきやがったな」

「優秀な魔法士と言ってくれません?」

「触りもせず意図的に譲渡なんかできるのはあの中でもミリューくらいだ。人間はもちろん生半可な魔獣にもできねえ『力技』だぞ」

「そう言って玄武様にも呆れられたんですけど、魔力量が多すぎるのは私のせいじゃないんですよねえ」

「なんでゲンブに『様』つけてんだよ」

「玄武って、私の世界の神様の名前なんですよ。たまたまですが」

「たまたま、か。ケッ、俺様相手にカマかけなんざ百年早えんだよボケ」

「ふふっ、やっぱりコマさんって親切ですよねえ」


 カマかけか、と反応してくれる時点で、オーレンが私の世界の関係者であることを知っている、と自白してくれたようなものである。


 うるせんだよお花畑が、と捨て台詞を吐いて彼は去っていった。




「会話が高度すぎてよくわかんなかったんですけどぉ、先輩って男の娘ちゃんのこと助けてたんですかぁ?」

「まあね。それを補って余りあるくらい、こっちが助けられてもいるけど」

「ふぅん、そんであんなに懐いてんだぁ」


 コマが何者なのか、具体的に知る人は本人も含めてほとんどいない。ほとんどいないが、一人だけ具体的に知っている可能性がある人がいる。だからコマも隠すのをやめたのだろうか。


 イーリアはキャラバンの到着早々、オーレンを引きずりながらコマを連れていった。彼らの間で、何らかの話し合いが持たれたと考えるのが自然である。




つづく

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