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誰が召喚したか知りませんが、私は魔獣ではありません  作者: もっけのさひわひ


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手土産にもよさそうですね

「今日もカズ様が一枚上手だったわね」

「ふふっ、何だかんだ言ってラブラブよね」

「ロット様もいっそわざとやっているのかと思うことがあるわ」

「もう、巻き込まれる身にもなって欲しいですよ」

「いつもはマネジ様の役目なのにね。災難だったわねピッタさん」


 くすくすくす。


 ピッタはもちろん、商会女子は誰も『イタズラって何のことですか』などとは絶対に口にしない。そのコンプラ意識の高さは他ならぬこのサカシータ領で一定の評価を得ている彼女達である。でなければこの子爵邸でここまで自由にさせてもらえていないと思う。


 ただし『ロットがカズのエプロンをミリナに何枚も縫わせていたらカズに嫉妬されてやり込められた』みたいなエピソードは近日シータイにて公開されることだろう。シータイにいる領民達がよってたかって聞き出すという表現が正しそうだが。


「よし。やっと納得のいくものが編めました。ミカ、髪を借りても?」

「あ、はいどうぞ」


 借りるも何も、常日頃から占拠しているだろうなどとは突っ込まない。ザコルは出来上がったヘッドドレスを私の髪に当てた。

 結び紐までひとつながりのレースリボンで仕上げられたそれは、素人目にも『博物館級』と判る逸品だった。頭の上には緻密なレースの花が何輪も咲き、レースのリボンは私の髪に編み込まれて長いおさげを彩る。


「わ……!!」

「まあなんて……」

「これは……」


 あまりに見事な出来栄えに、その場の人々は全員言葉を失った。





「あれが噂の手作り作品授与…!! しかも手ずから髪に編み込むところまで見せていただけるなんて!!」

「ファンサがすぎる」


 以前、ザコルが自分で編んだマフラーを私の首にかけてくれた、という話を気に入っているララとルルが咽び泣いている。


「ですから、こんなレベルのお品は王族だってそう何度もお目にかかれないと思います。一つにつき金貨一枚だなんて烏滸がましかったです。もっと用意しますからどうか言い値で買い取らせていただきたく」

「では、欲張って銀貨三枚ではいかがですか」

「話を聴いていましたか猟犬様!! 安すぎると何度言えば」

「…ふっ、あなたも人が好いですね、ルーシ」

「ひっ」


 突然笑いかけてきた猟犬様に、ルーシは変な悲鳴をあげた。


「…っダメダメダメダメダメ!! 猟犬様!! ミカ様以外の女には全て有象無象を見るような目をしてくださいませんと!! 解釈違いです!!」


 くわっ、目をむいたルーシにザコルが「解釈違い?」と首をかしげた。私達を箱推しする勢は今日も強火である。


「あなたはミカの『嫁』でしょう。どうして邪険にする必要が?」

「それでもです!!」


 私の嫁、という言葉は特に否定されなかった。

 だが、私もなんとなく分かっているので過剰な嫉妬などせずに済んでいる。ザコルは、私と仲良くしている人間を男女問わず尊重しているだけであって、そこに深い意味などない。私の彼氏は、そういう人である。


「猟犬様。あのヘッドドレス、アロマ商会でも一つ買わせていただけないでしょうか。売るというよりは本店のエントランスに飾ることになると思いますが」

「ユーカもですか。では銀貨一枚で」

「安すぎます」


 大商会もセリに参加し始めた。


「ザコルはレース職人としても稼いでいけそうだなあ。野生とは程遠い趣味だが、特技が色々とあって羨ましい限りだ」

「たった今生まれた特技すけどねえ。さっすが兄貴、何やらせても最終兵器だぜ」

「林檎の大量カット技術もお見せしたかったです、ジーロ殿」

「あの弟は調理もできるのか。知らんかったが、刃物の扱いは兄弟イチだからな、納得だ」


 男達は慣れたもので、ザコルの高すぎる家庭科技術にもはや何の疑問も抱かなくなっている。


「レースのやつロリっぽくてかわいー、ウチも一枚ほしーいとか言える雰囲気じゃなぁい」

「くれちゃいそうだから黙っときなさいよ、流石のあたしもアレはねだれないわ」


 喧嘩ップルはレースの査定金額に慄いている。


「ふむ、商会の精鋭であろう君達がそこまで評価してくれるのならば、この髪飾りは領主クラスへの手土産にもよさそうですね。ミカ、いくつか穴熊達に持たせるのはどうでしょう」

「いいアイデアですね。テイラー、ジーク、サギラ領以外で交渉する時なんかにも使えそうです」

「ユーカ、カモミ。持っているレース糸を全て売ってください」

「はい、ただいまご用意いたします」


 ザコルはさらに使用人を呼びつけ、街の手芸屋にあるレース糸を取り寄せるようにと託けた。





 エプロン作りの会は盛況のうちに幕を閉じた。途中からヘッドドレスの競り会場と化していたが、みんな楽しそうだったし開いてよかった。


「ローリさん、カルダさん、お待たせしました」


 私は部屋の外で待機していた騎士に声をかける。


「見て見て、これザコルが編んだんですよ」


 私は自分の頭に乗った純白のヘッドドレスを指差した。


「こっ、これを!? というか何ですかこれは!?」

「細かすぎてとても人の手で編んだようには」

「それがまたものすごいスピードで編んでくれてですね。とても人の手には見えなかったです」

「人外級の手捌き……!!」

「もはや何をやらせても神……!!」


 咽び泣く同志達。思った通りの反応に大満足である。


「それで、かなり時間は押していますが、一緒にお茶でもどうですか? マネジさんも同席するんですかね」

「ぜひ、と申したいところですが、ひとつ報告申し上げます。先程、邸の正門にキャラバンが到着いたしました」

「へえ、積荷は」

「大量の毛糸と食料、それから医師二人です」

「あ、着いたんだね。で、医師、二人……?」

「はい、二人です」


 ドナドナされてくる医師は一人だったはずだが。

 私は首をひねりつつ、護衛達を引き連れて正門の方へと急いだ。




つづく

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