思った以上に凶悪なこと考えてた
「こらこら、ピッタを困らせるんじゃないよ」
「えー、ただの確認じゃないですかぁ」
私は席を立ち、意地悪そうな顔でニマニマする後輩に軽くチョップを入れる。
「ピッタはモナ男爵様の直属なんだから、その妹のあんたの言うことは無視できないけど、モナ男爵様の指示に反することはできないはずだよ。ほら、社員だからって仕事放棄してまで社長の親族の我が儘に付き合えないみたいな…」
「うっわ、仕事中に社長親族のワガママとかだっる」
明確に想像できたのか、カズの顔がいかにも嫌そうに歪んだ。
「変なこと言ってごめぇん、ピッタぁ」
「あ、いえ…」
ほんの少し身構えたピッタは緊張を解いた。
「ですが、主、リキヤ・モナ男爵様からはもしカズ様がお困りのようなら助けるようにとの指示は受けておりますよ」
「えっ、マジで? あのホスト…じゃなかった、リキヤ様そんなこと言ってくれたのぉ?」
現モナ男爵リキヤは、王都からの難民の状況や水害支援状況の視察などため、私達が子爵邸へ発った後にシータイを訪問している。その時にカズとも初顔合わせをしたようだ。
「はい。サカシータ騎士団で保護を受けているならそうそう必要ないだろう、ともおっしゃっておりましたが、カズ様はご令妹になられてまだまだ日が浅いですし、身の振り方などでお困りのようなら手助けするようにと言い遣っております。ただし、サカシータ子爵様やテイラー伯縁者であるミカ様のご迷惑となるようなご命令はおききできかねますが…」
それをしてしまうとモナ男爵の立場を悪くしてしまうからだろう。
「身の振り方かぁ…。例えばぁ、だんちょーにしつこくされて困ってたら逃がしてくれる的な感じぃ?」
「はい。そんな感じです」
「え?」
ミリナにあれもこれもと注文をつけていたロットが顔を上げる。
「そんな感じなんだぁ」
「そんな感じですね」
ふふっ。二人は何とはなしに笑う。
「えっ、何っ、あたしが何なの!?」
「ピッタはウチの味方ってことぉ」
ねーっ。カズはピッタの腕を取った。
「えっ!? 何が!? 味方!?」
「ほらロット様、私に構いすぎだと言いましたでしょ」
「はあ? だだだってこれカズのエプロンよ!? 縫ってもらってるだけなのに何が悪いのよ!?」
ミリナにも苦笑されてより慌て始めるロットである。
「ごめんなさいね、カズ様。もう少しででき上がるわ」
「ミリナ様は何も悪くないですけどぉ。だんちょーってホント解ってないですよねぇ」
「ええ!? ホント何なのよっ、二人で何話してたわけ!?」
にまぁ。カズがまた意地悪そうに口の端を吊り上げる。
「何でもないですよぉ。ピッタに命令してだんちょー誘惑させてみよーかと思ってただけでぇ」
『はあ!?』
ロットとピッタが同時に目をむいた。
「思った以上に凶悪なこと考えてた!! やめてくださいよっ、騎士団長誘惑する他領の工作員とか大問題じゃないですか!?」
「そぉ? イーリア様あたりに超歓迎されてすっごい勢いで外堀埋められて嫁にされちゃうと思う」
「ひぇ…」
「ウチの親ならありうる!! 逃げられなくなるから絶対やめときなさいよピッタ!! カズの命令でもよ!!」
こくこくこくこく。
「つか、だんちょー意外に女にキョーミあるみたいだしぃ、ウチが飽きたらソッコーで嫁候補と二人きりとかにされますよぉ」
ちら、カズは子供達の相手をするララとルルに視線をやった。
彼女達はまだサカシータ子爵家の養子になると頷いていない。現代日本人からすると少々エグい方法に感じられるかもしれないが、子爵家が彼女達を囲う方法は何も養子縁組だけではないのだ。むしろ『推し兄弟に溺愛されました』の方が正攻法かもしれない。それを思えば、他の兄弟に嫁げと命令せず、そのまま養子にと言ってくれているサカシータ子爵家がいかに貴族家として良心的なのかが判る。
「嫁候補って何!? ピッタのことじゃないの!? ていうか飽きないで、捨てないでちょうだいカズううう!!」
「すがってくんなし。萎えんですけど」
追うのはいいが、追われると途端にスンとなる粘着ギャルである。
「ああ、でもそーですねえ。『イタズラ』に連れてってくれるんなら、許してあげますよぉ」
にんまああ。
「そっ、それは、ていうかどうして知って」
「自分で言いふらしまくってんのに何言ってんですかぁ。内緒にできてると思ってんのマジウケるんですけど」
ぴと。カズがロットの胸に身を寄せる。ロットはビクッとした。
「ダメとか言ったら、分かってますよね?」
必殺上目遣い。
ちーん。ロットが白目になった。カズの勝ちである。
「ナカタが同行してくれるのならもう少し作戦の練りようもありますね。ロット兄様が先鋒では、特攻以外の戦法を取れないなと考えていたんです」
ザコルがより精緻な文様を編み進めながら、世間話でもするような感じで話し出す。
「ああ、ザコルの言う通りだ。我らが騎士団長は衝動的で好戦的な上に脚も速いからなあ。全員を置き去りにして一人正面から突っ込んでいくのでは戦法もクソもない」
ジーロが世話話に応じる。
彼の言う通り、配下の騎士達を全員置き去りにしてシータイに乗り込んできたり、マージの制止も振り切ってシータイから子爵邸まで駆け抜けたり、思えば前科しかない騎士団長様である。
「同じ速さで走れて手綱を握れる者が都合よく現れ、一切の世話を引き受けてくれるなど僥倖でしかないな」
「同感です」
「大事にしろよ、ロット」
わなわなわなわな。
「あたしのこと何だと思ってんのよザコルもジロ兄も!!」
ムキーッ!!
「お前を心配してやっているんだ。ザコルも、サンドもマヨもビットもな」
全くしょうがない弟だとでもいうように、ジーロは溜め息まじりに笑ってみせた。
つづく




